若返り急成長画像掲示板 2033313


侮辱代理店エイアール

1:メづすりα :

2013/06/15 (Sat) 16:31:59

はい、お電話ありがとうございます。侮辱代理店エイアールでございます。
 はい、御依頼の件ですね。あ、いえ、お名前は結構です。こちらで整理いたしますので。
 はい。
 今回はどういった御依頼でしょうか…
2:メづすりα :

2013/06/15 (Sat) 16:34:20

駅に隣接した大型スーパー。

 あたしはトイレに向かっていた。
途中おもちゃ売り場で2、3歳くらいの女の子がほしい、ほしい、とわめきながら床に転がり手足を激しく動かしていた。
やがて女の子の動きが収まると、スカートの下あたりから黄色い水たまりが広がっていった。
 近くにいた母親らしき人は本当にばつの悪そうな顔をした。

 いくら、子供はかわいい、と言ってもあんな手の掛かる子供はご免ね、とあたしは思った。

あたしは女子トイレに入った。鏡の前に立ち、身なりに乱れがないかを確認する。
目立った乱れはない。金髪に染められた胸元まで伸ばしたストレートの髪。
整った顔立ちで鼻筋がよく通っている。
高校の制服の上からでも十分に、男共を魅惑できるくらい、見える身体の砂時計。全ていつも通りだ。
髪の毛を少し整えたところであたしは財布を開き、今日の稼ぎ
を確認した。
財布には万札が七枚入っている。これはバイトで儲けたものではない。クラスにいる地味で根暗な子、ヤノからカツアゲしたものだった。

 鏡の前でこの使い道を考えているときだった。その変化は突然に訪れた。
いきなり身体全体に捻られるような鈍痛が起こった。だが不快感はない。そして次の違和感は顎下や手などに布が当たっている感覚だった。
あたしは半ば無意識に右手で顎を触った。しかしその顎を触ったものも、指先ではなく、セーターの裾だった。
「え!?」
あたしはすっとんきょうな声を上げて鏡を見た。
小学校高学年くらいのあたしが写っていた。だがその鏡に写る姿も留まることはなかった。
まるで、高速で溶けていく氷のようにあたしの身体は縮んでいく。胸は萎んでいき、その分の脂肪を補うかのようにお腹がぽっこりとしていく。
あたしの身体はマラソンを終えたばかりのように、熱を持ち、そして目眩がした。
スレンダーで小鹿のような手足が短くなっていく。無駄な肉のなかった手足は今やぷっくりと、柔らかい饅頭のようになっていた。
あたしはもう鏡を見ることが出来なかった。洗面台が目線より上にあるのだ。やがてあたしは端の幼児用の段の低い洗面台に気づいた。
制服のスカートは地面に落ち、ワイシャツとセーターはワンピースのようになっている。ぶかぶかになった靴や靴下を脱ぎ捨てながら、あたしはその幼児用の洗面台に向かった。
途中でずり落ちたパンティーが足首に引っかかり転びそうになった。
3:メづすりα :

2013/06/15 (Sat) 16:36:19

鏡は嘘は写さない。
だがこの時ばかりは鏡を信じることは出来なかった。
幼児用の洗面台なのに、かろうじて頭が見えるくらいまで、あたしは縮んでいた。
目はくりくりとしていて、白目をも隠さんばかり。鼻は上を向き、よく通っていたラインを見る影もない。細身だった顎もまん丸で、唇も半開きで、小さなものに変わっていた。
3、4歳くらいだろうか。下手したらもっと幼いかもしれない。
金髪で長髪のはずだったあたしの髪の毛は、幼児特有の薄い黒に変わり、眉毛でキッチリカットされていた。
どのくらい時間がたったであろうか。あたしはしばらく、高校生の制服で遊んでいる小さな驚いた顔の幼児と、鏡越しににらめっこをしていた。
「ハルナさん」
突然名前を呼ばれ、ハッとなった。鏡越しに後ろを見てみると、カツアゲのカモだったヤノが、押さえきれないと言わんばかりの笑みを浮かべ立っていた。
「なによ、あんた」
これはあんたがやったの!?
息を続かず、途中までしか言うことが出来なかった。
「こえは、あんた、が、やったの?」
どうしても一呼吸で言うことができず、本当の幼児のように一回一回呼吸入れてたどたどしく話した。それも甲高く、舌足らずで聞き取りにくい声だった。
「ぷぷっ。ハルナさん、可愛くなったものですね」
どうらや犯人はヤノで間違えないようだった。
「このやおう、あたちを、もとに、もどしあがえ!」
自分でなんの凄みもないと、言ってから思った。そして事実、ヤノはそんなあたしを無視して話し始める。
「ハルナちゃん、そんなお姉さんの服で遊んじゃ、いけないよ。用意したからこれを着なさい」
ヤノはビニール袋に入った幼児服を鞄から取り出した。
「ふだけんな。あたちは、ちょんなふく…」
「着ナサイ」
妙な響きのある声で話した。するとあたしの身体は途端に反抗をやめ、勝手にヤノからビニール袋をもらいうけた。
「あ、でもその前にその服を脱がなきゃね。ハルナちゃん、バンザイ」
もちろんあたしはそんなことはしたくない。しかしあたしの身体は勝手に、しかもばんばい、と復唱しながら、両手を挙げていた。母親と着替えを一緒にする幼児のように。
ぶかぶかな制服はあっという間に脱がされてしまった。
スカートやパンティーは元からずり落ちていたために、あたしは完璧に丸裸になってしまった。
「恥ずかしい訳ないよね、だってハルナちゃんは3歳なんだから」
言いたいことを言うヤノに言い返してやりたかったが、あたしの身体は黙々とビニール袋から服を取り出していた。
まず、手に取ったのはキッズショーツだった。
ベイビーピンクがベースで、ファンシーなクマさの顔がまぶしてある。生地は分厚く、ウエストや足を出す穴には緩いゴムが仕込んである。いかにも幼いデザインで顔が赤くなる。
 だが一番の問題点は、前方の部位を中心に黒いしみが広がり、異臭と共に水が滴っていることだった。
あたしは目を丸くした。
「どう、ハルナちゃん?その服はさっきおもちゃ売り場でだだこねながらおもらししちゃった子のものなの。今のハルナちゃんにはピッタリだと思わない?」
必死に首をヤノの方に向けると、さっきの女の子とその母親が(女の子は新しい服を着ていた)魂の抜けた表情で立ち尽くしていた。
冗談じゃない。こんなもの着せられてたまるか。抵抗を試みるも、身体は言うことを聞かず、淡々とかわいらしい、それでいて小水で濡れた、ショーツに足を通す。
だが足をあげたそばからバランスを崩し、尻餅をついてしまった。そういったところまで、幼児になってしまったようだ。
ヤノはそんな私をニヤニヤとしながら、眺めていた。
クソ、と心の中で呟いた。
「ハルナちゃん、いけまちぇんね~。おトイレはあんまり綺麗じゃないから、地べたについちゃいけまちぇんよ~」
追い討ちをかけるようにヤノが幼児口調で話す。あとで覚えていろ。
しかし、私の身体はそれでもこの幼児用ショーツに足を通すのに必死だった。
あまり綺麗とは言えないトイレの床に生尻を置き、身体をくねらせ懸命にショーツを上へ上へとあげていく。
足に冷たいものが走った。そしてそれは痒みへと変わった。小水の冷たさはやがて膝へ、そして腰全体に広がった。
あたしは両手を使い不器用に立ち上がる。こんな物、早く脱いでやる。そう思っているのに身体はまるであべこべで、ショーツをさらにおへそまであげた。
ぐしょりとした触感が下半身に広がる。ショーツがそれによって絞られたのか、冷たいものが足をつたり落ちた。
「は~い、よく履けました~。ハルナちゃん、偉い、偉い」
ヤノは本物の幼児を誉めるように膝をおり、あたしの頭を撫でた。あたしはそんなヤノを殴ってやりたかったが、身体の反応はまったく違った。
「えへへ」
聞き慣れない幼児の笑い声があたしの口から飛び出すと、顔の筋肉が引きつった。
無邪気な笑みがあたしの顔に現れたと思うと、いてもたっても居られなくなった。
4:メづすりα :

2013/06/15 (Sat) 16:38:43

「ハルナちゃん、次はこれだね」
ヤノはキャミソールを手に取った。白色がベースだが、縁取りが眩しいピンク色で全体に花柄が舞っていた。
「ハルナちゃんはひとりでショーツを履けた偉い子だから、キャミソールは私が着せてあげるね」
ヤノはそういったが、それも確実にあたしに辱めを与えるためだと、確信できた。
なぜならあたしはまた、恥ずかしげもない大きな声で「ばんばい」といいながら、キャミソールをいじめられっ子に通してもらったのだから。
ワンピースが残った。赤と白のキンガムチェックで、スカート部分にかわいらしいひだがたくさんついていた。もっともそれもおしっこでびしょびしょではあったが。
あたしはスカートを上にして両手でしっかり持つと、頭からそれをかぶった。
スカートが髪の毛を、キャミソールを通るたびにおしっこのしみが広がった。
最後にこれまたかわいらしい靴下を靴を掃き終えると、あたしの着替えは終わった。
「それじゃ鏡で見てみましょうね~」
ヤノはあたしをトイレの出入り口にある鏡のところへ連れて行った。
鏡にはスカートからわずかだが水を滴らせている、泣きそうな顔の幼児がいた。格好とも相成って、さっきのおもちゃ売り場の女の子にそっくりだった。
「ハルナちゃん、もうしゃべっていいよ」
あたしはそこで喉が自由になったことに気づいた。
「なにしあがう!まうで、あたちが、もあした、みたいじゃ、ねえか」
「うん、そうだね。だけど気にすることはないよ。あなたはこれからずっと五年間はトイレで用を足す、なんて出来ないんだから」
「ど、どういう、ことだよ」
「あなたは小学校二年生まで、ずっとおもらしの治らない困ったちゃんなんだよ。そういう設定にしちゃったんだ。
だから、今の内に最後のお姉さんパンツの履き心地を堪能することね」
「ふじゃけんなぁ!もとに、もどせぇ」
「くくく、まるで駄々っ子ね。でもここでまだ、終わりじゃないわよ。その服装の持っている記憶をあなたはこれから体験するのだから」

すると景色が水に絵の具を垂らしたかのように歪んだ。
景色が落ち着きを取り戻すと、そこにはカラフルな色とりどりな箱が並んでいた。
そこがおもちゃ売り場であることに気づくのにはしばらく時間がかかった。
 おもちゃ売り場?
そしてあたしはこれからあたしに起こるであろうことに気づいた。まさか、ヤノは…

途端にあたしは真ん中の棚にあるおままごと用の赤ちゃん人形に目が釘付けになった。
それは不思議とあたしの心に強く焼き付いた。
あんなガキっぽいもの欲しくなんかない。
そう否定したい。だがその人形への興味は巨大な渦となり、体中を巡り始めた。
嫌だ、あんなものに。あたしが欲しいのは高級ブランド品の鞄だ、服だ。断じてあんな恥ずかしい人形じゃない。
記憶は、プライドは確かにそう叫んでいる。たが、そうしたものを思い浮かべても全く欲しいとも思えない自分がいた。
 頭ではガキっぽくて恥ずかしい、という認識なのに、あたしにはもはや人形以外目に入らなくなっていた。
「ほしい…」
無意識の内にそう呟いていた。 それがダムの決壊の合図だった。あたしの小さな頭に様々な幼稚な空想が飛び交った。

あのこのなまえは、あみちゃんで、あたしはあみちゃんのままなの。
あみちゃんはすききらいをするから、あたしは、あみちゃんに、めっていうの。
あみちゃんはかなしそうなかおをするけど、あたしがすききらいすると、おねえちゃんになれないよ、ていうと、わかったっていってきらいなやさいもたべるの。
5:メづすりα :

2013/06/15 (Sat) 16:40:11

あたしの幼稚な空想はどんどん大きくなる。こんな恥ずかしいこと考えたくないのに、止めることは出来なかった。
「まま、あのおにんぎょうさんがほしい」
とうとう押さえきれず、そう言った。ママ?誰の事だろうか?あたしはそのママと思われる人物を見た。
ヤノだった。
ヤノがあたしの母親だって?冗談じゃない。だがヤノの不思議な術でヤノをママと呼ぶことしか出来ない。
「ハルナちゃん、それじゃあ、お誕生日にね」
ヤノはいかにも母親らしく優しく諭す。
「いや、はるなたん、いま、ほしいの!!」
あたしは自分で自分の口調に驚いた。自分の事をはるなたんなんて呼ぶなんて。私は心の中でひどく赤面した。もはや身体は幼児としてしか動かない。
「まま、あのおにんぎょうさんがほしいのっ!ほしいのっ!!」
目頭がカァッと熱くなった。身体に何が起きているのか、起きようとしているのか、手に取るように分かった。
そんな。あんな人形なんかのためにこんなになりたくない。あたしは高校生なんだ。我慢の知れない幼児なんかじゃない。
だが、あたしのそんなプライドはヤノの次の一言で脆くも無意味になった。
「駄目よ。さあ、帰りましょ」
「いやぁ!おにんぎょうさんがほしいのっ!!」

金切り声で叫ぶと急に呼吸が苦しくなった。あたしは激しく泣き出したのだ。
 「ほしいのっ、ほしいの!!」
あたしは手をつなごうとしたヤノの手を振りほどいた。
 「ハルナちゃん!」
  ヤノはいかにも母親らしくあたしをしかりつける。
 もちろんあたしを辱めるための演技であろうが。
 あたしは床に寝転がった。
 周りの客の視線があたしに集中しているのが分かった。
 
 見んじゃねえ。体が勝手にやってしまうんだ。
6:れな :

2013/06/15 (Sat) 16:52:51

すごい新作が出てきましたね〜(≧▼≦)

不良をこらしめるシチュは大好きです(*^o^*)

あとねたみや嫉妬とかもw

ぜひ続きをお願いしま〜す(*^-^*)
7:メづすりα :

2013/06/21 (Fri) 23:39:20

あたしは身体を動かして必死に訴える。あのお人形さんがほしい。ほしいのだと。あれ以外にほしいものはない。
大人としての自覚とプライドがねじれていく。女子高生としてあたしがほしいのは何だっけ?
あんな人形ではない。そのはずだった。しかし本当にそうだったっけ?あのお人形さんはあたしに眩しい夢を見せてくれる。あれさえあればあたしはママになれる。
だからあたしはあれが欲しくてたまらないのだ。
どうしてママは分かってくれないのだろうか。
あたしの心はだんだん身体に近いものになっている。静かにしぼんでいく女子高生の精神で冷静にそれを認識した。
このままでは本当に見かけ通りの幼児になってしまう。傍目からはとっくにそうであっても、あたしはまだ高校生としてのあたしでいる。
どうにかしなければ。自分を強く持たなければならない。ヤノの思い通りになってはならない。自分にムチをうつ。
あたしは高校生。こんな身体であってもあたしは高校生だ。
あたしはどうしてこんな事をしているのだろう?
―あのおにんぎょうさんがほしいから。
 違う。あたしは高校生だ。あんな物を欲しがるのは赤ちゃんだ。
―ちがうもん。はるなたん、おねえたんだもん。おままごとでままのやくができるのは、おねえたんだけだもん。
 "はるなたん"が"あたし"を浸食する。あたしの内側にあるあたしが削られていく。実感はないがたしかに確信できた。
 "あたし"が削られる度にあたしの言動は稚拙なものになっていく。
 身体は獣のような叫び声をあげ、ひっくり返った甲虫のように手足をばたつかせる。
8:メづすりα :

2013/06/21 (Fri) 23:41:01

「はるなちゃん、いえ、ハルナさん」
今まで母親ぶっていたヤノが突然いつもの口調で口を開いた。
「あなたにちょっと面白い魔法をかけてみたわ」
身体は相変わらず暴れてはいたが、意識ははっきりとしている。ヤノの声は高校生としてのあたしが理解できた。
「あなたの大人としての自覚をあなたの"とある場所"に入れたわ。それがあなたの身体から離れてしまえばあなたは正真正銘の三歳児になれるって訳。逆にいえば身体にある限りはあなたはその意識を保てるわ。さあ、どこに入れたか分かる?」
ヤノはあたしに訪ねた。そんなことは分かる訳がないし、分かったとしてもあたしは今言葉に話せる状態にはない。
「それはね、ハルナさん」
ヤノも返事には期待していないようでひとりで話し出す。

「あなたの膀胱のおしっこの中よ」

意味わかるかしら、とヤノは続けた。あたしにその意味は分かる。"はるなたん"には分からなくとも、あたしには分かる。そしてその意味を知り愕然とする。
もしもヤノの魔法が本当なら(今更疑う余地もないが)あたしはおもらしをした途端、いや、キチンとトイレで用を足したにせよ、あたしの意識は消える。

「いや、いやああぁ」
あたしは必死にヤノに抗弁する。それは幼い喉を震わせ幼い口を通り幼い声としてあたりに響く。
第三者からしてみればそれがだだをこねる幼児の癇癪なのか、大人の意識が必死に絞り出した声なのか判別はつかないだろう。もしかしたらヤノにだってついていないかもしれない。
9:メづすりα :

2013/06/21 (Fri) 23:43:02

あたしはおもちゃ売り場での幼児を見ていた。散々暴れていたはずが、いきなり静かになり水たまりを作る様子を。
ヤノはあたしに服装の持つ記憶を追体験させると言った。だとすれば次に起こることは避けられない。ヤノは避けられない事実にわざとこんな魔法を仕組んだのだ。憤りを感じる。激しい憤りだ。そしてその憤りは幼児の体を通り癇癪として体現される。

やがて下半身に重みのような違和感が感じられる。もちろん生理などではない。もっと幼いころから感じていたもの。疑いようのない―
―尿意だ。
意識してはいけない。意識してはいけない感覚だった。一度意識したが最後、生物の持つ最も原始的な欲求の一つとして身体が反応を始める。
最優先事項として頭が鈍い命令に支配される。時間が経つにつれその命令は鋭利になっていく。
排出せよ、と。

「だめえぇ、だめぇ」
あたしは自分の意思で声を荒上げ身体をよじった。結果的には何一つ先ほどと言動は変わってはいないが。
「はるなちゃん、こっち見てごらん」
  ヤノが混乱しているあたしに声をかける。あたしは無意識のうちに向いてしまう。
  そこには先ほどの女の子、この服の持ち主がたたまれたあたしの制服を手に持ち、下着すらも身に着けず立っていた。ヤノの魔法のせいなのかその姿を不審に思うものはいない。
「見てな」
  言うが早いが女の子の背丈がものすごい勢いで伸びはじめる。パーツのひとつひとつがはっきりし凛々しい、それでいて美しい顔立ちになる。
  胸は大きく膨らみ、腰はくびれそしてまたおしりが膨らむ。幼稚園にいけるかも分からない年齢だった少女はあっという間に年頃の美しい美女になった。
  そして少女はさも当然のことのようにあたしの制服に袖を通す。もちろん下着も。
  ついさっきまでと服装が入れ替わっていると言っても信じてくれる人はいないだろう。
  制服に身を包んでいたはずのあたしはかわいらしい下着を着、ワンピースを着、幼児のようにだだをこね、今まさにおしっこを漏らそうとしている。
  方やこのワンピースを着ていた少女は歳の割に大きな胸をブラジャーでしっかり押さえ、丁寧な化粧をほどこし、冷静にことの成り行きを見送ろうとしている。
10:メづすりα :

2013/06/21 (Fri) 23:44:55

  様々な思いが頭を交差し、考えがまとまらない。
  その混乱は通常ではありえない出来事に対する戸惑いかもしれない。
  自分に辱めを与えるヤノへの憎しみかもしれない。
  恥ずかしい自らの惨状をそれほどの人数ではないとはいえど人前でさらす羞恥かもしれない。
  思考そのものが幼い未発達な脳に影響してしまったのかもしれない。
  今まさに決壊の時を迎えようとしている膀胱が思考のノイズになっているのかもしれない。
  
  あたし次の瞬間、股間に解放感を覚えた。

  ヤノの魔法か、いつの間にか乾いていた下着に再び不快感が襲う。
  一度出てしまえばもう止めることは出来ない。
  この下着はおむつでもなければトレーニングパンツでもない。濡れればその分だけ液体とともにべたりと張り付く。この上なく気持ち悪く。
  液体はショーツを貫通しスカートまで広がる。
  スカートをも超えたあとはあたしがあの時見た通り、水たまりとなる。
  
  膀胱はこの上なく歓喜に震えている。
  冤罪で独房に入っていた者が何十年かぶりに外の空気を吸ったかのように。
  あたしもそれは歓喜として知覚する。たとえそのあとの結果がどんなに不快を伴うものであったとしても。
  だが、歓喜とともに一度も感じたことのない感覚があたしを襲う。あたしのなかで“重り”の役割をしていた何が消えていく。
  空腹感にも似た強い損失感。
  脳みそが絞られ、かき回されるような感覚。今まで後生大事にしていたものがすっぽり盗まれていく。
  膀胱の中が空に近づくにつれ、あたしの意識もまた遠のいていく。
  夢をみているような感覚に襲われる。
  違う。
  いままでのあたしのアイデンティティーが“はるなたん”の夢として抹消されようとしているんだ。
「いや、いやあ、いやああぁぁー」
  あたしは薄れゆく意識の中で必死にもがく。
「ハルナさん。安心してください。私がしっかりそだててあげますよ。今度はいじめっ子じゃなくて、いじめられっ子になるくらい素直でいい子ね」
  ヤノはあたしの耳元でそうつぶやいた。
  ぐるぐると視界が定まらなくなる。高熱にうなされているときのように視界に霧がかかる。
  ヤノの悪魔のような笑みが視界の端に映った。
  ああ、これであたしはお終いなんだ。
  そう思ったとき一瞬だけ視界が安定した。その中央にいるのはヤノではなくあの少女だった。
  少女の唇がわずかに動く。独り言を言っているのだろう。
  距離とあたしの状態から言って聞き取れる訳はない。だがこのときばかりはなぜかはっきりと、まるで集音マイクのように少女の言葉があたしの耳に届いた。


   いくら、子供はかわいい、と言ってもあんな手の掛かる子供はご免ね。

  
  そしてあたしは“はるなたん”になった。
  
11:メづすりα :

2013/06/21 (Fri) 23:49:25


   ―はい。
   確かに受け取りました。領収書を。
   またのご利用をお待ちしております…

   いやはや、このたびのお客様も非常にこっておいででしたね…
   全く「代理店」とは言ってもやはりお客様のほとんどは自分の手で制裁をくだすのですね。
   「プランナー」に改名したほうがいいかもしれませんね、はは。
   おや、ちょっと失礼します。
   また電話がなっておりますので…


  とある少女の年齢退行(エイアール)

             <了>
12:メづすりα :

2013/06/22 (Sat) 00:11:15

以上となります。
長編を期待された方にはその期待を裏切る結果となってしまったかもしれません。

一度目の投稿でだいたいのシュチュは終わってしまい、二度目の投稿は薄味な展開になってしまいました。

自分はTS小説をたどりながらここにたどり着きました。
そのせいなのか某幼女セールスマンのようなシェアワールドを強くこの界隈にも望むようになりました。
侮辱代理店エイアールはそんな思いからつくった設定です。

稚拙な設定ではありますが、もしもこの設定を使いたいという方がいらした場合は二次創作スレでなく遠慮なくこのスレに書き込んでください。
シェアワールドとしてぜひともお願いしたいことです。

無論、自分も時間をみて書き続けるつもりではありますが、正直その頻度は決して高くありません。
みなさまのご協力を仰ぎたいのです・・・


とある不良の年齢退行に関して、一応後日談はネタとしては考えてあります。考えてはありますがまだ文章にできる段階にはありません。

むしろ今は新しい被害者(?)の話が文章として固まってきています。
気が向けば書くかもしれませんが、やはりいつの話になるやら…
皆目わかりません。

自分はリライト作業というものを全くしておりません。
誤字脱字等ありましたらご指摘おねがいします。

長文失礼しました。

13:Torainu :

2013/06/22 (Sat) 00:46:20

メづすりαさん

大変面白かったです
もし「キチンとトイレで用を足した」場合、ストーリーはどうなっていたのかなと想像してみたのですが、きっと、自分で用を足せたという達成感とともに自我を失うのではないかな…、という結論になりました

客観的に自分を見ているはずなのに、だんだんと幼児の思考に侵されていく…
この部分が本当に良かったと思います
気が向いて、次の話をここに書いてくれることを期待しています

某幼女セールスマン…
きっとあの子のことだな、と容易に想像がつきました(笑)
私の世界もTS系から始まったので…
14:メづすりα :

2013/09/11 (Wed) 20:49:14

サダオは高校生で野球部に所属している。運動神経もよく恵まれた体型だが、部活自体には不熱心でレギュラーではない。そして高慢で自分勝手な一面がある。
 立派な体格と整った顔立ちはまず、女性を惹きつけた。もっともそれも彼の性格が露呈するまでの関係だった。彼は女性を愛するというよりは性行為の相手を探しているのだった。
 彼はあっという間に女性を泣かせてしまう。そんな男だった。
 当然彼のことはクラス中の女子、そして情報通の男子に広まった。彼は運動神経や顔は良いが性格が最悪。特に女子の間でこのことは常識となった。だが男うけはよく、良い意味でよく話題の中心になった。

 彼についてわれわれ『エイアール』が調べた情報はそんなものだった。いかにも恨みを、それも女性の、買いそうな典型的な男だ。今回の依頼主はそんなサダオに泣かされた女性の一人だ。
 彼は今もまた他校の女子生徒と付き合っている。依頼主はできれば彼女が悲しい思いをする前に行動して欲しいと言っている。彼のこれまでの行動を考えるとあまり時間はないだろう。
 だが仕掛けの引き金はもう依頼主に渡してある。準備はすでに完了し、あとは依頼主の好きなタイミングで"術"は発動する。

 「わあ、お兄ちゃん頭いいんだね」
 コータは目を輝かせながら言った。サダオは得意気な表情になる。その視線の先には現在の彼女であるクミの弟、小学一年生のコータがいる。サダオは頻繁にクミの家に行き、コータの勉強の面倒を見る。もっとも彼は純粋な善意でしているというよりはこうすることで彼の頼みを断りにくくするという下心があるのだが。
 『つぎのひらがなをカタカナにしなさい』や『このとけいはなんじをさしているでしょう』などといった簡単な問題ばかり。高校生にしてみればこんな問題は道楽にしか過ぎない。こんな簡単な問題を人に聞くコータはよほど頭が悪いんだな、と心の奥で思っているほどだった。サダオにとってこんな道楽でクミが自分に従わざる得なくなるのなら、行き来の面倒くささを考えてもなんとも安いものだった。
 「お兄ちゃん、またねー」
 コータは別れ際にも嬉しそうに腕をぶんぶん振った。サダオも微笑みながら小さく手を振り返した。だがいつもは見送りにくるはずのクミは来なかった。
後で分かることだが、すでにクミはサダオの評判を耳にしておりサダオに嫌気がさしていた。しかしあまり気の強くない彼女はいつまでたっても踏ん切りがつかないでいた。
 サダオの自宅はクミの家の最寄り駅から二つ目のところにある。幸運なことに定期の範囲内だったのでサダオは何の気兼ねなしに往復することができた。
サダオは電車に揺られながら、そろそろクミと性行為ができる時期だと思っていた。そんな下心をすでに知っている依頼主が車両の隅から睨みつけていることも知らずに。
15:メづすりα :

2013/09/11 (Wed) 20:51:17

ちょうど一つ目の駅を過ぎた時だった。サダオの身体は突如立ったまま金縛りにあった。
「!」
サダオは声を上げようとしたがその喉が震えることはなかった。
さーっと周りの景色が歪んでいく。座れないほどに混んでいたはずがいつに間にか自分以外の人は消えていた。
ただ一人依頼主を除いて。
 サダオは膝をついた。金縛りは激しい痺れ、麻痺へと変わり立てなくなってしまった。
そんなサダオに依頼主は近づいていく。
「あら、いい恰好ね、サダオ」
 依頼主は歯を見せて笑った。
「アミ。アミじゃないか。これはいったいどういうことだ」
 どうやら依頼主はアミというらしい。
 サダオは激しくアミを睨み付ける。
「前までの私ならその眼におびえていたでしょうけど、もう違うわ」
「俺になにをしやがった」
「ただの痺れ薬みたいなものよ。今はね」
 "今"を強調するようにアミが言った。
「でもとりあえずは眠ってもらうわ。暴れられたりしたら面倒だしね」
 サダオを遮るようにアミが続けて言う。そして鞄から小さなスプレーを取り出すとサダオに吹きかけた。痺れとも相まってサダオの意識は一瞬でなくなった。
 サダオが眠ったのを確認し、アミは"本当の"仕掛けを発動させた。
 
16:メづすりα :

2013/09/11 (Wed) 20:52:53

サダオはびくんと痙攣すると糸で吊られた人形のように両手を横に伸ばし宙に浮いた。どういう理屈なのかは分からない。だがアミにとってそれは知る必要がない。この男に相応の屈辱さえ与えらればそれでいいのだ。
 そして眠りながら立ったと同時にサダオの服はひとりでにその身から離れ始めた。学ランやシャツは丁寧にボタンまでもが外される。ズボンやパンツも自然に足元にずり落ちた。サダオは全裸になってしまったが、アミは特に目を背けたりするようなことはしなかった。彼の裸をみるのは初めてではないし、何よりこれから彼に起こるであろう変化をしかと見届けてやりたかったのだ。
 サダオの身体は急速に収縮を始めた。それもただ縮んでいくのではない。中学高校と部活で鍛えた角張り、固かった身体が丸みを帯び縮んでいく。パーツ一つ一つが短く華奢になり未発達な柔らかい肉に包まれていく。
巨大で重々しく、女を何人もイかせてきたであろうサダオの一物は見る影もなく、小さく可愛らしいという形容が似合うものに変わっていった。
 さぼりがちだったとはいえ、よく鍛えられていた太い腕は、細く色白になり簡単に折れてしまいそうなものに変わっていく。マメだらけだった手も重いものを持ったことがないような、ぷにゅぷにゅなものになっている。
 きれいに割れ、黒光りしていた腹筋もアッという間に脂肪に包まれるとぽっこりとした幼児の"ぽんぽん"になってしまった。
 頭一つ分はアミよりも大きかったサダオは、今やアミの腰程度の高さしかない。髪はさらさらになり頭以外に体毛は全く見受けられない。サダオはその素っ裸にも羞恥を感じないような年齢、3歳児になってしまった。
 体の変化はそれで終わったが、また新たな変化が始まった。

足元に落ちていたトランクスパンツが生き物のように跳躍するとするすると、すっかり華奢になり毛の消え去ったサダオの脚を登っていく。
やがて股間に達すると、その大きさに対応するように身を縮めていく。特に裾の部分の収縮が顕著だ。紺色をしていた生地が薄い黄色に染まっていく。そして緩やかだった布地が急に厚くなり肌に密着していく。
ブリーフに変化しているのだ。
だがその形が完璧にブリーフのものになっても変化はまだ終わらなかった。その縁取りがまぶしい黄色い繊維に変わっていく。そしてそれと同様にブリーフの縫い目を黄色が辿っていく。仕上げにと言わんばかりに中心にアンパンマンの顔が現れた。
サダオのトランクスパンツは時間にして十秒ほどで幼稚で可愛らしいキャラクタもののブリーフパンツへと姿を変えてしまった。

一息つく間もなく次の変化が始まる。サダオの腕が急に上に上がったかと思うと、床に落ちていたランニングシャツがするりと上からかぶさった。そしてまたサダオの腕はまた横を向く。
 ランニングシャツはサダオのほぼ全身を覆っていたが、やがて収縮していった。だがこれもおなじように形だけで終わることはなかった。襟ぐり、袖口は派手な赤になると、またしてもシャツの中央にでかでかとアンパンマンが描かれた。
 サダオはこうして上下の下着ともども可愛らしい年相応のキャラクタに包まれてしまった。
17:メづすりα :

2013/09/11 (Wed) 20:54:34

そして落ちていたワイシャツが浮かびあがり、サダオにかぶさり、また変化を始めた。それはほとんど相似縮小だった。やがて身体に合ったサイズになると、まず襟が平べったく大きくなるり、丸みを帯びていく。完璧な可愛らしい丸襟になると、さらに可愛さを演出するようにレースが挟みこまれた。それも冗談みたいな大きさで肩のほとんどを覆ってしまった。
次に手首の袖に変化があった。三つ律儀に並んだボタンが消滅すると、袖はその代わりにゴムを発生させきゅっと先をすぼめた。
あとは今の体型に合うように微調整が加えられ、シャツの変化は終わった。

次に変化があったのはズボンだった。パンツのように縮小しながら脚をよじ登っていく。
 つまらない黒色だったズボンは明るい灰色になっていく。裾は驚くべきスピードで短くなっていく。やがて膝小僧が丸出しにになる。極度の半ズボンで股下3cmくらいしかない。年頃の幼児の活発さの象徴なのだろう。ズボンは股下をそれほどまでに縮めたあともさらに上へ上へと進み上半身の半分をも飲み込まんという勢いだった。やがてズボンの面積に対してやけに大きい大袈裟なポケットが形成される。
 ズボンの上昇も上限に達したのか次にベルトに変化が起きた。
ベルトは自分でスルリと外れると二つに裂けそれぞれ左右対称の位置に着き、上へと伸びていく。二本はそれぞれ肩に達すると角度を変え交差し背中を落ちていく。正面とはまた左右逆の場所に落ち着くと、ズボンと同じ色と材質の布になった。疑いようもなく吊りズボンだ。
 吊りひもの根元には大きくピカピカとしたボタンが現れ、しっかりとそれを固定した。そしてベルトがあった場所にはゴムが作られ、ぷっくりと膨らんだウエストを包んだ。

ずり落ちた学ランが浮かび上がり収縮していく。シャツと同じくほとんどは相似縮小だったが色は黒から紺へと鮮やかに変わっていく。
 襟に切れ目が入ったかと思うとぐいぐいと左側が右側へとめり込んでいく。それはシンプルな形状のダブルブレストブレザーとなった。
 もともとの金色のボタンはごてばったデザインから幼児の手にもしっかり持ちやすいよう小さくなり、よりキラキラと輝くものになる。
 ブレザーは短い半ズボンをほぼ全て覆ってしまい、下半身裸だと錯覚してしまうほどだった。
 どこからともかく赤く妙に大きなリボンが現れると首もとできゅっと結ばれた。それは下の丸襟のさらに可愛らしいアクセントになった。
 胸元にあった高校の薄汚れた金色の校章が形を変えていく。ひよこのシルエットをかたどると真ん中に白く大きな紙が挟み込まれた。
 布地に直接編み込まれていたはずの校章はいつの間にか完全に独立し、材質も柔らかいビニル製となる。やがて針のピンが現れ最上部で留められた。
 一瞬前まで校章だったそれの原型はどこにもない。
「たなか さだお」と柔らかいい平仮名で書かれたどう見ても幼稚園の名札だった。
18:メづすりα :

2013/09/11 (Wed) 20:56:25

 どこからともかくブレザーと同じ色の丸い鍔の帽子が現れるとサダオの頭にかぶさった。
 きつすぎないくらいのゴムが顎に引っかかっている。
そして地面に落ちていたエナメル製の鞄にも変化が起きる。
 今のサダオがすっぽり入ってしまいそうだった大きさは原型もなく縮んでいく。
 その形も色も元とは程遠い。
 黒色は眩しい黄色へ。
 チャックはマジックテープへ。
 大きさもやがてA4の紙が入るかもあやしいものになった。

眠った牛のようにくたびれ、重量感のあった鞄はもうない。
 ピカピカでちりひとつ着いていないウエハースのように軽そうな鞄。代わりに現れたのはそんな可愛い鞄だ。
 鞄はぴょこんと跳ねるとサダオの肩に斜めに掛かる。

それがおそらく目に見える最後の変化だった。
 完璧に幼稚園児となったサダオは立ったまま気持ちよさそうに眠っている。自分にどんな変化が起きたかも気づかず。

「目が覚めたときが楽しみね」
 アミが笑いながら言う。
 サダオの体は糸が切れたようにカクンと膝をついた。横にピンと伸ばしていた腕もだらんと垂れている。
 アミは古いトランシーバーのような機械を取り出すと側面のボタンを押しながら口元に近づけた。
「空間よ、通園バスに変わりなさい」
 するとあたりがぐにゃりと変わった。大人でも悠々と体を伸ばせる広さだった無人の電車が急に窮屈になる。窓に並行に備え付けられていた長いソファ型の椅子は幼児二人分づつに切り分けられ、その角度を90度変えた。大人にちょうどいいサイズのままなのは運転席と助手席だけだ。
 汚れた灰色の無骨な壁や床は薄く刺激の少ない黄色に変わる。けばけばしい色だった無数の広告も消え去り、代わりにファンシーな車や動物のシルエットが椅子に描かれる。角ばっていた部分部分もいちいち丸みを帯びたものにかわり、小さな幼児がよろこびそうな備品が付け加えられた。
「サダオ、適当な椅子に座りなさい。もちろん眠ったままね」
 アミがまた機械に吹き込む。サダオは起きているかのようにふらりと起き上がると真ん中あたりの、もちろん幼児用の、席に座った。そしてそのまま背もたれによりかかったまま寝息を立て始めた。口を半開きにし可愛く寝息を立てるそのさまは普通の三歳児となんら変わりないものだった。
「さてと」
 アミはまたぶつぶつとトランシーバーに吹き込み始めた。
19:メづすりα :

2013/09/11 (Wed) 20:58:25

 サダオが意識を取り戻したのはそのあと割とすぐだった。サダオは聞きなれないノイズで目を覚ました。何故だか脚が妙に涼しい。まだ麻痺の影響が残っているのか、目がはっきりと開かない。

(あれ?俺どうしたんだっけ。確か電車に乗ってたら突然体が痺れてそのあとアミが来たかと思ったら・・・夢だっだのかな)

 サダオは懸命に目を開こうとするが瞼はわずかにしか開かない。それも隙間から見えるのはこの上なくまぶしい光だけだった。ひどく体が重く感じられた。目で見ることはあきらめ、サダオは耳を澄ますことにした。
 きゃっきゃっという幼く耳障りな甲高い声。普段耳にしているコータのものよりさらに幼い声だった。ひとりやふたりではない。少なくとも十人はいるであろう。舌足らずさとも相成って、何をいっているのかはよく分からない。

(電車に子どもの集団でも乗ってきたのかな。でもやけに音が近いし、四方八方から聞こえるような)

 サダオは力を振り絞り瞼を開こうとした。先ほどよりも大きく瞼は開いた。その眼にまず映ったのはまず、前の座席の背もたれだった。それも見慣れない色をしている。

(背もたれ…?おかしいな。俺、いつバスに乗ったんだっけ?)

「あはは。さだおくんったら、いねむりしてるー!」
 いきなりサダオのすぐ左隣で甲高い女児の声がした。その声でやっと目が覚めたのかようやく瞼が開いた。サダオは声のする方を向いた。寝起きだったせいでゆっくりで緩慢とした動きだった。
 その声にたがわない幼くて無邪気な顔があった。頭には紺色の丸いつばの帽子をかぶっている。服装はダブルブレストブレザーで帽子と同じ紺色だ。灰色の折り目のついたスカートをしている。黄色いまぶしい鞄がまるでアクセサリのように見える。可愛らしい制服を着たどう見ても幼稚園児だ。そしてサダオの顔を見て無邪気に笑った。
 だがサダオにとって衝撃だったのは自分とその女児の目線がほぼ同じ、いやむしろサダオのほうが少し下であったことだった。サダオは息を飲んだ。そして意識がはっきりするにつれ、体中の違和感に気づいた。
 まず、顎下に妙なくすぐったさがある。そして肩に感じる微妙なしめつけ。ウエストの締め付けがへそよりもさらに高いところにあるように感じる。サダオは顎下のぐすったさにさわった。それはゴムだった。ゴムは耳の後ろを通り、頭にかぶさっているものをしっかりと押さえていた。

(え、何だよこれ)

 サダオは両手で左右から頭にかぶさっているものに触った。固くて丸い。帽子だとはすぐに分かったが、どうして自分がそんなものをつけているのかが分からない。半ば強引に頭から帽子を引っ張りとった。ゴムが顎をはじき、その想像以上の痛さに目が潤んだ。

(なんでこんなことで泣きそうになってんだ)
20:メづすりα :

2013/09/11 (Wed) 21:00:06

 サダオは帽子を両手でしっかりと持ち注視した。紺色ベースで丸いつばの上にワイン色のリボンが添えられている。隣の女児と同じデザインだった。だがサダオをなにより驚かせたのは、その帽子を両手で一生懸命抱えている小さなもみじのような手だった。ぶかぶかな袖からかろうじて指の根本が見えている。
 サダオは驚いて帽子を床に落とした。こんなのは俺の手じゃないと、心のなかで絶叫した。
 サダオは手を顔の前に持ってきた。毎日見てきた自分のものではない。ふっくらとしていてマメはおろか汚れらしいものすらない。ぶかぶかな袖がさらにその小ささを増長させているようだった。
「うそだろ」
 サダオは思わずつぶやいた。そしてつぶやいてから二重に驚いた。周りできゃっきゃと騒ぐ幼児と全く相違ない甲高い声が喉から発せられたのだ。それもただ甲高いだけでなく、ひどく舌足らずだった。『嘘だろ』と言ったつもりだったが、耳に聞こえたのはどちらかというと『うとだど?』という音に近かった。
 サダオは下をみて自分の体を確かめた。
 でかでかと首根に輝く赤い可愛いリボン。紺色のダブルブレストブレザー。そしてそこから申し訳程度にのぞく灰色の半ズボン。サダオが今までに見たことがないほど股下は短く、膝小僧が丸出しだった。先ほどから感じていた脚の涼しさはこれだと理解した。
 サダオは辺りを見まわした。周りはみな小さな幼児でお揃いの可愛い制服を着ている。紺色のダブルブレストブレザーに大きな赤いリボン。女子はスカート、男子は半ズボンを履いている。中には暑がりもいるのか、ブレザーを脱いでいる子もいる。それを見る限りはズボンやスカートには吊り具がついている。
 さっきから感じるウエストの高さと肩の締め付け。まさか自分も同じ格好なのでは、と思いサダオはブレザーのボタンに手を掛けた。しかし何故だか、一向にボタンが外れない。布とボタンを引っ張ったり寄せ合ったりするばかりで全然うまくいかない。
 痺れを切らして、ブレザーを頭のほうに引っ張って脱ぐことにした。だがちょうど半分ほどが頭を通ったところで、肩からかけていた園児鞄が引っかかってしまった。しかしサダオはそれに気づかない。むきになって引っ張り続けているが、ことの原因が園児鞄であることには気づきもしない。うんうんと、必死になってブレザーと格闘するさまはいかにも幼児らしく微笑ましかった。
「さだおくん、なにしてるのー?おもしろーい」
 隣の女の子も気づき、サダオを揶揄しはじめた。サダオはブレザーで見えないが、顔を真っ赤にした。
 長い苦心の末、なにかの拍子にブレザーがすぽんと抜けた。髪の毛はまるで寝癖を直し忘れた幼児のように可愛く逆立っている。

(どうしてブレザーごときでこんな苦労をしなきゃいけないんだ)

 もちろんサダオはアミが例の機械に『サダオは平均的な三歳児よりも手先が不器用』と吹き込んでいたことなど知らない。そもそもことの原因がアミとその機械であることも。
 そしてその苦労のおかげでサダオはどうしてブレザーを脱いだのかを忘れてしまい、一人で達成感に浸っていた。 
21:メづすりα :

2013/09/11 (Wed) 21:09:30

 みなさま、お久しぶりです。
女性の変化の方が需要があるのではと思いましたが、今回は男性のARです。女性のARを期待していた方には申し訳ありません。

 前回はケータイで打ったものをパソコンに送信し、そこからUPしていましたが、今回はほぼパソコンでの打ち込みでした。
そのせいなのかはわかりませんが、また短編にするはずがいまだ終わりが見えない物語になってしまいました。
自分としてはすべて完成してから上げたかったのですが、きりの良いとこらまで書けたのでとりあえずあげておこうと思いました。

 続編はモチべにもよりますが来週UPする予定です。
22:急成長大好き :

2013/09/11 (Wed) 21:57:59

どうも有り難うございます。
私は少年成長物が特に好きなんですが
こういう年齢退行ものも好みです。
衣装がどんどん変化するのは、昔みた
なにかのヒーロー物のようですね。
キバレンジャーが変身するときに
身体がムキムキに成長しはじめて
服も膨張していました。
23:青年A :

2013/09/12 (Thu) 10:13:41

最高です(・∀・)
やっぱり女子を泣かせる男子が女子に
やられるというのがいいです(^_^)
続編を楽しみにしてます。
焦らずか頑張ってくださいね。
24:Torainu :

2013/09/14 (Sat) 16:22:44

今後、どのような屈辱を味わわせることでアミが満足するのか、そこが楽しみです
サダオにはどんな変化が与えられているのか、予想しないような変化を期待しています
25:メづすりα :

2013/09/15 (Sun) 01:57:55

http://bbs1.fc2.com//bbs/img/_498400/498311/full/498311_1379177875.jpg  せっかく画像をはる機能があるので、テストも兼ねて。
つたない絵ではありますが、イメージの助けになれば。

今時こんな短い制服は幼稚園とはいえどほとんど見かけませんね(笑

 次回の投稿分を大方書いてから絵を作ったせいで、どちらかというと
次回分の文章の挿絵という感じになってしまいました。

 「7」の直後のサダオだと思ってください。
なぜ泣き顔なのかは…次回を見ればわかると思います。
まあそんな大した理由でもないのであまり期待しないでください…


26:メづすりα :

2013/09/18 (Wed) 21:13:40

 サダオはしばらく喜びの余韻に浸り、バスから見える流れゆく風景を楽しんでいた。そしてサダオはハッとした。俺は本物の幼児ではない。何故だか知らないがサダオは少しの間幼児である自分に疑問を抱かず、幼児としての自分を受け入れ、幼児として行動していた。
 だが今ははっきりと高校生に意識がある。これ以上この空間にいたらまずい、という予感がサダオに生まれ始めた。なんとかしてこの幼児だらけのバスから逃げ出さなければ。しかしサダオがその幼い口を開く前にバスは停車した。
「サダオくん、降りましょうね。お姉ちゃんが迎えに来ているよ」
 通路に座り、幼児たちと目線を合わせていた女性の保育士が優しく声をかけた。サダオは保育士を見た。そして自分の小ささを強く実感した。保育士はそれほど大柄な体系はしていない、むしろ小柄でスリーサイズもあまり自慢できるものではない、と高校生時代の知識が認識する。しかし今の目には、自分の何倍も大きくて頼りがいのある絶対にかなわない巨人のような存在として映ってしまう。
 そんな保育士は自分の存在を知らしめられ唖然としているサダオの手をとった。
「ほら、降りましょう。でないとお姉ちゃんが困っちゃうわよ」
 保育士はなおもサダオを優しく諭す。幼児用に小さめに作られたステップの前でサダオは固まった。最初に思ったのは自分は一人っ子で兄弟姉妹はいないといこと。そして一番に固まった理由は目の前にいるいないはずの姉といのうのが…
「クミ…」
 サダオは誰にも聞こえないような小さな声でつぶやいた。今付き合っている彼女でつい先ほどまで性行為の体について考えていた相手。クミはにこやかな笑顔で扉のまえに立っている。
「サダちゃん、先生とみんなにバイバイしましょ」
 サダオの手を引き、半ば強引にバスから降りさせてそう言った。だがサダオはクミに手を握られたままバスの方をにらみつけたままだ。当然ながら今のサダオにそんな余裕はない。
「ほら、サダちゃん。先生が手を振ってるよ。 バイバイって」
 クミはかがみこむとサダオの手を取り左右に振った。その様子は傍目から見れば人見知りであいさつのできない幼児そのままだった。
 バスが去って行った後もサダオはしばらくぼうっとしてその場に立ち尽くしていた。一度にたくさんの理解できない現象がおき頭が追いつかないでいた。
27:メづすりα :

2013/09/18 (Wed) 21:15:24

「サダちゃん、今日はブレザーを脱いだんだね。暑かったのかな?」
 クミが不意に尋ねた。サダオはクミを見た。いや見上げた。いつの間に渡されたのか、さっきバスで脱いだブレザーと帽子、園児鞄を手に持っていた。そしてサダオは再び自分の小ささ、非力さを実感する。保育士のときもそうだったが今度は見知った相手、それも一度は完全に自分が力を出せば屈服できると確信していた相手だけに余計に今の自分がみじめに思えた。
 小さく細く華奢だったはずのクミの手は大きく太くはるかに力強かった。握られているだけでその温もりで安心感が芽生えるほどだった。事実サダオは今、こんな訳のわからない状況にあるのにも関わらず、この上ない安心感に包まれていた。
 だがサダオにしてみればこんなことをしている場合ではないのだ。少なくとも自分の姿を確認する必要がある。近くに鏡やその代りになるものはないかと見まわした。
「サダオ君、鏡がほしいの?」
 クミが聞きなれた口調で尋ねた。幼児に向けられたものではなく、いつもの高校生に向けられたものだった。サダオは驚いた。
「アミ、鏡を出してあげて」
 クミは遠くに向かってそう言った。どこからか小さく「鏡よ、出現しなさい」と聞こえる。
 アミ?サダオはあたりを見回した。それらしい人影は見えない。それよりもいきなり全身鏡が現れたことに驚いた。
「サダオ君。しっかり目に焼き付けなさい。今の可愛らしい姿をね」
 サダオに拒否権はなかった。目の前に突如として現れた鏡にはつい目が行かざるを得なかった。
 寝癖のようにぼさりとたった髪の毛。くりくりとした穢れを知らないような瞳。ピンと上を向いた小さな鼻。真っ赤で健康的なほっぺ。真ん丸でお餅のような顎。
 肩のほとんどを覆い尽くすレースの編みこまれた可愛い丸襟。さんさんと輝く太陽のような首根の大きな赤いリボン。ぶかぶかなのを袖のゴムで留めているせいで折り目がたくさんつきやけに膨らんだ長袖のシャツ。
 おへその上にウエストがあるやけに短い明るい灰色の半ズボン。ウエストにはゴムがあったが、そこからさらに吊り具が伸び、可愛らしい丸襟の下を通り肩に留められている。やけに短い丈と高いウエストのせいで下半身にズボンを履いているというよりは、上半身の下半分をズボンで覆っているという感じだった。
 そしてそんな短いズボンから伸びる脚は、筋肉質で強靭な太い脚でもなければ、すらりとした長い脚でもない。ぷっくりとした頼りない短い華奢な脚だ。
 クミに手をつながれ、恥づかしそうに鏡をにらみつける幼児はいかにも頼りなく保護意欲というものを促す存在だった。実際の身長的にそんなことはないはずなのにクミの半分くらいの身長しかないように見える。おそらく体の細い線がそうさせているのだろう。
 体力自慢で力強さをずっと追求してきた自分が今やこんな弱弱しい体で可愛らしい格好に身を包んでいる。守ってくださいと言わんばかりだ。それを思うと激しい屈辱感と羞恥心に襲われる。顔がカーっと熱くなった。
「あら、サダちゃん、顔がまっかっかよ」
 クミがまた言う。
「でもね、サダオ君。あなたはこれから毎日その制服に袖を通して幼稚園に通うんだよ」
 毎日?冗談ではない。発狂し、殴りかかろうかと思ったがなぜか体は恥づかしそうにうつむいたままだった。そういえばバスの中でも全く声を荒あげることなくおとなしくしていたことに気が付いた。いつもクラスの中心にいたサダオにとってはまず信じられないことだった。
28:メづすりα :

2013/09/18 (Wed) 21:18:16

「うふふ。本当にすごい効果ね」
 もう抑えきれないと言わんばかりにクミが唐突に現れた。先ほどの鏡と同じような現れ方だった。
「サダオ、気づいてた?あたしはずっと姿を消してあんたの近くにいたんだよ。バスの中での様子もすっかり見させてもらったわ」
「本当なの、アミ。いいな~、私も見たかったな~」
 クミはサダオが今までに見たことがないサディスティックな笑みを浮かべて言った。
「本当傑作だったわ。性格を内気でおとなしくしただけであんな不安そうでオロオロと周りで見るんだから。そのあとのブレザーが本当にサイコーだったわ」
 二人はサダオがいないかのようにガールズトークを始める。方法は分からないがこの二人が首謀者だとサダオは分かった。だが本当に内気の人見知りになってしまったせいで文句の一つも出てこない。
「ほら、写真」
 アミがいつの間にとっていたのか、写真を取り出した。ちょうどブレザーを脱ごうとして引っかかったところの写真だった。
「きゃーカワイイっ」
 クミが黄色い声をあげる。
「サダちゃんにも見せたげる、ホラ」
 クミが興奮したままサダオに写真を差し出す。そこには頭をボタンの外れていないブレザーで隠した幼児が写っていた。必死にブレザーを引っ張っていたところだとサダオは思った。こうして見ると本当にただ幼児がお着替えに奮闘しているようにしか見えない。傍目からこんな風に見えていたのかと思うとさらに顔から火が出るようだった。
 おまけにサダオは自分が園児鞄を降ろすのを忘れてブレザーを脱ごうとしていたことに気が付いた。そんな醜態をバスという公共の場でさらし写真まで取られたのだ。やり場のない羞恥心がぐるぐると血のように体をめぐった。そして今もまだその制服を着ていることが堪らなかった。
「あはは。サダちゃん、ミニトマトみたい」
 クミが楽しそうに笑った。もちろんただのトマトではなくわざわざ「ミニ」を着けたのはわざとだ。
「サダオ、恥づかしい?まあ当然そうわね。そうだ、良いこと思いついたわ」
 アミはそう言うと例のトランシーバー型の機械を取り出した。
「サダオ、あんたは幼稚園の制服に身を包むたびに、いえ身を包んでいること、包むことを意識するたびに今感じている羞恥を感じるわ。これからずっと、そして永遠に慣れることはないわ」
「な、なんだよう、そで。たとぅががになででゅにきまってんだおお」
 やっとの思いで口から声をだすことができた。だが切迫して言ったせいかさっきよりさらに舌足らずで聞き取りにくかった。アミもクミもはてな、という顔を一瞬した。
「ああ、『さすがに慣れるに決まってんだろ』って言ったのね。全くそんな舌っ足らずな声で長い文法は言わないでほしいものね」
 アミがため息まじりに言った。
「どうやって幼児にした、とか元に戻せ、とか言うと思ってたけど案外それに関してはもう受け入れちゃってるみたいね」
 サダオはアミの言葉にはっとなった。続けざまのことですっかり自分が幼児になっていることから関心が薄れていた。
「まあ、言ってあげるわ。今のあんたじゃあ、あたしたちに逆らうなんてもうできないしね。この機械に言葉を吹き込むと全てそれが真実になるのよ。もちろん規模の限界はあるけどね」
 サダオは到底信じられることができなかった。アミが手にしている機械はただの古いトランシーバーにしか見えない。
「信じられないって顔してるわね。じゃあ鏡で自分の顔をよく見てなさい」
 そしてアミは機械のボタンを押す。
「サダオ、泣き虫で甘えん坊になりなさい」
 すると鏡の中の顔にわずかながら変化が起きた。眉が少し歪むようにして垂れ下がり、眉間に微妙なしわが作られた。今まさに泣く寸前といった表情だった。目が不安げに泳ぎ始め自分では何もできないと語っているようだった。
「ち、ちがう…これはぐうぜん…」
 サダオはそう言い放ったがその声もいかにも泣きそうな情けない震え声だった。
29:メづすりα :

2013/09/18 (Wed) 21:19:55

「あら強情ね。じゃこれはどうかしら。『サダオには親指をしゃぶる癖がある』」
 アミのいうことは信じたくなくない。しかしアミの言葉を聞いた途端にむずむずと口がさみしくなってくる。無性に不安になり、体中がうずずずしてくる。サダオは居ても立ってもいられなくなり、無意味に首をきょろきょろと回す。
 気づいたころには右手のげんこつがもう口元まで来ていた。すると親指に唐突にタコが形成された。だがそのタコを気にする余裕もなく親指はすでに口の中だった。
 タコのある部分にはちょうど歯が当たっている。サダオにとって今までタコといったら、必ずバットの振りすぎによる勲章だった。だが、今この体で最初にできたタコは指をしゃぶりすぎというなんとも恥づかしい勲章だった。
 ちゅーという連続した音が口の中に響く。それがいかに赤子じみた幼稚な行為であるかはわかっている。だがこうして鏡を目の前にし、恥ずかしい姿をこの目で見ていてもサダオはしゃぶることをやめられなかった。
 途方もない安心感が体中に広がりひどく落ち着いていく。先ほど付与された泣き虫の心もしゃぶっている間は抑えられているようにも思える。
 だがサダオは可愛らしく親指をしゃぶる鏡の幼児を見て、内心青くなった。アミは嘘は言っていない。アミの言葉通り、彼女が言ったことは前からそうであったかのような事実になっている。
「きゃははっ。サダちゃん、本っ当にかわいいっ」
 クミは心底嬉しそうに笑った。サダオの前でそんな顔をすることは一度もなかった。アミもにやにやといやらしい笑みを浮かべている。
「あなたをその姿に変えたのも、ブレザー脱ぐだけですごい苦労したのも、全部この機械のおかげなんだよ。鈍いあんたでもさすがに理解できたでしょ」
 サダオはふたりに揶揄されながらもなお、おしゃぶりをやめることは出来なかった。今おしゃぶりをやめたらそれこそ泣き出してしまいそうなほど追いつめられ、恐怖していた。
 ちゅーちゅーと音を立てながらサダオは自分のもうひとつの強い欲求に気が付いた。それはクミに顔をうずめ思いっきり頭をなでてもらいたいというものだった。だがそんなことは高校生のプライドが許さなかった。
 アミとクミ、この二人の前では特にそんなことはできない。泣き出すことも抱きつくこともできず、サダオはただ親指を吸い嘲笑に耐えるしかなかった。
 涙目の幼児のちゅーちゅーという稚拙な音はしばらくやむことはなかった。
30:メづすりα :

2013/09/18 (Wed) 21:27:44

 感想をくださった方々、ありがとうございます。励みになりました。
今回は以上となります。
前ほどのボリュームもありませんね…

さて、次の更新ですが忙しくなってしまい今回のように一週間で、とはいかなくなると思います。
時間をみて書き進めていくつもりですが、お待たせさせてしまうかもしれません。
気長にお待ちいただけると幸いです。
31:青年A :

2013/09/18 (Wed) 22:57:51

お疲れ様です。
拝読させていただきました。
とても面白い内容で想像が膨らみました。
焦らずゆっくりでいいので続きを待ってます。
本当にお疲れ様でした。
32:メづすりα :

2013/09/29 (Sun) 23:46:44

 サダオはやけに心地よかった。まるで最高級の羽毛布団の中で一年分の疲れを癒しているようだった。ああ、こんな気持ちの良い眠りは何年ぶりだろうか。サダオはそう思った。いや、こんな気持ちは生まれて初めてかもしれない。
 だがそんな天使に包まれているかのような心地よさも、口に絶えず響くちゅーちゅーという幼稚な音を聞くまでのことだった。
 サダオはハッとして眼を開いた。親指は案の定口の中だった。サダオは慌てて親指を抜く。そして目の前に人の頭があることに気が付いた。自分はいったい何をしているのだろう。いや、何をされているのか。そしてその正体に気づき今日何度目かの赤面をした。
 サダオはクミにおんぶされていた。
「ああっ」
 サダオは羞恥と屈辱に思わす叫んだ。叫んだ途端に口にたまっていたよだれが糸を引く。
「あら。サダちゃん、おっきしたのね」
 クミが幼児扱いの言葉をかける。サダオはあたりを見ました。すぐ隣にはアミがいた。いつの間にサダオはクミの背中で眠ってしまったのか分からなかった。
「サダちゃん。あんまり可愛く親指しゃぶってるから、私、思わず抱きついちゃったの。そしたらそのまま私の腕の中で眠っちゃって」
 クミが信じられないことを口にした。俺がクミの腕の中で眠っただと。
「うとだ」
 嘘だ、サダオは言ったつもりだ。自分の舌足らずさにサダオはストレスを感じ、親指をまた口につっこんだ。いつの間にかこれが彼のストレス解消の方法になってしまっていた。
「嘘じゃないわよ。あんたは子憎たらしいくらいの甘えん坊ちゃんなんだから、"愛するお姉さま"に抱きつかれたらそりゃあ、気持ちよくて嬉しくて寝ちゃうわよ」
 アミがいちいち口をはさむ。
「それにしても私の背中でねむるサダちゃん、とーってもかわいかったよ。ね、アミ」
「そうそう、写真もたくさんとってあげたよ。あとで好きなだけ見るといいわ」
 ふたりが口々に言う。内気な性格となったサダオは返す言葉がない。正確にはあるのだが、何故だか急に恥づかしくなって口ごもってしまう。そしてその代わりにサダオは親指を吸う力をさらに強めるのであった。
33:メづすりα :

2013/09/29 (Sun) 23:48:03

「ほら、着いたわ」
 クミが言った。そしてサダオはその場所を見る。クミの家だった。
「なに驚いてんの。あんたはクミの弟でこの家の次男坊なんだよ」
「じなんぼう?」
 サダオは驚いた。
「当たり前じゃない。あんたは3歳で幼稚園の年少さん。クミには小学校一年生の弟がもともといるじゃない」
「こーたか!」
 サダオは思い出して叫んだ。
「そうよ。でもいけないわね。お兄ちゃんなんだから呼び捨てなんてダメよ。ちゃんとこれからはお兄ちゃんと呼ぶことね」
「ふだけんな。じょうだんじゃねえ」
「別にいやならいいわよ。例の機械に吹きこめばそれでお終いだし」
 サダオはだまりこんでしまった。あの機械がある限り自分はおもちゃも同然なのだ。
「じゃあ、サダちゃん。私のこともお姉さんって呼んで」
 クミがサダオが降ろしながら言った。サダオは黙ったままだ。
「サダちゃん。言いなさい」
 少し厳しい口調でクミは言った。泣き虫となり、常時精神不安定なサダオにはそれだけで効果絶大だった。
「…おね…ん…」
「よく聞こえないわ。もっと大きな声で」
「…おねえ…たん…」
 舌足らずで可愛い。言ったサダオ本人がそう思ってしまった。カーっと顔から火が出る。
「うん!かわいいっ。サダちゃん、よくできました」
 そういってクミはサダオの頭をくしゃくしゃとなでた。サダオは歓喜の渦を表情に出さないことに必死になった。
34:メづすりα :

2013/09/29 (Sun) 23:49:35

 クミは鍵をあけ、扉を引いた。毎日のように通っていたが今のサダオにとっては至極新鮮だった。もちろん大きさのこともあったが、全体的に家具に子どもむけのものが増えていた。今までに見たことのないものばかりだ。
 クミはサダオの園児鞄と帽子を玄関のすぐ先にある小物かけにかけた。もちろん幼児にも取りやすいように一番下だ。
 サダオは玄関を見回すとと同時に自分の体を見てしまった。幼稚園の制服を着ていることを改めて意識し、先ほど設定された通りの羞恥が駆け巡る。
「サダちゃん、赤くなってないでさっさとお靴を脱いで」
 クミがサダオをせかす。サダオは観念し、いつもの通り立って靴を脱ごうとした。しかし今のサダオは高校生ではない。正真正銘の三歳児なのだ。もちろん三歳児にそんな器用な芸当はできない。ましてやサダオはそれよりもさらに不器用なのだ。
 あっという間にバランスを崩し、靴入れに手をついた。
「サダちゃん何をしているの?"いつもの通り"座ってお靴ぬぎぬぎしようね」
 "いつもの通り"を強調しクミが言った。サダオは屈辱で手をついたまましばらく動けなった。いや、思わず泣き出しそうになってしまい動くに動けない状況になってしまった。今顔をあげたりすれば情けない顔がクミに見られてしまう。
 サダオの中にはクミの胸に飛び込んで思い切り泣き出したいという心もあったが、もちろんそんなことは論外だ。
 何度か呼吸をし、自分を落ち着けるとサダオは玄関に腰を下ろした。自分の小さな靴が目に入る。20㎝はおろか15㎝にも満たないであろう。もちろん靴ひもなどなくマジックテープがでかでかと輝いている。
 水色で機関車トーマスが描かれたテープを思い切り引く。記憶にあるどのマジックテープよりもかたく感じられた。もちろんそれはサダオの筋肉が落ちているせいである。
 片足が終わり、またもう一方の靴にとりかかる。いつもなら座るようなこともせず、足だけで靴を脱いでいる。その記憶が余計に今の自分のまどろっこしさを際立たせた。
35:メづすりα :

2013/09/29 (Sun) 23:50:51

「コータ、ただいま」
 ちょうど脱ぎ終えた時、クミがそう言うのが聞こえた。
「おねえちゃん、おかえり」
 続いてコータの声が聞こえる。自分という弟がいるという設定のせいか、はたまた自分が幼すぎるせいなのか記憶にあるコータの声よりもたくましく聞こえた。
「コータ、お母さんは?」
「買い物に出かけた」
 おそらくここまでがいつもの田中家の会話なのだろう。だが今日からはサダオがこの会話に交じることになるのだ。クミが笑顔でサダオのもとに歩いてきた。
「さあ、サダちゃん。お家に帰ってきたらなんて言うんだっけ?」
「ただいま…」
 サダオは小さくそうつぶやく。
「そうそう。それじゃあ、お兄ちゃんにむかって言おうね」
 サダオはリビングの方を見た。コータが椅子に座ってテレビを見ている。今の自分より頭一個分は大きい。家庭教師をしていた時とは全く印象が違う。
 あの時自分は完全に幼い子供としてコータを見ていた。だがそれよりも小さな存在となってしまった今はそんな風に絶対に見ることは出来なかった。コータはたくましくて頼れるお兄ちゃんに見えてしまう。
「おにいたん、ただいま…」
 いかにも幼い弟の声が口から洩れる。コータは首をこちらに回しにこりと笑った。
「おかえり、サダオ」
 サダオは屈辱に震えた。これでは本当に自分は小学一年生の弟ではないか。本当は高校生のはずの自分が小学一年生に弟として優しい目を向けられている。こんなことがあっていいのか。
「コータ君、久しぶり」
 唐突にうしろからアミの声がした。
「あ。アミお姉さん、こんにちわ」
 コータは礼儀正しく挨拶をした。
「まあー。さすがコータ君。お兄ちゃんね。サダオ君とは違ってちゃんと挨拶もできるのね!」
 サダオとの違いを強調しながらアミは大げさにコータをほめた。
「あみ。なんでおまえまでくんだよ」
 サダオは驚いて尋ねた。
「あらあ、だめよ、サダちゃん。アミは私の親友で"高校生のお姉さん"なんだからちゃんとお姉さんって呼ばなきゃだめよ」
 クミがお姉さんぶって口をはさむ。
「うふふ。いいのよ、クミ。サダちゃんはまだたったの、さ・ん・さ・い、なんだからね」
 明らかに「三歳」を強調しながらアミが言った。
 アミはあらかじめクミとの関係を例の機械を使い親友通しという社会認識にさせていた。そうすることでアミがクミの家に頻繁に出入りすることも、寝泊りすることも不自然ではなくなる。
36:メづすりα :

2013/09/29 (Sun) 23:52:49

「サダちゃん。いつまでも制服でいないでお着替えしましょ」
 クミがサダオがリビングに入ったタイミングでそう言った。制服を意識したサダオは顔を真っ赤にしながらうつむく。
「一人でお着替えできるかな~?」
 クミが教養番組のお姉さんのように聞いてくる。アミはリビングの端でにやにやと笑っている。
 制服を脱ぐという作業は常に制服を意識する。サダオは底を知らない羞恥を敏感に感じ続けていた。
 クミの言うとおりにするのはしゃくだったがサダオに拒否できるような術はない。なおかつ制服を脱げば、この羞恥地獄を抜けられる。そう無理やり自分を説得させサダオは着替えに取り掛かった。
 ブレザーはすでに脱いでいたのでまずは吊りズボンからだ。
 いくら不器用になっていようとズボンを脱ぐことは簡単だった。吊り紐を外にずらし、ウエストを思いきり下げるだけでいい。
 なるべき制服を意識しないようにしてサダオはズボンを足首まで降ろした。
 サダオはそれが新たな羞恥の幕開けだとは知らない。

 サダオの目にとびこんだのは幼児用のブリーフだった。ただのブリーフだったらそこまでの羞恥ではなかっただろう。
 しかしそこにはアンパンマンの顔がさんさんと輝いていた。
「ぁ…っ」
 サダオは己の下着をみてしばらく固まる。思わず小さな声を出してしまったが、クミやアミにはこの羞恥を悟らせまいと歯ぎしりをした。
「どうしたの、サダちゃん?あ、分かったわ。アンパンマンのお顔が見れて嬉しくなっちゃったんだね」
「ち、ちがう」
「もう、素直じゃないんだから」
 アミが口をはさんだ。
「サダちゃんは『飛び跳ねるくらいアンパンマンが大好きじゃない』」
 アミは口のすぐ近くに例の機械を持ってきていた。これが意味することはすぐにわかった。
「やめてくで。とんなてってい!」
 サダオが叫ぶ。舌足らずで相変わらず聞き取りづらい。ニュアンスでかろうじて「やめてくれ、そんな設定」と言っているのがわかる。
「サダちゃん、ほら、見てごらん。アンパンマンだよ~」
「あはっ」
 クミの言葉を聞いた途端、サダオは思わず嬉しそうな声をもらした。しかしすぐに顔を真っ赤にしてうずくまってしまう。
「サダちゃん、そうだよね。アンパンマンのお顔が見たいんだよね。しゃがんだ方がよく見えるもんね」
 クミが"優しく"語りかける。その言葉につい下着の恥づかしいキャラクタに目が行ってしまう。まぶしいアンパンマンの顔。サダオの口元は自然に吊り上り、歯まで見せてしまった。
「アンパンマンって格好いいよね」
 クミが追い打ちのように言う。その言葉にまたサダオは激しくうれしくなる。
「うるたい!」
 歓喜という屈辱の中でサダオが叫んだ。その顔は真っ赤だったが口元ではえくぼを作っていた。
37:メづすりα :

2013/09/29 (Sun) 23:58:02


なんだか中途半端にとぎれてしまいました…

丁寧に描写しようとしたところ、自分でもなんだかテンポが悪いと感じています。
テンポ早く進むのとどちらがみなさんにとって良いのでしょうか?
意見をお聞きしたいです。

次回の更新もまた、未定です。
38:青年A :

2013/09/30 (Mon) 07:40:57

テンポ早めにすることたネタ切れ防止の効果かまあるかもしれないことを考えるとテンポ早めの方が作者さんのためなのかもしれませんが、読者にとっては丁寧の方がイメージがしやすいのではないでしょうか。僕はテンポが早めでさらっとした表現の方が次回をより楽しみに待てる気がします。長々とすみません。続きを期待して待ってます。無理せめめづすりさんのペースで頑張って下さいね。
39:青年A :

2013/10/28 (Mon) 13:45:14

お久しぶりです。
元気にしてますか?
コメとかも何もないので心配してました。
たぶん忙しいのだと思うのでそっと待っていることにします
40:メづすりα :

2013/10/28 (Mon) 15:59:20


青年Aさん。
コメントありがとうございます。

御推察の通り、リアルの生活に忙殺されています。
物語の展開の行き詰まりとも重なって、なかなか更新が出来なくなってしまいました。

一応、ほんのわずかではありますが、次の展開も執筆は続いています。
次の更新では、多めの内容を、と思っていますがまだわかりません。

気長に待って頂ければ幸いです。
41:青年A :

2013/10/28 (Mon) 20:05:36

気長に待つことにします。
無理はしないでくださいね。
本当にお疲れ様です。
42:メづすりα :

2013/11/18 (Mon) 00:51:07

「さあ、サダちゃん。疲れたでしょ?お昼寝しようか」
 クミが言った。
 サダオはというと、制服を脱がされ、アンパンマンのなりきりパジャマを着せられていた。
 全身を包むワンピースパジャマのような形で、アンパンマンの顔を模したフードが着いている。
 アミはサダオを鏡の前に連れていった。サダオは改めて、アンパンマンに身を包んだ姿を見た。
 激しい羞恥をサダオを襲ったが、その口から出た言葉は反抗とは程遠いものだった。
「わぁ~い!あんぱんまんだぁっ。あんぱんまんだぁっ」
 サダオは無意識にそう叫び、その場で何度も飛び跳ねた。
「うふ。サダちゃんって本当にアンパンマンが大好きなのね」
 アミが嫌味っぽく放つ。
 サダオは顔を真っ赤ににして、それでいて満面の笑みでうつむいた。
 どうしても抑え切れない歓喜の衝動が襲ったのだ。アミのあの機械の仕業であることは間違えない。サダオはアミを睨んだ。
「あら、なにその眼は?まだ反省が足りないみたいね」
 その言葉を聞いてサダオはしまった、と思った。
「クミ、早くサダオを寝かしてくれる?ちょっとしたいことがあるの」
「分かったわ。じゃあ、サダちゃん、おねんねしましょうね~」
 クミはサダオを奥の寝室に連れて行く。
「いやだ、おれはねねえぞぉ」
「『サダオはもう眠くて何もできない』」
 面倒くさいと言わんばかりに、アミが機械に吹き込んだ。
 途端にサダオの目はとろんとして、体にも力がなくなった。サダオはもう、目を開けているのもつらそうだった。
 寝室のひときわ小さな布団にサダオは寝かされた。間もなく小さな寝息が聞こえ始める。
「さて、この自分勝手でわがままな男をどうしようか」
 アミとクミは薄暗い寝室で、トランシーバーを片手にニヤリと笑いあった。
43:メづすりα :

2013/11/18 (Mon) 00:58:40


どうも。メづすりαです。
キリの良いところまで、と思っていたら一話にしかなりませんでした。
申し訳ないです…

今回分に関しては前回の投稿とくっつけてするべきでした。
これまでのお話とこれからの展開の接着剤的なヤツです。
次回にくっつけも不自然になってしまうので、単発で今回はいかせてもらいました。

気まぐれな作者ですが、これからも楽しんで頂ければ幸いです。

(今更ですが、メづすりというのは目薬のタイプミスなんです…)
44:青年A :

2013/11/18 (Mon) 08:03:33

お疲れ様です(^_^)
待ってました(・∀・)
次がどんな展開になるのか楽しみになりました。
忙しい中大変だと思うので無理しない程度で頑張ってほしいと思いますかまたつ続きを気長に待つことにします。
45: :

2013/12/06 (Fri) 21:25:11

この投稿は表示制限されています。
表示には管理者の承認が必要です。
46: :

2013/12/06 (Fri) 21:27:26

この投稿は表示制限されています。
表示には管理者の承認が必要です。
47: :

2013/12/06 (Fri) 21:29:13

この投稿は表示制限されています。
表示には管理者の承認が必要です。
48: :

2013/12/06 (Fri) 21:30:53

この投稿は表示制限されています。
表示には管理者の承認が必要です。
49: :

2013/12/06 (Fri) 21:32:43

この投稿は表示制限されています。
表示には管理者の承認が必要です。
50: :

2013/12/06 (Fri) 21:34:44

この投稿は表示制限されています。
表示には管理者の承認が必要です。
51: :

2013/12/06 (Fri) 21:36:28

この投稿は表示制限されています。
表示には管理者の承認が必要です。
52:青年A :

2013/12/07 (Sat) 23:54:29

お疲れ様です。
サダオの精神と体とのギャップがかなり鮮明に
表現されていてすばらしいです。
また続きが楽しみになりました。
忙しいとは思いますが、無理しない程度で
いいので続きをお願いします。
気長に待ちますね。
53:メづすりα :

2014/01/11 (Sat) 16:34:33


申し訳ございませんが、当分更新を休止します。
時間があまりにもとれなくなってしまいました。

来年度を再開の目安にしています。
54:メづすりα :

2014/03/07 (Fri) 01:13:56

おひさしぶりです。
ようやく時間が作れるようになったという報告です。

実は今、女性の若返りの話を構想しています。
「制服…」の続きももちろん書くつもりではありますが、女性のARの方が需要があるのでは、とも思っています。

そこでアンケートを実施したいのですが、
「制服…」の続きか、新しい女性の話か、
みなさまはどちらが良いですか?

結果によって順番は前後しますが、いづれも最後まで書くつもりです。

PS
イメージイラストを添付しました。
55:メづすりα :

2014/03/07 (Fri) 01:21:36

http://bbs1.fc2.com//bbs/img/_498400/498311/full/498311_1394122896.jpg はれてませんでした…
56:青年A :

2014/03/07 (Fri) 13:55:09

お疲れ様です。
僕はどちらかと言うと女性の話の方が好きですね。
57:どうぶつの檻 :

2014/03/07 (Fri) 19:12:07

イラスト素敵です!
メづすりさんの今まで書いたイラストをまとめたようなサイトはないんですか?もっとみたいです!

僕も女性のarが好みですが、いづれ制服は…の完結もぜひ見てみたいです。
58:とら :

2014/03/07 (Fri) 19:31:57

 自分も女性のARが好きです。実際、女性がARするストーリーを書いてます。ただ自分の場合は自身がやりたい事ですので……。自分自身の欲求に逆らっても面白い物語は作れないと思います。
 老婆心ながら失礼しましたm(__)m
59:メづすりα :

2014/03/07 (Fri) 23:04:40

コメントありがとうございます。
とりあえず今週末までアンケートの様子を見ようと思います。

自分自身は若返りそのものが好きで、性別に関して意識したことはなかったですのが、やはり女性のほうが人気がありそうですね。

PS
自分の絵をまとめているサイトはありません。
そしてこれからも作る予定はないです。
WEB上に絵を上げたのはこの掲示板が初めてです。
時間がとれればこの掲示板に絵を上げていきたいと思っています。
60:メづすりα :

2014/03/10 (Mon) 21:27:18

とりあえずアンケートはいったん締め切って執筆に入ろうと思います。
予定としては、まず「制服…」をキリの良いところまで進め、
そのあと、女性の話に入ろうと思います。
61:メづすりα :

2014/03/13 (Thu) 22:40:17

 やっと冷静になれたところで、サダオのすぐ隣で空間の歪みが起きた。
 陽炎のような歪みはすぐに収まり、代わりに二つの人影が現れた。
 アミとクミだった。
 二人はとびきりの笑顔だった。

「あはは。サダちゃん、おっきしたのね~」

「今朝も失敗しちゃったんでちゅか~?」

二人はずっとこの部屋に居たのだ。そしてサダオの混乱する様子を姿を消して眺めていた。
 吹き出し笑いを必死にこらえながら。
 これまでの羞恥と屈辱を思い出し、サダオは怒りに震えた。
 何かガツンと言わなければ気が済まない。

「あみのまづつのせいだどっ」

 甲高い可愛らしい声が響く。そしてサダオは両手で口を抑えた。
 サダオは自分のできる限り、最大の凄味を込めて叫んだつもりだった。
 だが口から出てきたのは、怒りながらも甘えたいという気質をもった声だった。

(今の声、俺が言ったのか。俺はアミの魔術のせいだろって怒鳴ったはずなのに)

「失敗しちゃったのはしょうがないとして、それをお姉ちゃんのせいにするなんて」

「お仕置きが必要かしら?」

「うふ。まあ、今は許してあげようよ。面倒くさいし。
 それよりサダちゃん、いつまでも濡れたオムツでいるのは体に悪いわよ。お風呂でキレイキレイしましょうね~」

 そうしてサダオはその場でアンパンマンの寝間着もオムツもはぎ取られてしまった。

「うわあ」

 思わず叫んでしまった。アミとクミに裸を見られた。サダオ自身、今の体を見るのは初めてのことだ。

「あっはは。見てよ、なんてかわいい象さん!あたしの小指の先くらいしかないわ。いえ、もっと小さいかしら」

 アミはそういって人差し指でサダオの"象さん"をはじいた。
 サダオはクミに脇の下から抱えられ、どうすることも出来ない。せいぜい体をよじる程度だった。

62:メづすりα :

2014/03/13 (Thu) 22:43:59

 風呂場でザーっとシャワーをかけられる。
 サダオは素っ裸だが、クミはズボンの裾をまくるだけだった。

「うふふふ。アミの言った通り、本当にかわいい象さんだこと。散々私に自慢していたあなたのおち○ちんはこんなんだったのね。
 分厚い皮に守られて、触ったってくすぐったいだけでしょ」

 そう言ってクミはくしゃくしゃとサダオの一物をいじった。

「でも安心ちてね~サダちゃん。あなたはこれからこれまでの何倍もこの象さんを使うことになるんでちゅよ~。
 あなたのお股はもちろん、腰全体が小便臭くなるまでね~」

「いやだ。ふだけんなっ」

 サダオはなるべく威圧的に言ったつもりだ。
しかしその声には力がなく、どちらかというと泣きそうな震え声だった。

「別にあなたが気にすることは何もないのよ。あなたはただオムツを履いてるだけで良いんだから。
 気づく前にあなたは小便臭くなっているわよ、きっと」

 クミは相変わらず言葉をゆるめない。
サダオのことを臆する様子はまるでないのだ。

サダオにとってそれは屈辱に他ならなかった。クミはサダオにとって良いように動く気の弱い女に過ぎなかった。

 それが今、逆に良いようにされている。クミがサダオを完全におもちゃ扱いしている。
 
屈辱に顔を真っ赤にしたサダオは、せめてもの抵抗として激しく身体を動かした。

「もう、サダちゃん。暴れないで。おめめに水が入っちゃうよ」

 サダオを子供扱いしていることに変わりはないが、サダオは少しでもクミを困らせてやりたかった。
端から見ればただの幼児のぐずりではあったが、サダオにとってはある種の勝利であった。
 
シャワーを止めるとクミは小さく溜め息を着いた。

「私ってやっぱり性格的に人はいじめられないの。あなたみたいな人でも。だけど、今ので決心が着いたわ」

 クミは低いトーンで、なにかあきらめるように、そう呟いた。
と同時にサダオの中に恐怖がはじけた。
サダオはそんな自分に驚いた。
だが言い様のない恐怖は膨らんでいく。
それはまさに親に叱られそうな幼児の感覚だった。
サダオは"大人"から幼児言葉で接してもらわなければ恐怖を感じてしまう、少なくともそれが一番心地よく耳に入るように"設定"されていたのだ。

「サダちゃん、おしっこしたいでしょ?」

 クミはまっすぐサダオの目を見て言った。口調こそ幼児に向けられたものだったが、そのトーンは幼児を叱るためのものだった。
サダオは目が離せなくなった。
蛇に睨まれた蛙のように、金縛りにあってしまったのだ。
サダオは目がうるんでいくのを感じた。本来守ってくれる存在が自分を攻撃しようとしている。
幼児としての防衛本能、泣けば助けてくれるという本能がこれでもかと、サダオに現れていた。
63:メづすりα :

2014/03/13 (Thu) 22:47:55


「お、おしっこなんて…」

 否定しようとした矢先、サダオは強い尿意に襲われた。
クミはなおもサダオを睨み付ける。

「『あなたは何も出来ない。ただ私の言うことを聞くだけしか』」

 サダオの中にクミの声がこだまする。トランシーバーを持っているのはアミだけだったはず。それでなくともクミは今トランシーバーは持っていない。
しかしサダオにはあのトランシーバーのように頭に響いていた。

「『しーしーしたい?したいよね?苦しいよね?お股がうんうんって唸ってるよね?でも出来ないよ。何でかな?
なんでだと思う?』」

「そんなの、わからないよ…」

 サダオは強烈な尿意で冷静にものごとを判断出来なくなっていた。ただ出したいのに出せない。それが彼の今にとって一番苦しいことだった。
早くこの苦しさから抜け出したい。そのことだけが頭にあった。

「『それはね、サダちゃんがお〇んちんのことを勘違いしてるからだよ』」

「かんちがい?」

「『そう。サダちゃんはね、今お〇んちんを別のものだと思ってるの。“誤った知識“がお〇んちんを別のものだと思わせているの。だからしーしーできないの。気持ちよくしーしーするためには、そんな知識は要らないわ」

「どういうこと…?」

「『今にあなたにとってお〇んちんはただのおしっこをするためだけのものよ。それ以外の可能性はあってはいけない』」

「だけど…」

「『しっ。言ってはだめよ。だからしーしーできないの。早くしーしーしたいでしょ?』」

「うん」

「『それじゃ、言いなさい。お〇んちんはおしっこを出すためだけにある、って』」

「お〇んちんは…おちっこをだす…ため…だけにある…」

「『はい、よくできました!それじゃ、しーしー』」

「ふあっ」

 途端にサダオの股間から黄金水が飛び出した。
ちょろちょろという音とともに快感がサダオを支配する。
だが同時にサダオには頭から何か大事なものが抜けているような気がした。

 風呂から上がり、クミはサダオを拭く。
すると唐突にクミが尋ねた。

「サダちゃん、子どもってどうやって作るか知ってる?」

「バカにするな。それくらいしってる。SEXに決まってるだろ」

「それじゃ、SEXは?」

「それは、当然…あれ?」

 サダオは答えに迷い、身体を見下ろした。未熟な自分の性器が見える。
だがそれは何も答えにはつながらなかった。

(確か、お○んちんが関係してると思ったんだが、そんなはずないか。"お○んちんはおしっこ出すためだけにある"のだから)

 そんなサダオの様子を見て、クミは満足そうに微笑んだ。

(ちゃんと機能してくれたみたいね。アミが仕込んだ"絶対命令暗示"。これで当分サダオに泣かされる女は出てこないわね)

 クミはしばらく笑いをこらえるのに必死だった。
64:青年A :

2014/03/14 (Fri) 12:37:12

お疲れ様です。
サダオが少しずつ知能的にも幼くなっていく描写が面白いですね。
忙しいとは思いますが、この調子で頑張って欲しいです。
次回を楽しみにしてますね。
65:青年A :

2014/03/20 (Thu) 15:57:37

お疲れ様です。
若返り急成長掲示板の方に僕が初めて書いた小説をのせてみました

皆の励みになればと思って書いたのですが、難しくてうまくいかなかったです。
まだまだだなと思って笑って読んでくれればと思います。
きついとは思いますが無理せず頑張って下さいね。
66:青年A :

2014/03/20 (Thu) 16:54:50

なんどもすみません。
投稿したスレは若返り急成長掲示板の単発作品専用スレ2です。
67:メづすりα :

2014/03/21 (Fri) 23:26:10

小説、面白く読ませていただきました。
あちらの掲示板はホスト制限がかかってしまい、投稿できませんでした。

自分もまだ未熟者です。
お互い面白い作品が作れるように頑張りましょう!
68:青年A :

2014/03/22 (Sat) 06:11:17

そう言っていただけると助かります。
メづすりさんのようにすごく面白い作品を作る方でも未熟者なら、自分はかなり頑張らないとダメですね。
大変だとは思いますが、お互いに頑張っていきましょう。
69:メづすりα :

2014/03/29 (Sat) 13:50:11

みなさまご無沙汰です。
とらさんの企画に便乗させていただきました。
これから投稿するのは「侮辱代理店…」とは別の系列のお話です。

「若返らせる能力を持った怪物」がテーマになっていますが、
登場する生き物は怪物と言えるかは微妙です…
70:メづすりα :

2014/03/29 (Sat) 13:51:30

 私は自分に自信があった。

 大きく力のある二重の目。すっきりと通った鼻のライン。
しみひとつない剥きたての卵のような光沢のある肌。
きれいな砂時計のボディライン。
その容姿だけで道行く男はみな振り返るだろう。
 加えて私には歌という武器もあった。
透明感のある歌声、テンポの取り方。中学の合唱祭では私は音楽の先生をも唸らせるエースだった。
指先から毛先まで、特に人並以上に健康を意識したわけでもないなのに、自他ともに認める"輝き"を持っていた。

 そんな私が将来、女優になりたいと思うのは自然な流れではないか。

 もちろんまだ劇団に所属しているわけではない。
だが私には自信があった。私には人を魅せる力があると。
高校のミスコンで優勝した時、その自身は確信へと変わった。

 だが今は芸能活動に時間を使いたいとは思わなかった。
というのも私は、今勉強をするべきだと思っているのだ。
私は昔から「聡明な子」だと言われてきた。そしてその言葉通り中学、高校で私はトップクラスに居た。
そして世間で言うところの難関大学に現役で合格。
「顔はいいけど頭は悪い。」そういう女優も何度か見てきたが、私は彼女らのようには絶対にならないだろう。

 そうした自信の裏返しなのかもしれないが、私はプライドが人一倍高かった。
高校の時、一度だけトップの座を逃したことがあった。
テストなど水物で、ましてや学校の定期テストなど、そのあとにやってきた大学受験に比べればなんともくだらないものである。
しかし私は自分でも驚くほど、そのことが悔しかった。
 三日三晩、ごはんを食べるのもおっくうになり、私をおしのけトップになったその子とは顔を合わせるのも嫌になった。
もちろんそうした態度を人前に出すほど私は馬鹿ではないが、この経験は自分にとっても意外な発見であった。
そうした自分のプライドを意識した日から、私は人前で醜態をさらさないよう、細心の注意を払うようになった。
自分でもそんな醜態をさらした日には、どんな苦痛を味わうか分からないからだ。


 大学の帰り道のことだった。
五限目の後だったので、空はもう薄暗かった。
 駅を降りた時、町がいつもより少し活気に満ちていることに気が付いた。
私は顔を上げた。様々な屋台が商店街に並べられている。
縁日をやっていたのだ。
 遠回りになるが、この縁日を見て回ることにした。
別に何かを買う気もないが、こうしたお祭りは見ているだけでなんだか暖かい気分になれる。

 商店街も終わりが近づき、屋台もほとんどなくなっていた。
入口あたりの活気はもはや、影も形もない。
なんとなくもの寂しさを感じながらも、再び足を帰路に向けた時だった。
一つの屋台が目に入った。
いや、正確には屋台を片しているところだった。
 大柄な男が屋台の骨組みをまとめている。
その男もこちらに気づいたのか顔をを上げた。
体格的には二、三十代だと思っていたが、その顔には深いしわが刻まれていて、きれいな白髪であった。
男は老人のようだった。
だがその顔は精悍でみなぎる力にあふれていた。深いしわに似合わず、肌はきれいでこざっぱりとしていた。

 老人は私を見て、一瞬目を輝かせた。そして私に目を合わせた。
しばらくしてようやく老人は目を離した。
歳老いた男に見詰められたというのに何故だか下心を感じることはなかった。
むしろ純粋な少年に興味本位で見詰められた、という印象だった。

「いや、失礼しました」

 老人は柔らかい表情を浮かべ頭を下げた。
その声も老人とは思えないはっきりとしたエネルギッシュな声だった。

「あ、いえ」

 私も思わず、声をだした。
私はしばらくこの老人を見つめた。もしかしたらこの精悍な老人の魅力に取りつかれたのかもしれない。

「見ていきますか?」

 老人の声で私ははっとなった。
私はもう一度、この老人を見た。見れば見るほど魅力が見つかる。
非の打ちどころのないとはこういう人のことをいうのだろうか。

「私は少しめづらしい生き物を売っているんです」

 そういって老人はたたまれた屋台の裏から、箱を取り出した。

「といっても今いるのはこの一匹だけですが。
 ここで出会ったのも何かの縁。お代は結構ですからもらってくれませんか」

 老人が箱を開けると、ぼうっと蛍のような光が差し込んだ。
箱の中から現れた生き物を見て、私は息をのんだ。
今までに見たことのない生き物だったのだ。

 直径4センチメートルくらいの光る球体に昆虫のような羽が二対で着いている。
それは静かにぶんぶんと音を立て、老人の肩に止まった。

「こいつは叶虫です」

「かない…むし…?」

 見たことも聞いたこともない。だがぼんやりと光るそれは妖精を思わせた。

「簡単に言いますと、人の夢を叶えるのです」

「夢を叶えるって?」

「こいつは人の夢に向かう力を食べるのです。
 そう聞くと、怖い生物かもしれないですが決してそんなことはありません。
 こいつは人の夢を叶えて、その夢に向かうために使うはずだったエネルギーを自分のものにするのです」

 私は呆けてしまった。理屈はなんだか知らないが、こんなうまい話はあるはずがない。

「信用できませんか。まあ、そうでしょうね。
 ですがもらうだけもらっては頂けませんかね?どうせこのままでも処分してしまう予定ですし。
 それで気に食わなければ、捨てるなりしてください。養分が取れなければ、どうせ朝には死んでしまいます」

 老人はひゅっと口笛を吹いた。すると肩に止まっていたそれは箱の中に入っていった。

「命をつかさどる以外のことでしたら、ありえないと思われることでもできますよ。
 こう言っては失礼ですが、どんなわがままで理不尽なことでも」

 老人はそういって私に箱を渡した。
私は箱を両手で抱え、しばらく凝視した。わずかながらもごとごとと動いている。
こんな話があって良いのだろうか。

「すみません、やっぱり私…」

 断ろうと顔を上げた時、そこに老人はいなかった。あたりを見まわしたが、影も形もない。
それどころか、あったはずの屋台の痕跡までもが完璧になくなっていた。
背筋に寒いものが走った。
だが視線を落とせば確かにさっき受け取った箱が手の中にある。

 私は走って家へと向かった。その間箱はずっと私の手の中にあった。


 部屋で私はしばらく箱を睨んでいた。
あの老人の言ったことは本当だろうか。なぜ幽霊のように消えてしまったのか。
様々な思いが頭をめぐった。
だがそのうちに決心が着いた。
願いを叶えてもらおう。失うものは何もない。嘘でも何も損をすることはない。

 私はゆっくりと箱を開けた。
ぼうっとした鈍い光とともに、叶虫が現れた。少しぶんぶんとあたりを飛ぶと、机に止まった。

「叶虫。夢を叶えてくれる?」

 その言葉に反応したのかは分からないが、ピクリと羽が動いた。
私は大きく息を吸って言った。

「私、女優になりたい。いや、職業女優でなくともいい。演技をしたり、歌を歌うだけで暮らせる身分になりたい」

 そこまで言ってあの老人の言葉を思い出した。
どんなわがままや理不尽でもいい。
そこで私は続けた。

「だけど厳しいスケジュールや体系管理はしたくない。遊ぶ時間も十分にとれて、なるべく簡単にこなせる歌や演技ばかりがいい。
 そうしてるだけで生活ができて、みんなからチヤホヤされて、ステージは私の独壇場。たくさんのカメラが私の姿を映してる…」

 その先は思いつかなかった。しかし今言ったことで不足はない。

「叶えて!」

 私はまっすぐ叶虫を見ていった。

 すると叶虫は突然オレンジ色に輝いた。羽が激しく動くと、目にもとまらぬ速さで私に飛びついた。
思わず私は目をつむった。
 気づいた時には叶虫は私の背中側で飛んでいた。
いつの間に移動したんだろうか。確かに正面から飛びついてきたと思ったのに。
まさか身体を貫通したのか。
そう思って身体を見たが、怪我はおろか、服の穴すらなかった。

 しかし安心したのもつかの間、突然胸に違和感を覚えた。
今までに感じたことのない感覚。空腹のような、不安のような…
何か身体にぽっかりと穴が開いたような不快な感覚。
私は立っていられなくなり、膝を落とした。そしてそのまま横に倒れてしまう。
身体に開いた穴を修復するように、熱がその穴に集中していく。
痛みとも病気とも違う未知の苦しみに私の意識は遠のいていった。

71:メづすりα :

2014/03/29 (Sat) 13:53:18

 私は強い尿意で目を覚ました。

大学を出て以来、用を足していなかったことを思い出した。

 ここはどこだろう。

 私は床に横たわっていた。やけにひんやりとした床だ。
ゆっくり目を地面に向けるとフローリングの床だった。
私の部屋は絨毯敷きで、フローリングではなかったはずだ。

 身体をおこし、あたりを見回した。
少し広めの空間が広がっていた。私の家のリビングより広いだろう。
しかしそれに対して照明はあまりに小さく、薄暗かった。
 周りを見てみると赤い巨大なカーテンや照明器具など、様々な備品が目に入った。
まるでステージの裏方のようだ、と思った。
そしてそこではっと思い出した。

 叶虫が私を女優にしてくれたのではないか。

 私は興奮ぎみにあたりの捜索を始めた。
一番近くにあった扉を開ける。
小さな楽屋のような部屋が現れた。
簡単な机といすがあり、ペットボトルに入った市販のお茶が置かれていた。
大きな鏡が壁の一つに張られている。
テレビなどで見かけるまさに楽屋という印象の部屋だ。

 期待と興奮で心臓の音が激しくなった。

 叶虫がやってくれた!

 この楽屋には鍵もかかっていなかったし、誰かがいたような痕跡もない。
この部屋は私のために用意されたのだと確信した。
武者ぶるいが身体を襲う。 
私はゆっくりと歩を進め、部屋のロッカーに手を伸ばした。
その伸ばした手も興奮で震えているのが分かった。

 ここにはどんな衣装が入っているのだろう。

 自然と口が吊り上る。私の女優としてのデビューの衣装だ。
おそらくきっとどんなものでも素晴らしいものに見えてしまうだろう。
こんなにうれしくて、興奮しているのだから。

 息を飲んでロッカーを開く。
しかしそこにはなにもかかっていなかった。
私はしばらく放心した。
興奮の名残の鼓動がバクバクとむなしく身体の中をこだまする。

 ふと下を見ると、叶虫がロッカーの奥に止まっていた。
歓喜が訪れていた分、怒りも激しかった。

「ちょっと叶虫!衣装くらいちゃんと準備しなさいよっ。今すぐ出しなさい!」

 思っていたよりも大きな声が出た。
そしてそんな声に反応したのか、叶虫はヴヴヴと以前にも増して大きな羽音を出して私の周りを一周した。

 まぶしい光が私を襲う。
その光に吸い込まれるように私の服は消えた。
私は驚いたが、あたりのは誰もいないし新しい衣装のための前段階なのだろうと自分を納得させた。

 しかしそのあとの変化は私の予想だにしないものだった。

 急に胸が軽くなったのだ。

「ん?」

 私は驚いて胸を見た。胸についていたきれいな二つの半球が萎んでいく。
大きさはもちろん、形も完璧だった胸がその形をなくしていく。
そしてすぐに男性と変わらないまな板のような胸になってしまった。

「どういうこと!?」

 だか驚く間もなく次の変化に気が付いた。
すっかりひっこんだ胸からは股間が直視できる。なんとその股間に変化が起きていたのだ。
きれいに整えてあった股間の茂みがなくなっていく。一本、また一本と消えていき、とうとう全てが消えうせる。
それだけではない。
開いてびらびらとしていた割れ目が閉じていく。
やがて完璧に閉じてしまうと、ぷっくりとしたつるつるで縦一筋のものになってしまった。

「嘘…まるで子供みたい…」

 そうつぶやいたのもつかの間、突然おなかの奥で鈍痛が起きた。
生理痛に似たものであったが、何かが違う気もする。
そして事実、そんな鈍痛はまるでなかったかのようにすぐにひいていった。

『性器ノ変化完了。生理モ排除シタ』

 近くで人間のものとは思えないしゃがれた声がした。
見てみると、叶虫が声を発しているようだった。
そんな叶虫に抗議を言う間もなく次の変化が襲う。

 背が縮んでいく。
そしてだんだんと脚に力が入らなくなり、手を床についた。
だがその手も見慣れたものではもはやなかった。
ふっくらとしていて小さく、指も短い。しかもその縮小はまだ進行していた。
 手は動かしていないはずなのにだんだんと床が近づいてくる。
腕が短くなっているのだ。
小さくなっていく手。短くなっていく腕、指。
そして徐々にそんな手にも力が入らなくなっていく。
 私は恐怖に慄きながら脚を見た。
脚もまた腕と同じように短くなり、未成熟なものへと変わっている最中だった。
胴体はまだ変わっていない。胸こそなくなってしまったがまだいつものままだ。

『四肢ノ変化完了』

 そしてまた叶虫がつぶやく。
その言葉通り、私の手足はふっくらとした柔らかい、短い、未熟なものになっていた。
立ち上がろうとしたが無理だった。
手も足も以前のような力を出すことは出来ず、這うこともままならかった。

『胴体ノ変化ニ移ル』

 叶虫の無情な宣告は続く。
立ち上がろうと苦戦している私に突然内臓をひっくりかえされているような感覚が襲った。
私は横になったままうずくまった。
だがそれは失敗だった。
胴体が縮んでいく様子を目の前にしてしまったのだ。
おなかのくびれが緩やかになっていく。苦痛はないが自慢だったくびれがなくなっていくのはつらいことだった。
しかもくびれはなくなった後もその変化をやめなかった。
そのままのペースでふくらみ続け、ぽこっとすこし出るくらいでようやく止まった。

『胴体ノ変化完了』

 私はようやく立ち上がることができた。
しかし世界は全くの別物になっていた。ありとあらゆるものが視点の上にある。
私はゆっくりと鏡に向かった。
 きれいな砂時計は見る影もない。そのくびれがあるはずのところにはぽこっと出たおなかがある。
完全に洋ナシ体型だ。
だがそんな幼い小さな身体には、大学生のいつもの私の顔が乗っかっている。
整った大人っぽい顔立ちだけに余計に不気味に見えた。

「ああ、私こんな身体になっちゃって…」

 鏡に手をついてそうつぶやいた。
そして改めて顔を眺める。
すると突然、細長くスリムだった輪郭が崩れ始めた。
シュッとした顎が丸みを帯びる。
長くなめらかだった鼻筋が短くなっていく。
やがてその鼻筋はぷっくりとした顔に飲み込まれるように見えなくなった。
私の顔をきれいに整えていた鼻は、今やぷちっとした豆のような小鼻だけになってしまった。
目から角が取れ、どんどん丸まっていく。瞳が大きくなり、くりくりとしていく。
おでこも大きくなり、全体としてあどけなくなっていく。
歯が歯茎に飲み込まれて消えてゆく。
そしてその代わりと言わんばかりに純白で小さな歯が生え始める。乳歯であった。
髪も短く柔らかいものになり、茶色に染めていた色も黒に戻っていく。

『顔ノ変化完了』

 まさにその言葉通り。
鏡に映っているのはどこからどうみても幼児であった。
大学生だった面影など微塵もない。

 私は怒りに震えて叶虫を睨んだ。

「おいっ。どういうことだ。はやく戻せ。っん…でないとね、まこちゃんね、とってもね、こまっちゃうの。ふぇ!?」

『口調、仕草ノ変化完了』

 叶虫は私の話など聞いていなかった。
それどころか奴は私の内面的な部分にまで干渉を始めていた。
奴に言った通り私の口調は完全に幼児のそれになっていた。
だが心の中では通常通りに思考できている。口に出した時にだけ変換されるようだ。

『知識、精神ノ変化ニ移ル』

 「え?」

 奴はどこまで干渉する気なんだ。そんなところまで…
途端に頭に違和感を覚えた。
ぐるぐると記憶が回る。大学、高校、中学、果ては小学校、幼稚園まで。
それまで学んできた英語が、数学が、現代文が、古文が、歴史が、地理が、公民が、化学が、物理が、
算数が、国語が、社会が、理科が、
もじあそびが、かずあそびが、
頭から強引に引っ張り出され、持って行かれる。そして二度と戻ってこない。
そんな気がした。

「あふぁ…」

 頭が軽くなったとはこういうことを言うのだろう。本当に頭が空っぽになったような気分だ。
だがそんな空白を埋め合わせるように別のものが流れ込んできた。
なんだろう、これは。
それまでの知識は色で例えるのなら、何色もの色を混ぜ合わせたような複雑でなんとも言えない色をしていた。
今流れ込んできているのは、真っ赤や真っ青だろう。
なんの複雑性もない、原色の単純なまっすぐな色をしている。

 そして抜けていった知識が何であるか分かったように、流れ込んでいる知識もなんなのか分かるようになってきた。
そしてそれが分かった瞬間、私は顔をひきつらせた。

 女児向けアニメのキャラクターの詳細が事細かに頭に流れ込んできているのだ。
名前、性格はもちろん、必殺技や決めゼリフ。それまでのお話での活躍、主人公たちに合流した理由。
さらにそれぞれに私がどういう思い入れを抱いているかまで知識として入ってきてしまう。
 それが終わろうと、知識の流入は止まらない。
アニメの次はおままごとだった。
おままごとはどう進めていくべきか。いままでどんな役をしてきたか。
これから私はどんな役をしたいのか。

「いや、いや、こんな…こんな…こんなのいらないっ」

 私は「こんな知識はいらない」と言おうとした。
だがどうしても「知識」という単語を思い出すことができなかった。
私の頭の中の辞書にはすでに「知識」という単語はなくなっていたのだ。
類語として「覚え」が出てくるばかりで、結局「こんな"の"」と言うことしかできなかった。

 知識の流入は加速度的に増えていき、もはや追うことは不可能になった。
たまにとらえることの出来た知識も読み聞かされた絵本の内容だったり、童謡の歌詞だったりで、
私の気を滅入らせるものだけだった。
 
 知識は今まであった大学生としての知識の場所に入れ替わるように我が物顔でそこに居座った。
かつて「自動車」があった場所には「ぶーぶー」が居座り、
かつて「犬」があった場所には「わんわん」が居座っている。

『知識、精神ノ変化完了』

 私はしばらく眩暈がしていた。視界がホワイトアウトしかけ、激しい耳鳴りがしている。
だから叶虫が何を言ったのかよく聞き取るができなかった。

『…ノ変化完了』

 ようやく回復した時、私は改めてあたりを見まわした。
目に見えるものは先ほどと変わってはいない。しかし印象はまるっきり別物になっていた。
まず部屋にある半分以上のものが、名前も分からない"未知なもの"になっている。
さらにひらがなや時計すらも読めなくなり、この部屋にある一切のメッセージが意味のないものになっている。
どういうものか推測しようにも単純な思考しかできなくなっていた。
少しでも難しい事柄がからむとすぐに訳が分からなくなって、考えられていたはずの単純な思考ですらままならなくなってしまう。
一生懸命考えようにも、頭にうかぶのはファンタジックで荒唐無稽な"幼稚な空想"だけであった。

『全テノ変化完了。コレデ生誕カラ3年190日ト同ジ状態トナッタ』

 もはや叶虫の言っていることも理解することは叶わなかった。
「へんか」も「かんりょー」も「せーたん」も「じょーたい」も意味が分からない。
あまつさえ「ひゃくきゅーじゅー」が数字であることすら分からなかった。
分かることは私は今やどの角度から見ても立派な幼児であるということだ。
おそらく大学の友達と話が合うこともないだろう。
なぜなら今私が真っ先に人と話したい内容は前回見たアニメの内容についてだったのだ。
大学生としての意識でどんなに大人っぽい内容を考えようとしても無理だった。
どんなに思考を整理したところで、そこにある知識は幼児のものであり、アニメや人形などの話であふれている。
そもそも話の前提となる知識に大人が好みそうな事柄がないのだ。
そこから大人な話題を導きだそうなどというところからそもそも無理な話なのだ。
しかし発想までもが幼児のそれになった私はそこまで考えが行き着くこともなかった。
だが一つの結論として認めざるを得なかった。
私は本当に幼児になってしまった。
 大人としての知識を奪われ、代わりに幼児が当然持ってているべき知識とも言えない知識を埋め込まれた。
大人らしい思考や発想をすることももはや出来ない。
私が大学生として何をしていたかの記憶はある。
しかしどういう思考で何故その行動に及んだのか全く分からなくなっていた。
今の私は、大学生として幼児の思考が理解できなかったように、大人の思考が全く理解できなくなっていた。
72:メづすりα :

2014/03/29 (Sat) 13:54:53


「まこたん、こどもになったったっ!」

 不意に甲高い声が口からこぼれ落ちた。私は思わず口を手で押さえた。
私は思ったことを無意識のうちに口に出してしまったのだ。それも誰が聞いているわけでもないのに大声だった。
それこそ普通の幼児がなんの躊躇もなく大声で叫ぶのと同じだった。
理由などわからない。ただ今思ったことを口に出したい強い衝動に駆られたのだ。

 私は鏡を再び見た。
幼い顔に違いはなかったが、全く印象の異なる顔つきになっていた。
肉体の変化だけだった時は、幼さの中にも冷静さや聡明さが見え隠れしていた。
しかし今の私はまるっきりしまりのない表情で、お菓子あげると言われたら簡単についていきそうな顔になっていた。


『デハ衣装ヲ着セテヤル」

 叶虫はそういってまた私の周りをくるりと回った。
同じように閃光がまた私を襲う。未熟な股間には私の"大好きな"アニメのキャラクターが描かれたキッズ用のショーツが現れる。
肌着はそれで終わりなのだ。ブラジャーなどあるはずがない。
分かってはいたが、ショーツだけで下着の形成が終わってしまったことは胸の損失感を思い出させる結果となった。
上着が形成されていく。
銀色でつるつるとしていて輝いている。サテン生地だ。それもおそらく安物である。
そして下半身も光に包まれると、同じようなサテン生地のズボンが現れた。
ピンク色でどちらかというとかぼちゃパンツのような印象だ。
最後に胸元に赤いリボンが縫い付けられた。

 光が収まると、私は鏡の前にいた。全身をきらびやかなサテン生地に包んでいる。
いかにも幼稚園のおゆうぎかいといったちゃちい衣装だった。
だがそんな私の意思に反して、

「うわあ、すごぉーい」

 私の"表面的な部分"は興奮していた。
ただその衣装がきらきらしているという理由で私は得も言われない高揚感を感じていた。
こんな衣装着たくはなかったはずなのに。

『全テハ終ワッタ。デハソナタノ理想ノ世界ヲ楽シムガヨイ』

 そういって叶虫はどこかに行こうとした。
慌てて私は奴を引きとめた。

「ねぇ、まってぇ。なんで、まこたん、ちったくなったの?なんで、なんでぇ?」

 精一杯の大人っぽい言葉を選んで私は奴に尋ねた。
結果として非常に子供っぽい話し方ではあったが、そんなことを気にする余裕も知識も今の私にはない。

『ソナタノ願イハ演技ヤ歌ヲシテイルダケデ、生活デキルコト。サラニスケジュールヤ体調管理ニ拘束サレルコトモナイ身分ダ。
 ソウシタ条件ヲ満タスノハ、オ遊戯デ劇ヤ歌ヲ行ウ幼稚園児ダケトイウ結論ダ。
 シタガッテ、ソナタニハソレニ最モ相応シイ肉体ト精神ヲ与エタ」

 叶虫は丁寧に説明したのだろう。しかし今の私には何一つ理解することは出来なかった。
難しい言葉と言葉使いばかり。意味の分かった単語といえば「ようちえん」と「おゆうぎ」くらいのものだった。

 私に理解する時間も説明も与えずに叶虫はそのまま霧のように消えていった。
私は楽屋にひとりぽつんと残された。
そして異常事態の中でそれまで忘れていた感覚を取り戻した。
尿意である。
大人の身体ですら強い尿意を感じるほどだったのだ。
小さくなったことにより、その膀胱は限界を超えようとしていた。

「うう、まこたん、ちっち…」

 誰もいない中ででまたつぶやいてしまった。
思ったことをすぐに口に出してしまう幼児の身体のせいということもあったが、別の理由もあった。
おしっこしたくなったら先生かママにすぐに言いなさい、と言われたことを思い出し反射的に言ってしまったのだ。
もちろんそれも大人の知識の代わりに埋め込まれた幼児の知識ではあったが。

「ちっち、どこお?」

 トイレという単語は出てこなかった。
さすがにその単語まで頭から抜けてしまったわけではなかったが、
「トイレ」という単語は今の私にとってあまりになじみのない単語になっていた。
例えるなら「ヒト」をわざわざ「ホモサピエンス」というようなもので、
たとえ正式名称がトイレだとわかっていても「ちっち」と言ったほうが理解しやすいし、しっくりくるのだった。

 私はちっち、もといトイレを探すために扉を開けた。
するとすぐそこにエプロンをした女性が立っていた。

「あら、まこちゃん、お着替えできたのね」

 のぞみせんせいだった。
もちろん本来私は「のぞみせんせい」など知っているはずがない。
しかし先ほどの知識の流入で、私はこのオトナを「やさしくて私の大好きなのぞみせんせい」だと認識できるようになってしまっていた。

「もうすぐ本番だね。準備は大丈夫かな?」

 のぞみせんせいは優しく私に尋ねる。

「う、うん。だいじょおぶ…」

 なぜか"ちっち"のことは言ってはいけない気がした。
幼いなりにも私はおゆうぎかいの本番はとても大切なことだと認識していた。
そんな大切なことなのに、それより先にちっちに行くなんていけないことで、叱られるような気がしたのだ。
 もちろんこの場で尿意を訴えれば、この女性は笑顔で私をトイレに送り出しただろう。
排尿は生理現象で、基本どんなことよりも優先されてしかるべきものなのだ。
しかし今の私にそんな知識はなかった。
ちっちに行くということはただの自分のわがままで悪い事だと私の幼い頭は判断してしまったのだ。

「それじゃあ、ステージに行こうか?」

 のぞみせんせいは私の手を引いた。
あまりに強い尿意に下半身は麻痺したような感覚になっていた。
それでも前述のとおり、私はトイレにいくことは出来ない。 
そしてステージのすぐ裏へとたどり着いた。

「まこちゃん。お客さんがたくさんいるけど、緊張しないでね。いつもの通りにすれば平気だからね。
 深呼吸してみようか。はい、すーってして」

「すーーー」

 私は言われた通り、すーっと口で言いながら息を吸った。

「はい、はーって」

「はーーー」

「落ち着いたかな?」

「うん!」

 この女性の言うとおりだった。この体になってから私は一番の落ち着きを取り戻した。
同時にそれは大人としての意識が強く出る瞬間でもあった。

(私はいったい何をしているんだ。
 このままじゃ、心までただの幼児になっちゃう。
 せめて心だけでも大学生であることを覚えていなきゃ)

『分カ…ッタ…。ソ…ノ望ミ…カナ…エヨウ…』

 突然、叶虫の声が聞こえた。その声はひどく弱弱しかった。
叶虫はいったいどこにいるのだろう。あたりを見まわしたがその姿は見えなかった。
だがそんなことよりも私には重大な変化が起きていた。
大学生の心が完全に戻ってきたのだ。

 いきなり夢から覚めたような感覚になった。

(私ったらいったい何を?
 うぐ…それにお腹いたい…すぐにトイレに行かなきゃ!」

 しかしそれはもっとも残酷な結果を生むこととなった。
私は大学生の冷静で聡明な"心"を取り戻した。
そしてその心はまず、トイレに行こうとする。
トイレに行くためには当然身体を動かさなければならない。
身体を動かすためには脳からそうした信号を送らなければならない。

 私は脳にトイレに行くように命令した。
だが心がどんなに聡明だろうと、物理的な影響力を持っているのはこの脳にほかならない。
つまり、この脳の思考にそった行動しか出来ないのである。
私のトイレに行け、という命令はこの脳を通じて「いま、ちっちにいくとしかられる」という解釈をされて体に送られた。
どんなに私が脳に働きかけても、その身体は動かず、その幼い思考も覆ることはなかった。

(こんな…こんなのってないよ。結果的に何も変わってないじゃない!
 ただ私の意識が鮮明にこの屈辱を理解できるようになっただけじゃない!)

「最後にもう一回、衣装の確認しよっか?」

 のぞみ先生はそういって私を鏡の前に連れて行った。
きらびやかなサテン生地に身を包んだ幼児。
幼くて無邪気であどけない顔の幼児。
 これが今の私なんだ。
女優をこころざし、大人っぽい流行りのファッションに身を包んでいたはずなのに。
こんな子供っぽくて、安っぽい衣装を着てるなんて。
信じられない。
こんな服早く脱ぎたい。
お願いだから、私。
こんな恥ずかしい服はやく脱いで。
そしてトイレに行って!

 もちろんその願いは叶うはずもなかった。私の脳はこの服は「きらきらですごいふく」と認識しているのだ。
そんな「すごいふく」をここで脱ぐ道理などなかった。

「うん、衣装も大丈夫みたいだね。最後にじゃあ、"いつもの"かぶろうね」

 いつもの。
それが何なのか、埋め込まれた知識で検索した。
そしてその正体に気づいた時、のぞみ先生がそれを私に見せた時、私は青くなった。

 うさぎの耳がぴょこんと飛び出たピンク色のフード。

「じゃあ、かぶろうね」

 のぞみ先生はそういってゆっくりと上からウサ耳のフードを近づけた。

(いや、そんな幼稚で恥ずかしいもの、着たくない。やめて!お願い!)

 そんな心の叫びもむなしく、私はウサ耳のフードをしっかりと頭に装着されてしまった。
独特のふかふかな繊維が常に頭を刺激する。
何か中に型が入っているのか、ぴったりと私の頭にはまった。ちょっとやそっとでは外れそうもない。

「これで、まこたんも、うさぎさんだぁ!」

 私の心を知ってか知らずか、"私"は嬉しそうに声をあげた。

「うん、そうだね。それじゃ、時間だよ。元気よくやってね」

 そういってのぞみ先生はCDのスイッチを入れた。

73:メづすりα :

2014/03/29 (Sat) 13:57:23

 CDから軽快な音楽が流れ始めた。
それは私が毎日聞いていたおなじみの曲だった。
そこまで考えて私ははっとなった。

 こんな幼稚な曲、私が毎日聞いているはずがない。

 埋め込まれた幼児の知識がそういう風に錯覚させているのだ。
私自身はこんな曲初めて聞くはずだ。
しかし私の幼い脳はそんな冷静な判断は出来ない。
埋め込まれた知識に従ってこの曲が流れてきたらどう行動するかを判断していく。

 これは「うさぎさんのきょく」だ。

 そしてそう判断するや否やこの曲に合わせてどう歌うのか、どう踊るのかが頭を駆け巡った。
そしてこれから私がするであろうことが分かり、私は早くも羞恥に震えた。。
前奏が終わったら、私は歌いながら踊りながら表舞台に行かなければならない。

 行きたくない。

 だが無情にも前奏は間もなく終わろうとしていた。
私の身体は勝手に歩いていきカーテンのすぐ後ろにスタンバイした。

 やめて。こんなこと。

 私は必至にやめるよう、この体に懇願した。
だがこの身体の答えはなんとも残酷なものだった。

 私はこの日のために頑張って練習してきたのだ。
最初は歌も踊り全然覚えられなかったけど、毎日一生懸命やって覚えれるようになった。
だからみんなに見てほしい。みんなに見せてあげたい。

 これが私の"身体"の答えだった。
絶望のなかでとうとう前奏が終わってしまった。

 "私"はスッと両手を持ち上げると、おでこの上の方に手の甲をくっけた。
そして膝を軽くまげて、少し前かがみのまま勢いよくステージにむかって両足でジャンプした。

「ぴょぉーーんっ!ぴょぉーーんっ!」

 "私"は出来る限りの大声でそう叫びながら入場した。
両足で地面を蹴るたびに"私"は「ぴょぉーーんっ」と叫ぶ。
もちろんそれと同時に両手でこしらえた"耳"を前後に動かすことも忘れない。

(やめてぇっ。やめてよぉ!こんな恥ずかしいマネしないでよぉ!)

 私は心でそう叫んだが、全く意味はなかった。
それごころか、私の身体は顔中満面の笑みを浮かべている。
さらに特大の羞恥に加え、跳ねるたびに身体が振動し膀胱が刺激されるのだ。

(せめて振りを小さくしてよ。おしっこ洩れちゃう…)

 この幼児の知識によれば"私"はステージの中央までうさぎの真似をしながら飛び跳ねることになっている。
私にはそのわずかなはずの距離も絶望的な長さに見えた。
あと何回私はぴょーんというだろうか。
5回?
いや、この体はそんなに跳躍力はないから6回は必要かも。もしかしたら7回?

「ぴょぉーーんっ!ぴょぉーんっ!」

 耳障りな甲高い舌足らずな声が耳にいちいち突き刺さる。
こんな声を私が出しているなんて。
憎たらしいことにその声は全く恥ずかしげのない大きな声だった。

「ぴょぉーーんっ!ぴょぉーーんっ!」

 私は少しでもこの観客が私を見ないように願うばかりだった。
私以外にいったい何人の子がステージにいるだろうか。
一人でも多ければそれだけ私への注目は減る。出来れば10人以上いることを期待した。
そして少しでも私の声を消してくれる騒音があることを期待した。

 だが、その期待は簡単に打ち砕かれた。
なんとステージには私しかいなかったのだ。

(なんで?お遊戯会って普通複数人でするものでしょ?)

 さらにこのステージには客席を含めて何の音もなかった。
ステージの作りは舞台で拾われた音が観客席中に奥深く反響するようにできている。
さらに外部からの音には完璧な防音が施されている。
最高峰のオーケストラやオペラで使われるような音楽ホールであった。
そして音響のみならず、視覚的にも私に注目せざるを得ないようになっていた。
ありとあらゆる照明が落とされ、ただ一つ巨大なスポットライトだけが私の姿を照らしてした。
それ以外に光は見受けられない。
闇の中で唯一光を浴びている存在として私はステージ立っていた。
 そこまでを見て私は叶虫に「私の独壇場」にステージがなるように願ったことを思い出した。

「ぴょぉーーんっ!ぴょぉーーんっ!」

 ということは当然そのあとに言ったことも叶えられているだろう。
"私"はステージの中央に到着すると、くるりと客席の方へ向いた。
思った通りだ。
私の願ったとおり「たくさんのカメラが私の姿を映している」。
テレビ撮影で使われるような大型のカメラから、観客がもっているケータイカメラまで。
この私の恥ずかしい姿と仕草を大小無数のレンズがとらえ続けている。

 見ないで。見ないでよ
せめてそのカメラだけでもしまってよ。
私のこの姿が映像に残るなんて、耐えられない。

 私はステージの中央に立つ頃には、羞恥でゆでだこのようになっていた。
そして私は歌を歌いだす。

「わたぁしぃはぁねぇーーー!もりぃーにすぅーむぅー!うさぎさんっなんだぁよぉーーー!」

(えぇ!?なによこれぇ!?)

 私は自分の発した歌に非常に驚いた。
歌を歌いだしたことに驚いたのではない。
あまりにひどい歌の出来栄えに驚いたのだ。

 キンキンと耳をつく甲高い声で抑揚のない舌足らずな歌が紡がれていく。
そこまでならまだ幼児の身体になったせいだと言えるだろう。
しかし問題だったのは音程も音階も流れている曲と全く合っていないことだった。
ただそれらしいテンポがあるだけで、曲に合わせて歌っているというよりはただ叫んでいるという方が正しいくらいだ。
もはや音痴と形容するのもおこがましいほどであった。
同時に行われている踊りも同様で、流れている曲はおろか自分で歌っているテンポにすら同調できていなかった。
傍目にはただなんとなく手足を回したり、動かしているようにしか見えない。

 ただ一つ弁解できるとしたら、声の大きさ、踊りの身振りの大きさだけであろう。

(お願い。こんな音痴な歌、披露しないで。せめて声を小さくして…
 でもなんで!?私が本当の三歳児だったころはもう少しマシだったはず…)

 それこそが私に起きた最後の変化だったのだ。
知識・精神の変化の後、私に眩暈がしている間に叶虫が変化させたもの。
それは技術・才能だったのだ。

 さらに私を羞恥地獄におとしめているのは、このホールだった。
はっきり言って聞くに堪えない、この歌というのも愚かしい歌を、私は最高級の音質で響かせている。
舞台の隅々に設置された高性能マイクがあらゆるステージ上の音を拾ってしまう。
客席の一番後ろに座っていようが、四隅で立ち聞きしていようがまるで一メートル先で聞いているような臨場感が得られる。
これがこの舞台だったのだ。
 それだけならまだ一過性ものだと我慢できる余地があったかもしれない。
だが無数のカメラが私の姿をとらえている。
舞台でさえこのクオリティなのだから、カメラにしても安物のはずはないだろう。
そんな矢先、"私"はくるりと身体を回した。もちろん踊りの一環でだ。
くるりというのは私の理想で、実際はちょこちょことぎこちない足取りで回転しただけのだが。
その時、ステージの端で私を映しているビデオカメラが目に入った。
プロのテレビカメラマンが使うような巨大な機械。
そしてなんと4Kカメラであった。

(4K!?確か通常の映像より四倍鮮明なんだっけ?じょ、冗談でしょ?)

 私はこの恥ずかしい姿と歌、踊りを4Kという肉眼で見るような画質で録画されているのだ。

(もうやめて。おねがいだから。叶虫、そこにいないの!?さっきみたいに私の願い叶えてよ。
 私を元に戻して!これが叶ったら後はなにも叶えなくていいから!お願い!)

 しかし叶虫が現れることはなかった。

 
(ううぅ…洩れる、洩れる、洩れちゃうよぉ…)

 "私"は相変わらず元気な踊りを続けていた。
激しく身体を動かすたびに洩れてしまうのではないかという気がした。

 そしてちょうどサビの部分であった。"私"はまた両手で耳をつくり
「うさぁあぎさぁーんっ、ぴょぉーーん」
 と言いながらひときわ大きく両足で飛び跳ねた。

 どん、と地面についた瞬間股間にじわりとした感覚がした。

(え?まさか)

 気づいたら今までの下半身の緊張が解けている気がした。

 ちょろちょろ…

 もはや間違えようはなかった。
私の股間はとうとう限界をこえて排尿を始めていた。

(いやあぁぁ!だめぇ!)

 そしてとどめを刺すかのように"私"はもう一度大きく跳躍した。
また地面に着いた衝撃が身体に伝わる。

 じょおおおおお…

 それは漏らしちゃった、とか、ちびったちゃったとかではなかった。
いつも便座に向かってするような、いやそれ以上の勢いでの排尿行為だった。
ピンクのかぼちゃパンツの正面にすぐ大きな黒いシミが広がっていく。
おしっこが作られたのは幼児の身体ではなく大人の身体の時であった。
私の小さな身体から大人と同じだけの想定外の量の尿が排出されていく。
すぐにパンツの吸水量を超えて、恥ずかしい水が脚をつたい落ちていく。

(うわぁぁぁん。いっそ殺してぇっ。大人としての意識をけしてぇぇっ!)

「ぴょぉーーーんっ!ぴょぉーーーんっ!」

 それでも"私"は満面の笑顔で踊りと歌を続けていた。
跳ねて着地するたびその振動でまたひとつまたひとつと水滴が脚をつたう。

「ぴょぉーーーんっ!ぴょぉーーーんっ!」
 
 歌のクライマックスと同時に"私"の歌と踊りも激しさを増していく。
動くたびに濡れたズボンが肌に触れる。
恥ずかしい水滴が流れ落ちていく。

(もう、もういやだ)

 私の目から大粒の涙が零れ落ちた。
この上ない羞恥。プライドの高い大人の心が私を苦しめ続けた。
もちろんこの幼稚な醜態も映像として残されることだろう。
そうしたことを考えてあまりの羞恥に涙がこぼれたのだ。
それは大人の私の心が唯一肉体に干渉できた瞬間でもあった。

 そしてこんな醜態をさらそうとも満面の笑顔でいる"私"が心底憎かった。

 曲が終了し、"私"は決めポーズをとった。
それがどんな稚拙なものであるかなど、もはやどうでも良いことだった。
ステージの上で間違えようのないおもらしをしてしまった。
ぐっしょりと恥ずかしいシミをつけたパンツで私は踊った。
私の足元に小さな黄色い水たまりを作ってしまった。
そしてその一部始終をを超高性能カメラで録画されてしまった。

 これ以上の羞恥があるだろうか。

 私にあたっていたスポットライトが落ち、客席に光がともった。
すると割れんばかりの万来の拍手が巻き起こった。
私のこの醜態を笑ったり軽蔑したりするような人はいない。

(ねえ、お願い。笑ってよ。ひそひそ話でもバカにしてよ。これじゃあ余計にみじめじゃない)

 私は涙で潤んだ視界で客席を一瞥した。
そしてその客を見て驚いた。

(え?ユウコじゃない!?なんでこんなところに!?いや、ユウコだけじゃないヒトミまで)

 だが客席にいるのはそうした大学の友達だけではなかった。
数百人単位で収容できるこの舞台の客席にいるのは全員、私の知り合いだったのだ。
親戚は言うまでもなく、小学校から高校までの恩師、クラスメート。
部活、サークルの同期、先輩、後輩まで。
当然そのなかには初恋の憧れの先輩もいた。
それどころか今付き合っている彼氏の姿もあった。

(全員、私の知り合い…?そんなカレまで…)

 彼らはみな本当に素晴らしいものを見たという表情でいつまでも私に拍手を送り続けた。
私を下心や見世物で喜んでいる訳ではない。
本物の女優の演技を見たような顔だった。
74:メづすりα :

2014/03/29 (Sat) 13:58:35

http://bbs1.fc2.com//bbs/img/_498400/498311/full/498311_1396069115.jpg 挿絵です。
75:メづすりα :

2014/03/29 (Sat) 14:00:30

 私の舞台はこうして幕を閉じた。

 のぞみせんせいは叱ることも嫌な顔もすることはせず笑顔で私の下着をかえてくれた。
まるで驚く素振りもなかったから、おもらしなんて当たり前だと言っているようなものだった。
そうせんせいから思われていることは余計にみじめだった。
しかし幼児の知識をたどってみれば"私"は確かに結構な頻度でおもらしをしていた。

 私はこの舞台のことは忘れようと必死だった。
できればもう二度とこんな舞台は見るのも嫌だった。
 だが現実はあまりに非道だった。
 私はあのあとみんなから異様に「チヤホヤ」されたのだ。
そもそも私が願ったことなのだから自業自得といえばそうなのだが、
これはただの私の傷を蒸し返す出来事に違いなった。
 ママやのぞみせんせいに連れられ、私は大きなホテルの食事会場に連れていかれた。
舞台の観客だったひともほとんど出席しているようだった。
そこでのメインステージは4Kカメラで録画された私のお遊戯だった。
私は下手くそというのも下手くそに失礼なほどの歌と踊りを再びさらすはめになった。
当然あのおもらしもノーカットで収まっている。
 驚いたのはお遊戯をしていた時間がほんの3,4分であるということだった。
感覚的には私は何十分もお遊戯をしているようだった。
激しい羞恥から早く終わってほしいと思っていたことも理由のひとつだろうが、
それよりも"私"が次の歌詞や踊りがなんであったか思い出すのに必死だったことが大きかったのかもしれない。

 私はともかくチヤホヤされつづけた。
私の知り合いたちは私を本物の女優のように扱うのだ。
そして「おどってよ」とひとたび言われると、"私"はもう踊らずにはいられなかった。
「ぴょーーん」と"私"は叫びながらリピート上映されている舞台の映像の前で同じことをしてみせた。
もちろん私は「やめてぇ」と始終さけんでいたが、"私"はどうやら人前で踊るのが大好きなようだった。

 食事会が終わり、家に帰っても私は幼児のままだった。
願いのニュアンスには「これから一生」というのが含まれていたのだから当然なのだが、
舞台が終われば私は戻れるかもしれないという淡い期待は裏切られた。
 家でも話題は私のお遊戯のことでもちきりだった。
たかだがあの3,4分のどこにそんな話す話題があるのかは分からないが、とにかくその話ばかりだった。
 母が面白半分でCDで「うさぎさんのきょく」を流した。
そして"私"は反射的にまた「ぴょーーん」と恥ずかしい踊りを披露してしまった。
 私はもうあんなこと忘れたいのに、周りの「チヤホヤ」がそれを許すことはなかった。

 翌朝、叶虫が私の部屋の窓のところっでぐったりしているのが見つかった。
死んでいるようだった。
どうやら私から養分をとることができなかったのだ。
叶虫が養分にするのは人間が夢に向かって使うはずだったエネルギーだ。
もしも私が「幼児になりたい」という夢を持っていて、それを叶えるために邁進する予定だったのなら、養分は取れただろう。
しかし生憎私はそんな夢は全く持っていなかった。
せっかく幼児化させたのに養分が全くとれなかった叶虫はさぞ驚いたことだろう。
そこで叶虫はなにか願いに不備があったことに気づいたのだ。
あわてて新しい願い事を叶えに戻ってきたとき、私は偶然にも「大学生の心を保つ」ことを願っていた。
それを最後の力をふりしぼり叶えたのだが、それすらも私の「夢」とはほど遠いものだったのだ。
大量のエネルギーを消費したのにも関わらず、全く養分を得ることは出来なかった。
この時点で叶虫の死はほぼ決定的なものになった。
叶虫は勘違いで私をおとしめたばかりか、自分の生命維持に必要な養分さえ取ることができなかったのだ。

 叶虫に悪気があったわけではない。
失敗すれば自分の命さえも絶たれてしまうのだ。
しかしそうは言っても小さい努力で養分を得られるのならばそれにこしたことはない。
叶虫は私の願いを聞いてその条件に見合った見本を探した。
しかし私の願った内容を全て満たしている既存の女優は居なかったのだ。
何も見本もなく新しくものを作るという行為の難しさは、みなが知る通りである。。
叶虫とてそれは同じことだ。
そこで、叶虫は「年齢」という条件を外して見本を探したのだ。
そして見つかったのがお遊戯をたしなむ幼児だったということだ。
私の願った内容と矛盾するところはない。
 このたびの悲劇の原因の一つには私があまりにも「わがままで理不尽」なお願いをしたことにあったのだ。


 あれから半年が立った。
この時期の子どもは成長が早い。
私はすくすくと大きくなるはずだった。
しかし私は相変わらず3歳190日のままだった。
 冷静になって考えてみればこれは当然のことであった。
叶虫は一言も私を若返らせたとはいっていない。
言ったことといえば私を3歳190日の"状態"にしたことだ。
つまり時計の針を単純に逆に進めたわけではない。
私という存在を塗りつぶすようにして新しい"状態"を付与しただけなのだ。
だからこそ私が本物の三歳だったころよりも歌は下手くそになっていた。
 そして幼稚園というものは三年で終わってしまう。
小学校に通うようになってしまえば、私が願ったような「演技と歌だけの生活」は出来なくなる。
だから叶虫は私をこの状態に固定したのだ。半永久的に私の願いが続くように。

 お遊戯の発表会は最低でも一か月に一回はあった。
多いときは一か月に三回はある。
しかしその練習は決してハードになることはなかった。
毎日半日だけ幼稚園に通い、充分に遊んでからやっと練習にとりかかる。
どんなに長い日でも一日二時間を超えることはなかったし、それも何回も休憩をはさんでのことだった。
 練習するにしたがって私は歌詞や踊りは覚えることは出来た。
だがこのひどい音痴だけは一向に改善される傾向はなかった。
 この練習中"私"はどんなに尿意を覚えてもトイレに行こうとはしなかった。
いくにしても必ず途中にはさむ休憩中だった。
だから練習中におもらしをすることは一回や二回ではなかった。
そんな私であるから終いにはおむつの着用を義務付けられるようになってしまった。
しかしそれでもいつも笑顔で優しくしてくれるのぞみ先生に、いつしか私は好意を抱くようになった。

 
 今日は外でお遊戯の練習をした。
幼稚園の近所の児童公園だ。太陽が暖かくぽかぽかと差し込んでいて気持ちがよかった。

「きーらきーらぁひぃかるー。よーぞーらーのほぉしよーー」

 そう歌いながら"私"は手首を回して星をかたどる。
相変わらず"私"の歌はひどい音痴だ。
それでも下手の横好きというか、私が歌が好きだったせいなのか、"私"はとにかくこの歌をだれかに聞かせたくて堪らなかった。
その分練習にも力が入り、本番と同じような大声を出して歌う。

「ああっ。まこちゃん、おもらししちゃったね」

 突然のぞみせんせいがそう言った。
そんなばかな、私はそう思ったがせんせいがたくしあげたスカート中では確かにおもらしマークがついていた。
私の顔は真っ赤になった。
最近お遊戯に最中には尿意すら感じなくなっている。
本番中での失敗だってもはやあの"初舞台"だけの話ではなくなっていた。

「じゃあ、このベンチでごろんして」

 この公園はスーパーのすぐ近くにある。例え平日の昼間だろうとこの公園の人通りは多い。
そんな公園で排泄物で汚れた股間をさらすなど、屈辱の極みである。
しかし"私"は言われた通りベンチに仰向けで寝た。"私"にそんな羞恥心はないのだ。
 ぐちゃっ
 得も言われない気持ちの悪い感触がおしり中に広がる。

「あら、ちっちだけじゃなくうんうんも漏らしちゃったのね」

 にわかにはせんせいの話を信じることができなかった。
さすがに便意くらいは感じるだろうと思っていたからだ。
だが今まで感じたことのないぐちゃりとした感触と、風にのって大便の臭いがしてきては、さすがに認めざるを得なかった。

 私は赤いほっぺをさらに赤くして自分の股間を眺めた。
ぴったりと閉じた一本線の股間は小水でテカテカと輝いている。
そんな股間をのぞみせんせいは丁寧にウェットティッシュで拭いていく。
どんなに股間を責められようが、今や快感のなごりも感じることはない。

 そしてまた、風に運ばれて股間の臭いが鼻を刺激する。
それは大人の女性の臭いではなく、アンモニア臭と大便の臭いであった。







<おしまい>
76:メづすりα :

2014/03/29 (Sat) 14:11:30

最後までお読みいただきありがとうございます。

気づいたら暫定の「制服…」を超える文字数になっていました。
今回感じたのはちゃんと
構成を練ってから作れば短時間でそれなりの量のある作品が作れるということでした。
何も考えず書いていた制服とは筆の進みがまるでちがいました。

ここに登場する「怪物」はあまりにもかわいいものなので
とらさんの意図したものとは違うものになっているかもしれません。
そういうことも考慮して、一応自分の立てたスレに投稿しました。

制服…のモチべは相変わらず低いままです。
最悪打ち切りも頭に入れています。

きまぐれではありますが今後ともよろしくお願いします。
77:青年A :

2014/03/29 (Sat) 15:06:03

お疲れ様です。
すばらしいです。
能力のある女性が無力な幼児にされ、精神だけが大人のままという描写がとても面白かったです。
制服・・・のモチベが低いままであれば、違う作品を作って気分転換や頭の中を整理する時間を作ったほうがいいかもしれません。
気分がのらないとつらいと思うので。
またメづすりαさんの新作かはたまた続編かはわかりませんが、作品を読める時を楽しみにゆっくり待っていますね。
78:いりごま塩 :

2014/03/29 (Sat) 17:37:09

人違いだったら申し訳ないのですが、pixivでも活動していますよね?
挿絵の画風に見覚えがあったので。
79:とら :

2014/03/29 (Sat) 19:06:56

自分は『怪物』という制限を設ける事で作品を上げる刺激になればという目的であの提案をしました(余りにも自由すぎると人間かえってアイデアが沸かないものです)

ですので『俺の思ってたのと違う! やり直し!』なんてことは言いやしませんぜ(・ω<) 寧ろ『若さや時間をエサにする怪物』のアイデアに凝り固まっていたのでこの作品が良い刺激になりました。

途中までわざと願いを曲解して叶えたのかな、と思ってましたがそうじゃなかったのは予想外でしたね
80:メづすりα :

2014/03/30 (Sun) 21:22:00

コメ感謝です。
最初はとらさんの予想されていた通り、
わざと歪曲して夢を叶えているいうアイデアでしたが、
そういうのは侮辱代理店と作風が被ると思ったのでやめました。

 pixivは観覧用アカは持ってますが、活動はしておりません。
81:いりごま塩 :

2014/04/01 (Tue) 12:43:24

人違いすいませんでした。
叶虫、面白かったです。
主人公の思う通りになったIFを書いてみたいですね。
82:青年A :

2014/05/01 (Thu) 14:40:59

お疲れ様です。
しばらく更新も反応もないので、とても忙しいことと思います。
お元気ですか?
そこだけ確認したくて書き込みました。
83:メづすりα :

2014/05/01 (Thu) 18:03:56

新年度の忙しさは自分の予想を遥かに超えていました(笑

実は今、『制服は身を引き締める』の
リメイクを作っています。
というのも、この作品はあまりにもいきあたりばったりで書いてしまい、収集が着かなくなってしまったのです。
もう一度物語を構成しなおしてすっきりテンポよく進むようにするつもりです。
もう少し、先になるとは思いますが、一応まだ生きているという報告ということで。
84:とら :

2014/05/01 (Thu) 22:47:20

 自分も以前に後先考えずに書いて駄目にした話のリメイクを上げました。駄目にしてしまった話に新たな命を吹き込むのは大きな喜びになると思いますよ
85:青年A :

2014/05/02 (Fri) 00:07:15

お忙しいところ返信ありがとうございます。
制服は身を引き締めるの話はかなり面白いと思って読んでいたのでリメイク作品も面白いと思います。
期待しつつも気長に待ちますね。
86:青年A :

2015/04/12 (Sun) 11:53:23

お久しぶりです。
pixivでの投稿を見ました。
メづすりさんの作品は面白いので、もし新作を作られる予定があるのであればまた読みたいです。

お忙しいと思うので、余裕があればぜひ頑張ってほしいです。
87:メづすりα :

2015/06/11 (Thu) 23:24:49

http://bbs1.fc2.com//bbs/img/_498400/498311/full/498311_1434032690.jpg  朝の会が始まった。
児童たちはきゃっきゃっと騒いでおり、静まる様子はない。
先生は静かにしなさい、と注意するがそれでも収まらなかった。
やがて先生は個人を名指しする。
それでようやくひとりひとり静かになっていった。
朝の会を始めるだけでもこの苦労だ。

「今日は、このクラスに新しいお友達が来ます」

 先生は「転校生」という言葉すら使わない。
使ったところで、そこにいるのは小学校に入ったばかりの一年生。
そんな言葉を知っているのは少数だろうという判断だ。

「カナコさん、いらっしゃい」

 先生は廊下を見て手招きした。
その手に誘われるように一人の少女が扉をくぐる。
一年生の中でもさらに一回り小さな彼女は、背中のランドセルに振り回されているようだった。
 彼女は教壇に立ち、クラスの注目を浴び顔を真っ赤に染めていた。
先生は黒板に柔らかいひらがなで大きく「ゆきやま かなこ」と書く。この教壇の上で緊張している小さな少女の名前だ。
 児童たちは「小さい」だの「かわいい」だの、思い思いの感想を口に出す。黒板に書かれたひらがなと児童たちの声を聞いて、カナコの顔はさらに赤くなった。
 それは人前に出ることの緊張でも、慣れない学校での不安でも、ましてや人見知りのためでもなかった。
今、自分がおかれている状況。可愛らしい、子供らしいまっピンクなシャツに赤と白のギンガムチェックの吊りスカート。これまた派手なピンク色のランドセルには大小のハートマークが踊るように縫いつけられている。
 彼女にとって自分がそういったものに喜ぶ単純な童女だと思われることが恥ずかしくてたまらないのだ。
 顔を真っ赤にしたまま、カナコは下を向き、肩ひもをぎゅっと握った。
いかにも緊張した子供にしか見えない。
そんな彼女が一週間前までやり手の婦人警官であったことなど、想像できる人はいないだろう。
 
 およそ一週間前。
カナコは若手ナンバーワンとも称される婦人警官だった。
大学でミスコンにも輝いたことのある彼女はしばしば警察のポスターにも使われたこともある。
それに加え、彼女は持ち前の観察眼と地道な捜査で若手とは思えない業績も上げていた。
 そしてついに超大物組合の取引の現場を押さえることに成功したのだ。
主だった幹部は逮捕され、資金源となるはずだったブツも押収され、この組織は壊滅した。
カナコの業績はまた輝きを増し、英雄とまで称されるようになった。
しかし、そんな彼女の栄光は長くはなかった。
彼女は不意を突かれ眠らされ、どこかへと監禁されてしまったのだ。
88:メづすりα :

2015/06/11 (Thu) 23:28:40

 じゃらら

 手にはめられた手錠の鎖の音でカナコは目を覚ました。
暗くジメジメとした陰気くさい部屋。
地下倉庫か何かだろうか。
カナコはぐっと腕に力を入れた。鎖の揺れる音がしたが、外れるような気配はない。
鎖は天井の方につながっており、手はちょうど顔の横辺りから動かせそうにない。
脚も同じようにつながれている。
試しに声を出してみたが、自分の声がむなしく反響するだけだった。
彼女はただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。
 しばらくして、ようやく部屋のドアが開いた。
現れたのは一人の女性。小柄であまり気も大きいようには見えないが、どこか狂気じみたものを感じる。

「カナコさん」

 女性はゆっくりと確認するように言った。

「貴女は何者?」

 カナコは鋭く女を睨む。
女は物怖じすることもせず、指でカナコの顎を持ち上げた。

「組織を壊滅させたっていうからもっとゴツい女かと思ったけど、まるでモデルみたいね。意外だわ」

 さっとカナコの目の色が変わった。

「お前、あの組織の生き残りか」
「生き残り?まあ、そうとも言えるけど私はただ援助を受けていただけ。構成員とも違うわ」

 女は顎から手を外す。

「でも、あの組織をつぶされたおかげでめちゃくちゃにされたわ。あの取引のお金で子供を作ろうとしたのに。あなたが潰したあの取引」
「子どもを…つくる?金で?」
「そう。人工授精。裏社会では高等な精子が高値で売買されるのよ」

 カナコはもう一度女を睨んだ。

「ちゃんと結婚して子どもを作れとでも言いたげね。ふん。男なんて信用するに値しないわよ」

 女は言いながら後ろを向いた。
何かの機材を準備しながらまた歩いてくる。

「カナコさん。貴女は優秀よ。美人だし、頭も良いし、体力もある。ご両親もさぞかし鼻が高いでしょうね」

 カナコは答えない。

「私も子供を作るならあなたみたいな優秀な子がいい。子供を作る夢を破れたけど、代わりにすばらしいものを手に入れたの。恨みが積もった人間の前だけに現れる不思議な商売人。エイアールとか言ったっけ?まあ、そんなのはどうでもいいわ」
「…う」

 女の狂気の表情に思わずカナコは顔をひきつらせた。

「カナコちゃん。貴女を私の娘にしてあげる」

 女はカナコの口に酸素吸引器のようなマスクを取り付けた。
もちろんその先は酸素とは思えない。
ゴウンゴウンと低い音を出す怪しげな機械につながっている。
 マスクからごおっと風が吹き込んだ。
いやでもガスが口に入ってきてしまう。息を止めようとするが意味はなかった。
充分にガスが吸引されたことを確認すると、女はカナコの手錠を解いた。
女はにやにやと笑っている。
カナコは冷静だった。女が完全に油断しているのを確信すると、一目散に女にタックルを仕掛けた。
いや、仕掛けようとした。
しかし彼女の身体を完全に立ち上がる前にバランスをくずし、不恰好に前のめりに倒れた。

「くっ。そんな」

 ガスの影響か、身体はひどい不快感に襲われている。
頭はぐるぐるとまわり、身体も痺れたように動かない。
女はそんなカナコの様子を見てさらに顔をいびつに歪ませた。

「カナコちゃん、じゃーんっ」

 女は歌っているかのように話しながら、カナコに向かって何かを差し出した。
ピンク色の小さなワンピース。
大きさから言って幼稚園児が着るくらいのものだ。

「どう?気に入った?カナコちゃんの新しいおべべよ」

 当のカナコはそんなワンピースを視界にとらえていながらも、それに対して反応することは出来なかった。
身体の不快感は大きくなり続け、立つことも出来ずにその場でうずくまることしかできない。
そして、目に見える変化が始まった。
制服の下から押し上げていた胸が小さくなっていく。
ムチムチとした、それでいてよく鍛え上げられていた肉体が柔らかくなり、シルエットも起伏が緩やかになっていく。
顔の凹凸も減り、丸みを増しあどけない顔つきへと変わっていく。

「あら、いきなり随分縮んじゃったわね。15歳くらいかしら」

 当人はまだ変化には気づいていない。
この痛烈な違和感の中で女の声も耳に入らない。

 しかし、その身体が小学生の領域にまで入ると、もはや違和感では片付けられない段階までなっていた。
身体のほとんどはぶかぶかとなった制服の中に隠れてしまう。
唯一見える顔もその変化は劇的だ。
顎は丸まり、鼻筋は顔の柔らかい皮膚と同化し見えなくなる。
瞳は大きくなり、くりくりとしていく。
髪質は柔らかくなり、全体的にその量は減った。
 やっと苦しみから解放されたとき、そこには警官の制服で遊んでいるとしか思えない汗ばんだ幼女がいた。
89:メづすりα :

2015/06/11 (Thu) 23:30:47

「ふふ。正真正銘の六歳児の出来上がり」

カナコはよろよろとなんとか立ち上がった。

「んん、この…って、え!?」

 カナコは開口一番驚きの声を上げた。
目に映るもの全てが大きくなっているのだ。そこにいる女も別人のような巨人になっている。
そしてまた自分の発した幼い子供の声に驚き、小さな両手で口をふさいだ。
だが驚きはまだ尽きない。
そんな両手が制服の袖から出ていないのだ。

「なにがおきたの…!?」

 手を顔の前に振るが、そんな様子もあまり切った袖を振って遊ぶ子供にしか見えない。

「ふふ、物わかりの悪い子ね」

 女はそういってぶかぶかな制服をはぎ取った。
カナコは下着姿になってしまう。

「んふ。こんなぶかぶかな制服を着ているよりそっちの下着だけの方が子供らしくて似合ってるわよ、カナコちゃん」
「こ、こども!?」

 カナコは驚いて身体を見下ろした。
と同時にだぶだぶなパンティーがずり落ち股間があらわになる。
 それはカナコの見慣れたそれとは程遠いものだった。
丁寧に整えられていた茂みは影も形もない。
彼氏と定期的に行為に及んでいた割れ目はぴたりと閉じ、ぷっくりとした穢れを知らないものになっていた。

「ほうら、よく見なさいよ。あなたの"まんまん"が『私は子供です』って言ってるわよ」
「な、なにをいってるの。わたしはおとなの…」
「あらあら、そうなの」

 女は突然カナコの腕を鷲掴みにした。
非力な子供になった彼女に抵抗のすべはない。
そのまま器用にもう一方の手でカナコの小指を立たせると股間にそれを優しく差し込んだ。

「いた、いたたたたっ」

 あまりなことにカナコの目に涙がにじむ。

「あらぁ、ごめんなさい。あんなにやさしくちょっと触っただけだったのに。ほらね。あなたの"まんまん"は入れられるなんてことは知らないのよ。自分のこぉんな小さな可愛い小指でさえ痛がっちゃうんだから。これのどこが大人なのかしら。下のお口は正直っていうのはこういうことかしら。ははは」
「うう…」

 女にいいようにされたこと。そして事実何の快感のかけらも感じられなかったことに対して、カナコは自分の身に起きたことを認めざるを得なくなった。

「お着替えの時間ね」

 女は上機嫌だ。
半ば放心状態のカナコに先ほどのワンピースを押し当てる。

「あら、少し小さいわね。まあ、五歳児用だし仕方ないか」

 すると女はそうだ、とつぶやいた。
どこからか小さな注射器を持ってくるとカナコの首筋に差し込む。

「うあ」

 先ほどのような大きな変化はない。
しかしカナコには骨から融けていくような不快感を襲った。
全体的に身体が縮み、華奢になっていく。
とはいっても劇的な変化はなく一回り小さくなった程度で収まった。

「こんどはなにをした…?」
「ふふ。最初のガスは単純にあなたを若返らせるもの。それであなにこの可愛いべべを着せてあげようかと思ったのだけれど…やっぱり六歳児に五歳児の服は小さかったみたいね。あなたを五歳まで若返らせても良かったのだけれど、それじゃあ芸がないじゃない?だから二回目の注射であなたを遺伝子から操作して、六歳でも五歳児くらいの体格しか成長していない身体にしたのよ。たぶんこれからの発育も遅くなって前みたいなボンキュボンにはならないと思うけど、まあ、仕方ないわね」
「ちょっと。なにしてくれてるのよ!」
「いいじゃない。とにかく今は可愛いのだから」

 女はカナコを脇から持ち上げると、ずりおちたパンティーとブラジャーを取り去った。

「胸も膨らんでないくせにこんな大きなブラを着けるなんて生意気よ。もっとあなたにお似合いの可愛いべべがあるんだから」

 カナコに返す言葉はない。事実今身体で一番出っ張っているのはぽっこりとしたお腹なのだ。
女は先ほどの下着カナコの目の前に持ってきた。

「見てて。カナコちゃん。今からこのパンティーに魔法をかけるわよ」

 するといきなりパンティーがどろりと融けた。
液体状になった元パンティーは生きているかのように跳躍すると、カナコのつるつるの股間へとへばりついた。

「ひゃっ」

 冷たくはなかったが未知の感覚に驚きの声をあげる。

「パンティーさん、パンティーさん。そこに可愛らしい股間があるでしょう?でもこの子は自分は大人だって言っているの。だから私は分からなくなっちゃったの。パンティーさん。その子は大人かしら。それともちょっとおませな大人を夢見る可愛い子かしら。パンティーさん、その股間にふさわしい下着に変身してくださいな」

 絵本でも読み聞かせているように女は言う。
すると了解と言わんばかりに液体パンティーはうねうねと動き出した。
 カナコがもともと着ていたショーツはほとんど純白だ。
この液体もその模様をなんとなく残した白色だった。
しかしうねうねとカナコの股間を包むように動くにつれ変化が始まった。
 白色は徐々に赤みを増し、薄いピンク色になる。
きっちりと股間を覆いこむとふかふかと厚みを増していく。
縁の部分に濃いめのピンク現れたかと思うと、全体を覆うようにデフォルメされたイチゴが細かくまぶされた。
最後に猫のキャラクターが大きく描かれると、それきり動かなくなった。

「出来上がったみたいね。どれどれ~?あらまあ、可愛らしいパンティーだこと。洗濯表示のところに5歳用って書かれてるわ。うふふ。カナコちゃん、パンティーさんがあなたは五才だって言ってるわよ。本当は6歳なのにね。あははは」
「うぐぅ…」

 カナコは両手でさっきまで大人のショーツだったそれに触った。
生地が厚くて全体的に丸っこい。ウエストのゴムが目立っていて、そのデザインがなくとも幼い子供用だということが分かる。
 歯を食いしばっているカナコを無視するように女は上からばさりとワンピースをかぶせた。

「う~ん。やっぱり似合ってるわねえ。どう見ても幼い女の子。これなら来週からの小学校でも安心ね」
「しょ、しょうがっこう!?わたしにしょうがっこうにかよえっていうの?」
「もちろんよ。折角の娘が小学校から不登校だなんて悲しいもの。言い忘れたけど、私実は一年生の先生をやってるの。私のクラスに入れてあげるわ。カナコちゃん」

 女はピンク色のランドセルを持ち出して言った。
カナコ警官の受難はまだ始まったばかりである。
90:メづすりα :

2015/06/11 (Thu) 23:31:52

ゆっくり更新していきます…
91:青年A :

2015/06/12 (Fri) 00:49:54

お久しぶりです。
作品の方を拝見させていただきました。
やはりメづすりさんはすごいと思います。

俺にはこのクオリティを出せるだけの能力と時間がありません。
メづすりさんも忙しいとは思いますが、無理せず、書けるときに書いてもらえればと思います!

気長に待ってますね。
92:通りすがりの名無しさん :

2015/06/12 (Fri) 20:16:20

6歳なのに5歳児の身体という事は、12歳(小6)になっても、まだ10歳(小4)の大人の女性としての性徴が始まるか始まらないか位にしかならず、18歳(高3)になっても、周りは皆大人へと踏み入れているのに、カナコだけ15歳(中3)でやっと義務教育が終わる位にしかならないということですか…?
妄想が広がります!
頑張ってください!
93:A :

2015/06/14 (Sun) 21:07:00

ただでさえ小学1年生というお子様になったのにそのお子様に小さくてかわいいといわれる存在になるなんて最高です!
是非対して成長しなような体になる注射を打ってほしいですねw
大変とは思いますが頑張ってください!
94:とら :

2015/06/14 (Sun) 21:14:46

 メづすりαさん新作投稿お疲れ様です! 4話もがんばって
95:通りすがり :

2015/06/15 (Mon) 00:02:53

投稿のやり方を間違えてしまいました。すみません。もう一度投稿し直させて戴きます。

5歳児の身体にされてしまったという事はショートカットにして男児の服装にすれば本物の男児と見分けがつかない身体になったという事ですよね。そんな場面も見てみたいです。
12、3歳以上は成長できない身体になってしまうとか、知能は優秀でも感情面は幼いままとか、身体の成長も年下の子にどんどん追い抜かれてしまうとか、そんなシチュエーションも見てみたいです。
96:みゆ :

2015/06/15 (Mon) 17:46:04

メづすりαさんの作品を読みました。
とても面白いと思います。

成人でスタイル抜群な女性が小学1年生に逆戻りしてしまうのは屈辱的でしょう。
私は貧乳で中、高と学生時代はまさに冷やかしの対象でした。
その時、胸を小さくさせる事が出来ればと何度も思った事です。

胸が全く膨らんでいない状態になってブラジャーをしなくてもいいというのは楽でしょうねw
胸が多くう人は肩がこるとか大きいだけで邪魔とかいう人いますので。
小学1年生という事は生理が始まる前まで戻されたのですから生理痛とかおりものとはしばらく縁がなさそうですね。

高校3年くらいで下り物が卒業直前か大学入学くらいで初潮ですかね。

これからも読ませていただきます!!
97:メづすりα :

2015/06/22 (Mon) 22:40:20


 カナコは自分が罠に落ちたあの日を思いだし、また強くランドセルの肩ひもを握った。
そんな様子を見て、後ろにいた先生はくすりと小さく笑う。
服装や雰囲気は大きく変わってはいるが、この先生こそカナコを罠にはめたあの女なのだ。
ここではフジワラと名乗っているがそれも本名かは怪しい、とカナコは思った。
 教室は教卓を中心にコの字型に机が並べられている。
お互いの顔が見えるようにという工夫のひとつだろう。

「ケンタ君の隣が空いてるわね。カナコさん、わかる?前から三番目で、お箸を持つ方の手から二番目の席よ。カナコさんは賢いからちゃんと数を数えられるわよね?」

 フジワラは優しく声をかける。
カナコにしてみれば羞恥プレイの続きであり、言葉責めの一種だ。
カナコは何も言わず歩き出す。
 フジワラはわざとらしく「あら」と首をかしげた。

「みんな。分かったらどうするか、カナコさんに教えてあげて」

 すると近くにいた女の子がカナコに向かって叫んだ。

「あのね、わかったら、『はいっ』ておおきなこえで、おへんじするんだよ!」

「そうじゃないと、あいてのひとがこまっちゃうんだよ!」

 別の男の子も口を開く。

「カナコさん、分かったかしら」
「え…は、はい…」

 カナコは目をそらしながら答えた。

「ちゃんとめをみていわないと、だめなんだよ!」

 また幼い野次が飛んでくる。
この瞬間だけで二度も注意されたせいか、上から目線だ。

「緊張しているのかしらね。ヒロコさん、お手本を見せてあげて」
「はいっ!」

 元気な大きい声が教室に響いた。

「うふ。カナコさん、わかったかしら
?この前まで通っていた幼稚園と違って学校はお勉強するところなの。いつまでも幼稚園生の気分でいると、お友だちに笑われちゃうわよ」
「…はい」

 苦虫を潰したような表情でゆっくりカナコは答える。
ここはフジワラの掌の上なのだ、とカナコは思った。
どう転んでもこの女に弄ばれてしまう。

「カナコさん、ヒロコさんやみんなを見習って元気よくお返事できるようになろうね」

 カナコは小さく舌打ちした。
音事態は小さなものでほとんど聞こえるか分からないものだったが、フジワラには聞こえていたようだった。
一瞬教師の仮面を脱いだ冷たい表情になると、カナコの頭にそっと触れた。

「なかなか良い歯応えね」

 カナコだけに聞こえるような小さな声で呟く。

「それじゃあ、みんなと早くお友だちになれるように、おまじないをかけてあげる」

 また教師の顔に戻ると、ぎゅっとカナコの頭を押した。
なんとも言えない悪寒が身体を走り、カナコは顔を上げる。

「な、なにをした!?」
「だからおまじないよ。早くみんなとお友だちになれるようにって」

 嫌な予感がしたが、どうすることもできない。
とぼとぼと空いた席に着いた。

「おれ、ケンタ。よろしくな」

 席に着くなり、隣の男の子が声をかける。

「…あ、うん。よろしく」

 わざと冷たくぶっきらぼうに答えた。目もほとんど合わせない。
当然ながらカナコに一年生と仲良くする気などない。
 男の子は一瞬怪訝そうな顔になったがすぐに普通の顔に戻った。
98:メづすりα :

2015/06/22 (Mon) 22:46:45

「出席をとります。お名前を呼ばれたら、元気よく手をあげて答えてください」

 カナコはどこを見るともなく、ぼーっと遠くを眺めていた。
 名前を呼ばれるたびに元気で威勢良くシャキッと腕をあげる子供の姿が目に入る。

転校生であるカナコが呼ばれるのは最後である。


 こんなバカみたいな返事を私にしろっていうのかしら。

 周りの子供たちを見てカナコはそんなことを考えていた。
別に元気で威勢の良い返事が悪いとは思っていない。
ただ、ここにいる子たちはただ大きな声を出していて、うるさいだけだ。
それに先生だって欠席くらい見ればわかるのだから、こんな無駄なことをしなければいいのに。

 あまりにも普段とはかけ離れた光景にいまいち現実味が持てない。
テレビの向こう側を覗いているかのような感覚に陥ってしまう。
ゆっくりと目を閉じれば、まさに夢見心地。
次に目を開けた時には全部夢でした、そんなありえないことも起きてしまいそうな気分だ。
 次第にカナコは舟をこぎはじめた。

「ゆきやま かなこさん!」

「っはいっっ!」

 カナコはカバみたいな大口を開け、腕を天井にピンと伸ばし、キンキンした声を教室に響かせた。
そして自分のしでかしたことに気づき、顔を真っ赤にする。
この出席確認の間で最も子供らしい馬鹿でかい返事だった。
 ずっと頭の中で一年生の子供じみた返事が反響していた。寝ぼけ眼のカナコはそっくりそのまま頭に響いていた返事を再生してしまったのだ。
しかも慌てて返事をしたせいでただでさえ高い声がさらに裏返ってしまった。
周りの児童からクスクスと失笑が漏れる。

「あら、笑っちゃだめですよ。カナコさんは一生懸命お返事したんだから。さっき出来なかったことが出来るようになったのよ。みんな、拍手してあげましょう」

 ぱちぱちぱちぱち

 途端に教室に喝采が響く。
カナコは恥ずかしさで顔を上げることが出来なかった。
警察仲間からも年の割には冷静で大人びている、と言われていたカナコだ。
あんな子供みたいな返事をして、さらに喝采まであびてしまう。
 自分が幼児退行の第一歩を踏みだしてしまったような気がした。

 拍手が鳴り終わっても、カナコは顔から火が出るという諺をかみしめずにはいられなかった。

 出欠が終わろうと、朝の会は終わらない。
フジワラはお歌を歌いましょう、などと言い始める。
カナコに苦笑いが漏れた。
黒板の横に歌詞が模造紙に書かれ貼ってある。当然全てひらがな。
これが今月の「あさのうた」であるらしい。

 歌詞もメロディも幼児じみたものである。
それでもみんな元気よく大きく口を開けて歌っていた。
カナコは小さく口パクをするしかない。

 よくみんな歌えるものね。あんな大口開けて。
 あれ、あの子前歯がないわ。
 そうだ。一年生って前歯が変わる時期だっけ?
 あんな口元を恥ずかしげもなくさらせるなんて。
 子供ってやっぱり訳わからない。
99:メづすりα :

2015/06/22 (Mon) 22:50:45

http://bbs1.fc2.com//bbs/img/_498400/498311/full/498311_1434981045.jpg  あさのうたが終り、今日の時間割の確認をしたところであさのかいは終わった。
フジワラはトイレ休憩、と言った。
この小学校に十分休みという概念は無いらしい。
担任の先生が全教科教えるので、移動する手間がない。それとうかつに休みを与えればどこに飛んでいくか分からない年頃だ。
トイレにいく子だけ確認して、なるべく先生の管理下に置こうという方針だろう。
 ロッカーに行き授業の準備を整える。
一年生の授業でノートをとるのもあほらしいが、浮いた行動をとってしまってはあの女の格好の餌食になってしまう。
ランドセルを開けたところで何か口に違和感を覚えた。
口の中だ。
何だろうと思い舌で確認する。
ちょうど前歯を通った時だった。
その舌が固い歯にあたらない。柔らかい歯茎がそのまま舌に感触として伝わってくる。
嫌な汗が背中を流れた。
 急いでトイレに向かう。

 一階には低学年の教室しかない。
したがってトイレも小さな子供向けに作られている。
洗面台も低いし、鏡も今のカナコにちょうど良い高さにある。

 カナコは鏡の前に立ち、「い」の形を作る。
嫌な予感は的中した。
カナコの前歯のあるべき場所はすっぽりと空白になっていた。
あさのうたで小ばかにしていたあの子のようだ。
 舌で改めて確認するが結果は変わらない。
前歯が生えていないという現実を強く実感してしまうだけだ。
 カナコは青くなって、口を閉じた。
こんな口を誰かに、特にあの女に見せるわけにはいかない。
カナコは小走りでトイレを出た。

 しかし、不運にもそこでフジワラにぶつかってしまった。

「あら、カナコさん。走っちゃいけませんよ。今みたいにぶつかっちゃうんだから」

 カナコは答えない。
唇を強く閉じ目を背ける。
それがかえってよくなかったのか、フジワラの注意を引いてしまった。

「どうしたの?お口が変なの?」

 フジワラを膝を折ってカナコに視線を合わせた。

「いいえ、だいじょうぶです」

 カナコはなるべく口を小さく開いて答える。
しかし「い」の音は前歯を見せるのに絶好の機会であることをカナコは失念していた。
するどいフジワラがそんなカナコの前歯に気づかないはずがない。

「なんだ。歯が抜けたのね。いいじゃない。いかにも子供らしくって可愛いわよ」

 フジワラがにやけながら言う。

「あなた、またわたしになにかしたでしょ?」

 歯が抜けたせいで余計に舌足らずに聞こえてしまう。

「そうよ。さっき貴女にかけた"おまじない"よ」
「おまじない?」
「言ったでしょ。早くみんなとお友だちになれるようにって」
「まさかそのせいで!?」
「そうよ。どうせカナコちゃんのことだから、こんな子どもと仲良くできるか、なんて思っているんでしょ?」

 カナコは言い返さない。

「だから、あなたはここの一年一組のみんなみたいに子供らしくなるおまじないをかけたの」
「こども…らしくなる…?」
「そう。みんなの様子を見聞きすればするほど、その言動が貴女の言動としてあなたに刷り込まれていく」
「え!?」
「例えば、ほらさっき貴女、無意識のうちにあんなにかわいい返事をしたじゃない。あれはみんなの返事の様子を貴女が聞いていくうちにあなたの返事として身体が覚えちゃったのよ」

 カナコに再び悪寒が走った。

「今はまだ無意識な行動だけど、そのうちどんなに意識してもああいう風にしか行動できなくなるわよ」
「ふ、ふん。これいじょう、わたしがあんながきといっしょにはなすとでも?」
「別に話さなくとも一緒よ。視界や耳に入るだけでいいのだから」
「そ、そんな」
「歯が抜けちゃったのもその一種でしょうね。肉体にはあまり効果はないはずなのだけど…きっとそれほど貴女にとって印象深かったんでしょうね」

 カナコは逃げ出そうとする。
必至に走るが所詮は幼児の身体。あっという間につかまってしまった。

「どこに行くのよ。廊下は走ったらだめなのよ。それにもう一時間目のお時間よ。中休みは二時間目が終わったらあるからその時に思い切り走るといいわ。一年生のお友達といっしょにね」

 がっちりとフジワラに腕をつかまれる。もう逃げられない。

「んふ。きっと放課後にはもうあなたはただの一年生としか振る舞えないわよ。みんなと同じ素直でかわいい子供としてしかね」

 フジワラはいやらしく口をゆがめそう呟くのだった。
100:メづすりα :

2015/06/22 (Mon) 23:00:11

 どうも。メづすりです。
予想以上のレスを頂き、驚きながらも感謝です。

 様々なアイディアを頂けるのは非常にうれしいことのですが、この話に関しては、「カナコの今日一日の出来事だけを書く」と決めていたので、それより先のことは現時点では考えていないです。
 一日だけといっても様々なシュチュで幼児化していくカナコを丁寧に書いていくつもりですので、ボリュームは結構になります。

 なにはともあれ、レスや意見は大歓迎です!
今後の展開や、次回作以降の参考にさせていただくかもしれません。

 感謝感謝です。

 
 もっと職人さん増えないかな…
101:とら :

2015/06/22 (Mon) 23:16:14

一気に3話投稿ですか。おつかれさまです。これからカナコがどう幼児化していくか楽しみデス。

精神が幼児化するかしないか、という作風の違いはありますがお互いがんばりましょうヽ(^o^)丿
102:通りすがりの名無しさん :

2015/06/23 (Tue) 22:31:08

「おまじない」の影響で、カナコの言動がどのように変わっていくのか、カナコが思う本来の自分とのギャップが広がっていくに連れて、カナコはどうなってしまうのか。
楽しみにしております。
103:通りすがり :

2015/06/24 (Wed) 12:19:27

内面は大人であるのに行動面が子供のものにしかならないというシチュエーションが屈辱感たっぷりでとても面白いです。
この一日が終わる頃にはどこまで変貌してしまうのかを楽しみにしております。
104:ゆい :

2015/06/26 (Fri) 02:08:40

生理が無くなってさぞ楽になったでしょうね。
小学生はトイレ後に拭かない子も多いからおしっこ臭い仲間入りですかね。
105:メづすりα :

2015/06/28 (Sun) 22:20:51

 授業が始まるといっても所詮は小学一年生の子供たち。先生に指摘されるまで席に着いている子はいないし、きゃっきゃと甲高い声をあげて話し合っている。
 カナコはそんな様子をひとりで席に着き、うつむきながらじっと時が過ぎるのを待つしかない。端から見ればただの転校生の人見知りで、そう思われることも嫌だったが、かといって幼児期を終えるか終えないかくらいの子供と話す気には到底なれない。
 ましてや、フジワラのあの呪いが本当ならすぐにでも小学校から飛び出したいくらいだ。目は閉じることもできるが、耳はどうしようもない。手で塞ごうとも甲高い子供の声はいやでも耳に刺さってくる。
 カナコは目をつむり、耳を塞ぎ、心のなかで適当な歌を歌いながらその場をやりすごそうとした。
 しかし、転校生という存在は子供たちにとって興味の対象でしかない。いつのまにか女子の集団が取り囲んでいた。

「ねえ、ねえ。カナコちゃんってどうぶつはなにがすきなの?」

「おうちはどこなの?ちかい?」

 きんきんした声を間近で聞き、カナコは思わ目を開けてしまった。

「あ、いや、えっと…」

 子供たちと話すわけにはいかない。
席をたち、距離を置こうとしたが6、7
人の子供に円を描くように囲まれており、逃げ道などどこにも残されていなかった。
 立ってみてカナコは改めて気がついた。
幼い顔の子供たちと目線が合わない。目の前にいるのはどう見ても天使のようなあどけない幼い顔。しかしそれは自分を愛玩動物でも見るような目で見下ろしているのだ。
 彼女たちを見るためにカナコは顔をあげなければならなかった。今のカナコは正真正銘六歳だが、発育不良の注射を射たれ、幼稚園の年中くらいの体格しかない。背の大きな子とは頭ひとつ分は違う。

「おしっこしたくなったら、いってね。おトイレにつれていってあげる!」

 そんなカナコの扱いはやはり無知な妹扱いのようだった。身体だけでなく顔のパーツひとつひとつもカナコは幼い。大人から見れば大した差は感じないかもしれないが、子供たちはそんなカナコの幼さを敏感に捉えることが出来ていた。
 
 加えて転校生(そもそも小学生ですらない)であるカナコはこの学校の勝手がわかっていない。そう言ったある種に無知さが先ほど先生に注意されたこととも相成って、余計に幼いものとして彼女たちの目に映っていた。
 そんなカナコにとって、周りにいる一年生たちは見上げるほどに大きい。
実際にそんなことはないにしても、喧嘩となったら敵うような相手ではない。
こちらの返事も待たずに一方的に質問を続ける彼女たちにカナコは身を縮め、思わず身震いした。

(嘘…私、こんな小さな子供たち相手に怖がっているの?)

 カナコは警官時代、幾多もの犯罪組織と互角以上に渡り合ってきたエリートだ。屈強な暴力団のような男たち相手に格闘したこもあった。今まさに自分を取り囲んでいるくらいのべそをかいた子供を助けたこともある。
拳銃を向けられてもひるむことがなかった自分が今、助ける対象であったはずの子供たちに恐怖を抱いている。
 身体が小さくなったと同時に神経まで細くなってしまったカナコにもう以前のような勇敢さはなくなっていた。
自分より背の大きなものを目の前にしただけで縮みあがってしまう小動物のように。

「はーい。みなさん、席について!授業の時間ですよ!」

 フジワラの声が教室に響く。
カナコの周りにいた女の子たちも促されるまま各々の席に戻って行った。

(今回ばかりはあの女に救われたわね…)

 "巨人たち"の包囲からやっと解放され、カナコは自分が安心しているということを認めざるを得なかった。
子供たちの幼い喋り方や表情が頭の中で山びこのように響いていることにも気づかずに。
106:メづすりα :

2015/06/28 (Sun) 22:24:48

 一時間目は「せいかつ」だった。

(生活って何だっけ…理科と社会の導入みたいなものだっけ…?)

 生活科とは小学一、二年生で実施される科目である。理科と社会が低学向けに統合されたものと思われがちだが、実際は別の科目である。
 地域社会や自然との触れあいを通じ、活動・表現方法の習得を目的とする科目だ。
 具体的には公共施設を集団で利用したり、自然観察を行ったりする。
 児童たちにとっては退屈な座談から離れ遠足のようなことをする割と人気な科目だ。生活科から離れ20年ほども経つカナコにはもはや記憶もあやふやで、何をするかも良く分からない。
 フジワラに無理矢理持たされた、童女用のキャラクタのきらびやかなノートを取り出してきたが、周りの児童でノートを机の上に置いている子は一人も居なかった。
 フジワラはプリントを配り始める。
やがてカナコの前を通るとにこりと微笑んだ。

「あら、カナコさん。早くその可授業愛いノートを使いたいのは分かるけれど、今は必要ないの。プリントを使うのよ」

 カナコはおずおずと可愛らしいノートを机の中にしまった。

(なによ、あんたが勝手に持たせたくせに。もう!手にするだけで恥ずかしかったんだから)

 そしてその不満を口に出さずにはいられなくなる。

「プリントをつかうならさきにいって…ええと、いや、いって…ぁ、いってクダサイ…!じゅんびだってあるんだから…あれ、あるん…デスから!」

 憎むべき相手ではあるが、ここでは彼女は先生だ。教室の中では、場の体裁に則ってカナコは敬語でフジワラに接する。しかしその言葉はまるで子供が無理矢理敬語を話そうとしている拙くも微笑ましい丁寧語だった。

(おかしい!敬語がぜんぜん出てこない!)

 頭の中で敬語を反復してみるが、どうにも具合が悪い。

(私は雪山と…と…モ、モウシマス…警官をしてるんだよっ、じゃなくて、して、えと、してオリ…マス…)

 敬語を考えようとした途端にまるで慣れない外国語のような混沌と違和感を覚えてしまう。
まるで敬語という概念のまだ未熟な子供のようだ。

(まさか、ひょっとしてさっき子供たちの話し方が体に刷りこまれて…)

「カナコさん、敬語が使えるのね。すごいわ」

 フジワラがくさい台詞を吐く。

「ほんとだ!カナコちゃん、おとなみたい!」

 便乗して近所の子が声をあげる。しかし大人ではなく、大人みたい、と言われるだけ。
フジワラはカナコの耳元に近づくとそっとささやいた。

「安心してね。まだ意識して頑張れば大人みたいに話せるわ。まだね」


 
 フジワラは黒板に大きな模造紙を広げマグネットで留めた。
「ぼく わたし の まち」と題されたそれはデフォルメされた地図に「けいさつしょ」や「えき」といった公共施設が絵とともに描かれていた。
 絵も字も児童が書いたものなのだろう。題字と地図以外はデッサンの崩れかけた拙いものだった。。
 地図も見た限り、この学校周辺の地形ではなさそうだ。おそらくフジワラが学習用に作った仮想の町なのだろう。
 フジワラの話を聞く限り今日はグループワークでそれぞれの施設がどのような役割を持っているのか発表するようだ。発表と言ってもなにかを論理的にプレゼンする訳ではなく、一人一文づつ話す程度だ。人前で話すということの練習もかねてのことだろう。
 このクラスはカナコを含めても26人しかおらず、五人づつのグループがもともと五つ作られていた。


(私の時は30人はいたのに。やっぱり少子化なのかしら)

 カナコは他の子よりも一回り幼い身体でそんな大人びたことを考えていた


 五人づつのグループがもともと五つ作られている。

 フジワラがニコリとしながらカナコに近づいてきた。

「カナコさん。あなたは来たばかりで勝手がよく分からないなでしょう?だから発表は一番最後にしてあげるから、みんなのことをよく見ててね」

 言うまでもないが、カナコには見聞きした子供らしい言動を吸収し、それ以外に振る舞えなくなる"おまじない"がかけられている。
子供たちの稚拙な発表を目の当たりにしてから自分の番となったなら、当然自分の発表もそうしたものになってしまうだろう。
カナコしては最初にやってしまいたかった。
結果として言動の幼児化は避けれらないかもしれないが、そのさまをクラスの前で発表するよりは随分マシだ。

「せんせい、わたしはさいしょでも、だいじょうぶ、あー…、だいじょうぶ…デ、ス…」

 丁寧語を話そうとしたとたん舌はもつれ、頭の中はパニックになってしまう。
せいぜい『です・ます』を語尾につける程度のはずなのに、脳内には先ほどカナコを囲んでいた女の子たちの話し方が何度も映し出され、どうしてもそうした話し方を最初に言いそうになってしまう。

「ふふふ。大丈夫よ、無理しなくて。もしかしたらカナコさんの前にいた小学校とは少し違うかもしれないでしょう?」

「むりなんかしてないっ!あぁ、ちがっ。して…して…シテ、マセ…ンっ!」

 少しでも興奮しようものなら丁寧語はどこかへと消え去ってしまう。

「分かった。カナコさんが賢いのはよく分かったわ。でも、今日だけは我慢してね。みんな順番を決めて今日の発表のために頑張ってきたんだから、急に順番が変わっちゃったらみんな困っちゃうでしょう?次は最初にさせてあげるから、ね?」

 こう言われてしまえばもうどうしようもない。
それでもまだ一番が良い、などと言ってしまえばそれこそ幼い子供の言うことだ。
カナコは了解するしかなかった。

 フジワラは発表前の最後の練習として時間を取った。
机を合わせてそれぞれの班の場所へ各々散って行く。カナコは五班だった。一班から順番に発表していくようだ。

「このはんはねー、しょうぼうしょをはっぴょうするの!」

 班に着くなり女の子に声をかけられる。
さきほどカナコを囲んでいた一人のようだった。

「へ、へーそうなんだ。わたしはなにをいえばいいの?」

「うん、ちょっとまってねー」

 そういって女の子は紙に何かを書きはじめる。

「はいっ」

 紙を渡される。一年生としては上手い方だが、それでもデッサンの狂いかけたつたない文字だ。

『しょうぼうしゃは ぴーぽーぴーぽーと サイレン をならしながら はしります』

「え?これをいうの!?」

「うん。ほんとはかみをみちゃいけないんだけど、かなこちゃんはきたばっかりだから、みてもいいって、せんせがいってたよ!」

 そういう問題ではない、言おうと思ったがおそらく無駄だろうと思い直した。
消防署というから「火事を消すお仕事をしています」とかそういうものだろうと思っていた。
『ぴーぽーぴーぽー』などと子供じみた擬音語をクラスで発表するのかと思うと、それだけで顔が熱くなった。
 
 発表は五人が一文づつ読み上げるだけでなんとも茶番めいたものだ。
すぐに終わってしまうとカナコは思ったが、班と班の入れ替わり、発表者と発表者の交代は予想以上にぐだついたものだった。
前の発表が終わったら、次は自分の番ということは当然のルールのはずなのに、まるで不意に発表を指名されたかのように慌てふためくのだ。
容量の悪い子はたったの一文程度なのに発表する文言を忘れてしまう。
そのたびに発表を一時中断する。
そんなことを繰り返すので、時間としてはむしろギリギリだった。

(この子はいったいさっきの練習時間に何をしていたのかしら)

 自然とそんな疑問が湧いた。
107:メづすりα :

2015/06/28 (Sun) 22:28:26

 いよいよカナコたちの班に回ってきた。
カナコは最後に紙を確認するとそれを机に置いた。

「あれ、かなこちゃん、かみみなくてへいきなの?」

 例の女の子に声をかけられる。

「だいじょうぶ。もうおぼえたから」

 たかだか一文。恥ずかしい擬音語があるとはいえど覚える内容は雀の涙だ。
十秒もあれば覚えられる。

「それでは五班さん!」

「「「はいっっ!」」」

 フジワラの呼び声に反応してカナコは思わず子供らしい「はい」の合唱に元気よく加わってしまった。
無意識のことだった。

(いけない、いけない。自分を強く持たないと)

 黒板の前に五人で横に並ぶ。

「「ぼくたち、わたしたちは、しょうぼうしょについて、はっぴょうします!」」

「しょうぼうしょは、かじをけすおしごとをしています!」

「しょうぼうしょは、でんわで119ばんです!」

「でも、
いたずらに、でんわしては、いけません!」

「しょうぼうしょは、しょうぼうしゃをつかって、かじをけします!」

(この子たち思ったよりしっかりしてるわね)

 これまでの発表とくらべて五班の子たちはいささかスムーズに発表が出来ていた。
次はいよいよカナコの番である。
そして発表をしようと軽く息を吸った時だった。
 突如としてこれまでカナコが『容量の悪い子』だと鼻で笑った子たちの発表が頭のなかで反響を始める。
自分の番だと前もって分かっていたはずなのになかなか最初の文句を言い出せない子。
言葉づかいが乱れて、えとね、えとね、ばかり言ってちっとも進めなかった子。
自分の言う文言を忘れ、少しべそをかきながらも隣の子に教えてもらっている子。
 様々な光景が頭のなかでミックスされ整理がつかなくなる。

「あー、うぅんと…えっと…」

 言葉が何も出てこない。
未だに聞きなれない自身の甲高いきんきんした子供の声が余計に混乱を招く。
たしかに覚えていたはずなのに。

 なんだっけ、なんだっけ?

 記憶をたどってみても、それまで自分が見てきた一年生のつたない発表の様子がリピートされるだけ。
肝心の覚えるべき台詞が全く頭に浮かんでこない。
 クラスの視線がカナコに集中している。
それに気づくと同時に顔がカッと熱くなり、呼吸が乱れる。
 
 おかしい。
 高校時代から生徒会に入り頻繁に人前での発表をしてきたはずなのに。

「ええと、ねえ…」

 絞り出した声も泣きそうなふるえ声だった。
それを見かねたのか、隣の子がそっと耳打ちをしてくれた。

「かなこちゃん、しょうぼうしゃのサイレンだよ」

「ああ、そうだ。うんとね、うんとね。しょーぼーしゃ は!」

 ぐだぐだ、とカナコは思った。
そこまで耳打ちしてもらったのにまだ細かいところが思い出せないのだ。

「ええと、ぴーぽーぴーぽーってみちをはしるのっ!ああ、じゃなくて、はしる…はしる…デス!」

 人前で話す幼児特有の語尾にイントネーションが跳ね上がる話し方だった。
しかしそれでもカナコには、なんとか終えることができた、という思いでいっぱいだった。
 フジワラが先頭を切って拍手をし、クラスのほかの子たちも拍手を始める。
発表が終わった途端にケロリと緊張も解けた。
そしてだんだんと自分のしでかした行為が分かってくる。
自分が小ばかにしてきた子供たちそのままの情けない発表。
 子供のころから教養を積み、新人の敬語の注意も頻繁にしてきた自分が丁寧語の活用も満足にできなかったという現実。

 机に戻ったあとも女の子からきつい一言をもらった。

「だから、かみなくてへいきなの、ていったのに!」

 カナコを責めるニュアンスが確かに含まれていた。
小学一年生の児童からそれ以下のものとしての眼差し。

カナコは真っ赤になりながらうつむくことしかできない。

 こうして一時間目の生活は幕を閉じた。
108:メづすりα :

2015/06/28 (Sun) 22:31:28

 小さくて幼い子でも丁寧語を使っているだけで、大人びているなあ、感じます。

 みなさま、レスに感謝です!

なるべく一週間に一度くらいの更新を目指していましたが、次は少し間が空くかもしれません。
109:とら :

2015/06/28 (Sun) 23:19:46

 お疲れ様です。カナコは屈辱的な思いをしたでしょうね、次回もがんばってください。
110:通りすがりの名無しさん :

2015/06/29 (Mon) 20:45:32

更新、お疲れ様です。
カナコのクラスの中での立場は、発表の失敗でかなり下がってしまいましたね。
次回も楽しみにしております。
111:ちょいブス好き :

2015/07/01 (Wed) 07:23:44

久しぶりに覗いてみたら新作が来てた~。
なんの恥じらいも無く鼻くそをほじったりしてほしいですw
どんどん子供になっていくのを楽しみにしています。
最終的にはいじめっ子になるのが、一番の屈辱なのかな。
112:A :

2015/07/01 (Wed) 20:17:29

更新お疲れ様です!
ただでさえ小さい1年生よりさらに小さいという設定がかなりツボです!
この体格差でこれからも悩み続けるんでしょうね
楽しみにしてます!頑張ってください!
113:B :

2015/07/25 (Sat) 01:33:38

望みます更新
114:青年A :

2015/07/25 (Sat) 14:07:30

お久しぶりです。
これからかなこ警官がさらにどう変わっていくのか楽しみです。
忙しいと思うので書こうと思うときに続きをお願いします。

気長に待つことにしますね。
115:メづすりα :

2015/08/11 (Tue) 00:16:39

「カナコさん、ちゃんとノート開いて黒板の文字写しましょうね」

 二時間目の国語。ひとりだけノートも出さずにぼうっとしてい

るカナコのもとにフジワラがやってきて言った。

「きにしないで。テストでは、まんてんをとり…と、り…とるんだから!」

 とりますから、と言ったつもりが舌がもつれて結局、駄々をこねた子供のような口調になってしまう。
 一時間目のあいだはまだもつれながらも丁寧語が形になっていたのだが、
いまではそれすらも難しくなってきている。トイレ休憩の時間にきゃっきゃっと騒ぐ子供たちの声を聞いたせいだろう。

「カナコさん、テストで良い点をとるためにノートを使うんじゃないのよ。ひらがなの練習のためなの。ノートをとること自体が授業の目的なの」

 カナコだけに聞こえるようにそっとささやいた。

「ひつようないの!ひらがななんてとっくのむかしからかけるんだから!」

 授業中であろうと、先生が注意しなければ子供たちは遠慮なく私語を続ける。そんな声が耳に届くたびにカナコの口調はそれとそっくりになっていく。
当然カナコ自身もその変化に気がついてはいた。しかし口を動かせば動かすほど大人とはほど遠い言葉になっていく。

「かなこ、おとななのに…おとななのに…おとなみたいにしゃべれない…」

 とうとう「私」という一人称すら出なくなっていた。

 そんな様子を見てフジワラはくすりと笑った。

「カナコさん、無理して大人の真似はしなくていいのよ。さあ、ノートを開こうね。大人なら簡単にできるではずしょう?」




 観念して机の引き出しからノートを取り出した。ピンクが基調で名前も分からないが魔法少女らしきアニメキャラクターがプリントされている。ひらがなで「こくご」と書かれたそれはいかにも幼い女児を喜ばせるためのものだ。

「あらあ、可愛らしいノートじゃない。想像してごらんなさい。大好きなキャラクターの描かれたノートでお勉強できる女の子の気持ちを」

 カナコはそう言われてふっとまたノートの表紙を眺めた。
しゃらしゃらとした格好の魔法少女たち。自分が本当の童女だったら嬉しくてはにかんでいるところだろう。
だが生憎、自分は大学すらも卒業したエリート警官なのだ。冷めた目で無関心に見ることしかできない。

はずだった。

 しかし頬の筋肉は吊り上り、視界は半目を閉じたように細くなる。
歯を見せびらかすように口が開いていく。
カナコはまさにはにかむ童女のように笑っていたのだ。カナコ自身はちっともそんな気分ではないと思い込んでいるのだが、まるで魔法にかかったかのように気分が高揚していく。
冷めた目で眺めていたつもりなのに、どんどんにやけて顔が崩れていく。

「え!?」

 自分の行動に驚き声が漏れたが、それすらも笑い声まじりだった。
子供特有の喉の先であぶくを作るような、けらけらという笑い声。

「カナコちゃん。あなたの脳内の映像だろうと、子供の姿を見ればあなたはその通りにしか行動できないのよ。本当のあなたがどう思っているかは知らないけど、カナコちゃんは本当のそのキャラクターが大好きなのね」

「いや。かなこ、おとなだもん!こんなのによろこぶの、あかちゃんみたいだもん!」

「もちろんカナコさんは赤ちゃんとは違うわよ。でもちゃんとノートを開いて黒板の文字を写せたら、もっとお姉ちゃんになれるわよ」

 と、優しく諭される。

 フジワラが自分から遠ざかったのを見届けて、カナコは鉛筆を握った。
116:メづすりα :

2015/08/11 (Tue) 00:19:56

 正面の黒板には大きなひらがなで「おおきないぬ」と書かれている。
自分の持つノートは一マスも、不器用な小児に合わせて大きい。A4のサイズなのに縦に6マスしかない。
大学ノートを使うことが習慣になっていたカナコにはマス目のノート自体が子供になってしまったという自覚を強めるものだ。
その中でも一番子供向きで大きなマスを持つノートに文字を書くのだと思うと、それだけで屈辱感に襲われた。
そこまで大きく書かないと、文字をまともに書くこともおぼつかないというレッテルを貼られているようだ。
 鉛筆を握った時何か違和感を覚えた。
まるで初めてそれを握ったかのような異物感。その材質にも、重心のかかり方にも違和感がある。
さらには自分自身の手すらも何か違う。
 何かの気のせいだと思いいつもの調子で鉛筆を走らせていく。
さらさらとひらがななんて意識せずとも書ける常識的なものだ。
もう全部書けただろうと思い、一呼吸して鉛筆を離す。

「ふえ?」

 そのノートには幼児が描いたような、デッサンの狂ったお姫様がお花畑の中で笑っている絵が描かれていた。
慌てて消しゴムでつたない落書きを消す。

(お、お絵かきなんてしてるつもりなかったのに。文字よ。字。字を書くの!)

 改めて神経をとがらせて鉛筆を持つ。
「おおきないぬ」の「お」の最初の一画。 
横線。何故か慣れない手つきで線を引いていく。
そんな感覚で引いた線はよれよれで、まるで力が入っていなかった。
 カナコは知るはずもないが、幼児化は外見だけでなく身体の持つ経験値とも言うべきものにもおこっていた。
すなわち経験値は幼稚園児並になり、その手は鉛筆ではなく、クレヨンしか握ったことのない手と変わっていた。
そんな幼いお手ては文字ではなく、つたない落書きしか描いたことがない。
文字を書くという行為そのものにカナコの手は全く慣れていないのだ。

(ど、どうしてこんなミミズみたいな字しか書けないの!?)

 カナコ当人は全くその原因が分からない。
おまけに周りの一年生の行為を習得してしまうという特性がその行為にさらに拍車をかける。

(お、お。あれ?横線ひいて、次はどうするのだっけ?)

 カナコは屈辱に口を噛みながら黒板のお手本を見上げる。しかし。

(なんか色々書いてあるけど、どこから書けば良いのだっけ…)

 カナコは不安げに辺りを見回す。
周りの児童のカツカツという鉛筆の音がさらにカナコを焦らせた。
そんな様子を察し、フジワラが再び近づいてきた。

「カナコさん。書き順が分からないの?教科書を開きましょうね。5ページ目にひらがな表があるの」
「な、わかるもん!」

 とは言ったものの、横線を引いただけで一向に鉛筆は動かない。

「あらあ、ごめんなさい。あんまりきょろきょろしてるから、分からなくなっちゃったのかと思ったわ」

 そうは言ったが、フジワラはカナコのそばから離れようとしない。
彼女はカナコがひらがなすらもおぼつかなくなったことを見抜いていた。
その上で、カナコが自分の目の前でひらがな表を確認する様子を見ようとしているのだ。

 カナコはその場から動けない。
ひらがな表を確認するなど、大人のプライドが許さない。
隣の一年生に教えてもらうなど言語道断。
しかし時間ばかりが過ぎ、このままでは確実に「ひらがなを書くのが一番遅い一年生」の烙印を押されてしまう。
フジワラが去ってから、表を確認しようとも思ったが、そのフジワラはこの場から動こうとしない。

「カナコさん。手が止まってるわよ。ひらがな表は5ページにあるの。それとも5っていう数字が数えられないのかしら」

 もう限界だった。
自分をおとしめたこの女の前で子供みたいにひらがな表を見て字を書くしかない。
カナコは顔を真っ赤にして、教科書を開いた。

 一画ずつ教科書のお手本を見ながらなぞるようにひらがなを書いていく。
ひらがななんて何も見ずにタイピングされたような美しい字をかけたはずなのに。
一秒おきに見本を見ないと、自分の今引いている線に自信を持つことが出来ない。
少しでも油断するとお絵かきなようなものをしてしまう。
 一画一画細心の注意が必要だった。
一文字書くだけで何十分も呼吸を止めていたかのようだ。

「みなさーん。ちゃんと書けたかな?黒板を消しても大丈夫かな?」

 カナコが「き」の途中を書いているところでフジワラが声をかけた。

「まだ書き終わってない人はいるかな?もしいたら手を挙げて」

 カナコはおずおずと手を挙げる。
手を挙げたのはカナコだけだった。

(え?私だけなの?)

 「ひらがなを書くのが一番遅い一年生」。
その烙印は押されてしまった。
子供は残酷だ。さっきの生活科の時間のこともあってカナコに敬意をもった眼差しを向ける一年生は全くいなかった。
手のかかる新入生の妹分。
顔面がカッと熱くなるのを感じた。
カナコはべそをかきながら続きを書いた。
「ぬ」の字は特に難しく、それ一文字に五分ほどもかけながらようやくカナコは黒板の易しいひらがなを写し終えた。
つたないミミズのような文字は間違えなくカナコが限界まで丁寧に書いた文字だった。
117:メづすりα :

2015/08/11 (Tue) 00:21:43

三話ずつ投稿しようと思ったのに二話文しか出来んかった…

みなさんコメントありがとうございます。
これからもよろしくです。
118:通りすがり :

2015/08/11 (Tue) 19:39:43

更新お疲れ様です。
精神や知能は根本的には大人のままなのに、
身体がまったくついてきてくれずに幼児のふるまいしかできなくなっていく描写が本当にすばらしいです。
119:青年A :

2015/08/21 (Fri) 11:14:55

お疲れ様です。
かなこがどんどん退行していっているのがわかり、かなり面白いです。
また続きが読みたいのでメづすりさんの気分がのったときに頑張って下さい!

気長に待ってますね。
120:れな :

2015/08/30 (Sun) 08:33:08

メづすりさんこんにちわ(^∇^)

フジワラさんのカナコちゃんに対する言葉攻めがたまんなく大好きです(≧▼≦)

このまま成長しても元のボンキュッボンにはならないとか小指も入んないおまんまんっていう

攻め口がすっごくドキドキしました(≧▼≦)

これからもフジワラさんにはどんどん言葉攻めをさせてほしいですw

ちなみにカナコちゃんはすでにえっちの仕方とか子供の作り方とか分かんなくなっちゃってるんですかね?(^-^;)

それと同僚や後輩の警察官に遭遇して千載一遇のチャンスなのにうまく伝えらんない

もしくは彼氏や婚約者に遭遇しちゃう的なシチュもひそかに期待しちゃいますw

それでわ応援してますのでこれからも頑張ってくださいね(*^-^*)
121:ぽぽ :

2015/11/26 (Thu) 18:14:15

作品を読ませていただきました。
どれもこれも設定が魅力的なものばかりでした。
応援していますのでこれからもがんばってください。
122:メづすりα :

2015/11/28 (Sat) 02:08:51

 二時間目も終わり、中休みを告げるチャイムが校内に響いた。
児童たちは待っていたと言わんばかりにすごい勢いで教室を飛び出していく。
先生が廊下は走るな、と叱るが耳を傾ける児童はごくわずかだった。
比較的落ち着きのある子どもは教室にまだ残っていたが、授業中の騒ぎが嘘のように静かになった。
 カナコは一人で机に座り、子供たちが去っていくのを待っていた。
好奇心旺盛な子供たちは何人かカナコに声をかけたが、カナコは適当にごまかしたりしてやんわりと断った。
 幼い児童と話すたびカナコの大人としての行動は息をひそめ、幼い稚拙な行動が板についていく。
身の振る舞いや口調のみならず、発想の仕方までもが大人のそれとは程遠いものになっていた。
こうして人がはけていくのを待っている間にもカナコは落ち着かない子供のように無意識に足をプラプラさせてしまうのだ。
だからこそ、この休み時間の間だけでも児童とは距離を置いておきたいとカナコは思っていた。
 すでに教室に書かれた(数少ない)漢字は完全に難解な異言語となり、ひらがなも一文字ずつ押しつぶすように読まなければ頭に入ってこない。
大人の記憶や知識も完全に持ち合わせているのだが、カナコの脳はわざわざ自分の脳内に幼い子供の仮想脳を作ってしまう。
つまり、カナコは大人の知識や経験を用いて子供の動きをシュミュレーションし、その通りにしか行動できなくなっているのだ。
決してカナコ自身が退行したり、脳が委縮しているわけではない。
むしろ通常の状態よりも活発に脳は働き、どの行動が子供らしいか、本当の子供がどのような発想をしているか必死に考え実行している。
それが本人の意志であるかは別の話だが。

 ある程度人がいなくなったところで、カナコはようやく立ち上がった。
普通に立ち上がったつもりだったが、カナコの脳は校庭に走っていく先ほどの幼い子供をシュミュレーションし、ぴょこん、と跳ねるような、遊び足りないと訴えるような、子供の動きになっていた。
特に誰に見られていたというわけでもないがカナコは赤面した。

 どたどたと走り回る子供たちで廊下はあふれていた。
子供たち、といっても一年生の中でも特に小柄なカナコよりも小さい子はいるはずもなく、当たってしまえばケガをするのは明らかにカナコの方だ。
低学年の子でも頭二、三個分は身長が違い、カナコはびくびくしながら廊下を渡るしかなかった。
同じ一年生が相手でも思わず怖いと感じてしまう今のカナコにとって、走り周る上級生など自動車のようにも感じられる。
カナコは図書室に向かった。
そこなら必然的におしゃべりはないだろうし、落ち着いた時間を過ごせるはずだ。

 下駄箱のすぐ向かいにあるので図書館の場所はすぐに分かった。
中はやはり数人がいるだけでとても静かなものだった。
カナコはホッと一息を着いた。
休み時間はなんとか"自分の時間"を過ごせそうである。
 小学校の図書室なのでカナコが好むような本はなかったが、ある程度は細かい文字の本はあった。

(あ、これ私が子供のころ好きだった本だ)

 本棚をゆっくりと歩いていたとき、不意に見慣れた表紙に出くわした。

(ほかに面白そうなのもないし、思い出に浸るのも良いかもね)

 すっと軽い気持ちでページを開いたが、愕然としてしまった。
高学年向きの本ではあったがすべての漢字にルビはふってある。カナコもそれを分かってこの本を選んだのだが昔のように読み進めることはできなかった。
とんちの効いた冗談や比喩的な表現があるのだが、それも全く分からない。
それが冗談や例えであることが分からずに、額面通りにしか理解できないのだ。
登場人物も決して少なくはなく、結構な頻度で視点が切り替わるのだが、そのたびにカナコは激しく混乱してしまう。

(ん…?この人なに言ってるの?さっきまであの話してたのに…あれ…?)

 ひらがなでさえ読むのに苦労を強いられる現状でこの内容は理解することはまずできない。
いや、理解はしているのだが、それをカナコの中の仮想脳が分からないものとしてラべりリングしてしまうのだ。
気が付いたらただ挿絵を探すだけになっていた。
それどころか集中力はどんどんなくなっていき、隅の絵本コーナーに目がちらちらといってしまう始末だった。
 満足に活字を読むこともできず、絵本にときめいてしまう自分に危機感を感じ、カナコはあわてて図書室を脱出した。
123:メづすりα :

2015/11/28 (Sat) 02:12:43

 少なからずこの学校とカナコが壊滅させた犯罪組織には癒着があったようだ。
一年生を受け持つフジワラのほかに、もう一人組織の恩恵を受けていた人物がいた。
保健を担当しているナイトウである。
穏やかな物腰で、優しく児童にも教員にも接する女性。
若く、美しい、小柄な体を白衣に身を包んだその姿はさしずめ天使のようであった。
しかしそのままで終わらないのがこの女性だ。
犯罪組織の医療班として、フジワラほどではないせよ、関わっていたのだ。
末端中の末端であったため、警察もナイトウやフジワラにたどり着くことは未だできないでいる。
カナコに対しての恨みも少なからず彼女もまた、持っていた。

 保健室のドアがガラガラと空いた。
扉を開けたのはかわいらしいピンクのシャツとギンガムチェックの吊りスカートの幼い少女だった。
傷一つないピカピカの胸元の名札が彼女を学年を無言のうちに知らしめている。
____一年生。

 ナイトウはいつもの朗らかな笑みを浮かべる。
しかしその女子児童に書かれた「ゆきやま かなこ」の文字にはっと目の色を変えた。
どうやって復讐してやろうかと考えていた相手が自分から飛び込んできたのだ。
邪悪な喜びが胸の奥から込み上げてきたが、なんとかそれをかみつぶし、表情に出ないようにする。
 当のカナコはあどけない顔を真っ赤っかにしてもじもじとしていた。
ナイトウの微妙な表情の変化に以前のカナコなら気づいたかもしれない。
しかし注意力も観察力も小学校一年生、それも通り越して幼稚園児なみにしかなくなってしまった今となっては、そんな微妙な変化に気づけるはずもなかった。
せいぜい目の前にいるこの大人が笑っているか、怒っているか、泣いているか、くらいしかもはや分からないであろう。

 それでなくとも、カナコにそんな余裕は残っていなかった。
図書館を出たあと、保健室で寝ていれば子供には誰とも合わずにすむと考えた。
そうして保健室に向かったのだが、「保健室」という標識は漢字で書かれていたのだ。
ひらがなでさえ満足に読めないのに、漢字など読めるはずもない。
 結局、あんなに会うのを嫌がっていた児童に「ほけんしつってどこなのぉ?」と幼稚な質問をするしかなかった。
そんな思いでたどりついた保健室だったのだが、それでもその前で五分以上ももじもじとしていた。
というのも、フジワラに体を小さくされた時、神経も細く繊細なものにされ、極度の人見知りになっていたのだ。
保健室のドアをを開けるという行為に訳も分からず緊張してしまい、断腸の思いでやっとドアに手をかけたのだ。

 そうしてカナコはようやく入ってきたのだが、鼓動は大きくなる一方だった。
仮病を使って横になるという「小さなカワイイ嘘」に純粋な幼児仮想脳はひどい罪悪感を感じていたのだ。

「あの…あのね…かなこね…じゃない、わたしね…そのぉ…」

 視線がぐりぐりと宙を舞い、だれの目にもよこしまな気持ちがあることが一目瞭然だった。
ナイトウは瞬間にこの少女がすっかり内面までも「改造」されていることに気づく。
そして同志であるフジワラがどのような呪いをかけたのかも。
 ナイトウはふつふつと黒い衝動が沸き上がるのを感じた。

「どうしたのかしら?何年年組のだれさん?」

 名札を見れば分かることをナイトウはあえて聞く。

「え…んとね、あのね、いちねんのね…いちくみなの…」

「あらぁ、一年一組なのね。おなまえは?」

「あ、うん…んとね。ゆきやま、かなこ…っていうの」

 幼い口調でつぶやくたびに少女の顔がどんどん羞恥に染まっていくのをナイトウは見逃さずにそっとほくそ笑む。

「だれ先生が担当かな?」

「え…!?んとね、んとね…」

 ナイトウはここでカナコの現状を改めて把握する。
幼児になってから知ったことはなかなか覚えられていないということ。
つまり、物覚えの悪い子供になっているということ。

「あ…。ふじ…ふじわらせんせっ!」

 思い出せたことに満面の笑みでカナコは答える。
ナイトウはばれないようにクスリと笑った。

「そう。フジワラ先生なのね。あれ。でもおかしいなあ。この前一年生はみんな身体測定したのに、ユキヤマさんは初めて見るわね」

「えと、その、わたし…きょう、えっと、その、あれ。テン…そう、きょう、テンコーしてきたの…」

 自分ではよどみなくスラスラと話しているつもりなのに、実際に口に出るのは緊張してうまく話せない子供そのものだ。
転校、とはっきりと言ったつもりなのに、まるで「転校」という言葉を今日初めて覚えたみたいにたどたどしくしか話せない。
 ナイトウはあらかじめカナコという警官かどういう人物だったか調べていた。
男顔負けのエリート夫人警官。
女性剣闘士とも称えられた強く、勇敢で、賢く、自立した一人前、いや三人前ほどもある大人の女性。
だから、いまこの目の前にいる母性本能をくすぐる幼い存在に、口が歪むのを抑えるのに苦労した。

「ふうん、そうなんだ。それで今日はどうしたのかな」

「え?」

 集中力も失ったカナコはすっかり自分が仮病でここに来たということを忘れていた。

「気分が悪いの?どこかが痛いの?」

「えー…とね…んとね…」

 即答できない。
以前だったらこんな嘘くらい平気でその場で考えれたはずのなのに、全く頭の整理がつかない。
すぐに答えられないという時点で、それこそ小学生相手でも仮病だとばれてしまうだろう。
しかし今や浅知恵さえも熟慮しなければ出てこないカナコには、そこまでのことが意識に上ることもなかった。

「もしかしてお腹が頭痛なの?」

「そ、そう、そうなのっ。おなかがズツーなの!」

「ブッ」

 あまりにも簡単な罠にかかったことにナイトウはとうとう噴き出してしまった。
これはさすがにまずい、と思いカナコの顔を見たが噴き出したことに気づいてはいないようだった。
本人は自分の仮病がばれてしまうのではハラハラとしていてそれどころではないようだ。
もっとも最初からばればれなのには気づいていないが。

 こんなかわいい子に組織は壊滅させられたのか。
ナイトウは怒りすら感じることはもうなかった。
むしろ微笑ましさを感じ、もっとこのかわいい子を弄んでいたい、とすら思ってしまう。
フジワラがこの子を養子にしたというのも今ではうなづける。

「そう。分かった。頭痛なのね」

 一応頭痛だと理解したそぶりを見せる。
露骨に安心して肩の力を抜くカナコが可愛く見えて仕方がない。

「いつから頭痛なのかな?」

「えと…さ、さっき…かな…?」

「ふうん。でも大丈夫。思ったより元気そうだから、三時間目にもちゃんと出られそうよ」

「へ?いや、それ、だめなの!ほんとにっすっごくっ、おなかが、ズツーなんだから!」

 いちいちお腹が頭痛であると強調してくる。

「分かったわ。どんなふうに"お腹が頭痛"なのかしら?」

「え…んと…それはね…」

 カナコに再び冷たい汗が流れる。言うまでもないが、ズツーというものが何なのか今のカナコはわかっていない。

「…そのね、おなかがね、ぐるぐるしてね、なんかね、くるしいの…」

 ナイトウの顔色をちらちらとうかがいながらカナコは答える。
少しでも怪訝な顔をされたら、仮病だとばれてしまっているということなのだから。

 それって下痢じゃない?
思わず突っ込みそうそうになったが、ナイトウは表情を崩さずうんうんと頷いた。
この幼い女の子の"おままごと"に付き合った方がよほど面白い。
124:メづすりα :

2015/11/28 (Sat) 02:16:36


 少しゆさぶりをかけるだけでカナコは顔を青くしたり、赤くしたりする。
そのたびに心の中でニヤニヤしながら、フジワラはカナコにベッドを使うことを許した。
午前中の精神的な疲れと、仮病がばれなかった(と本人は信じている)安心感からカナコはすぐに眠りに落ちた。
 カナコが寝付いたことを確認して、ナイトウはフジワラに連絡を取る。
それは保健の先生として、担任への報告と、組織の一員としてカナコがどのような状態なのかを確認するためだ。
フジワラもカナコででもっと遊びたいらしく、四時間目が始まる前には、教室に返してくれということだった。
今しか遊ぶ時間がないと悟ったナイトウは冷たい聴診器をそっとカナコのお腹に当てた。
 敏感な肌の子供であるカナコは簡単に目を覚ます。

「…うーん…むにゃ…」

「あら、ごめんなさい。起こしちゃったわね」

 大人から見れば白々しい演技だがカナコは気づかない。
寝ぼけ眼でカナコは壁の時計を見る。

(えーっと…長い針と短い針が…あれ?)

とけいってどうやって読むんだっけ?

 カナコにそんな疑問が浮かぶ。今何時なのだろう。
そんなことも分からなくなってしまった自分が恥ずかしくなる。
願わくはもう放課後になっていてほしい。
先生に今の時間を聞こうとしたが、その前にナイトウが口を開いた。

「もう、大丈夫そうね。"お腹の頭痛"は治ったわよ、ユキヤマさん」

 さも今まで診察していたかのように言う。

「え?なおっちゃったのぉ?」

 演技することも叶わないカナコは本心の通りの残念そうな声を出す。

「うん。もうどこも苦しくないでしょう?」

 そう言われてしまえばカナコはもうどうすることもできない。
もともとどこも苦しくなんてないのだ。
これ以上苦しいといっても仮病だとばれてしまうと幼いカナコでも理解できた。

 カナコはせいぜい15分ほどしか寝ていなかった。
しかしカナコは時計が読めない、と教わったナイトウは、まるでカナコが完治するほど寝ていたという風にふるまった。
三時間目が終わるまで、まだ30分以上ある。
つまりさっさとカナコは治ったことにしてタイムリミットである四時間目まで遊ぼうとしていたのだ。

「どうしたの、ユキヤマさん。まだ授業にはでられない?」

「う、うん。じゅぎょうにはまだ、でられない!」

 授業中の児童のようにカナコは元気よく答える。
分かりやすすぎる嘘にまたしてもナイトウに笑顔がもれた。
しかし予想通りの反応だ。

「うーん、そうなの。分かったわ。もう少しここにいていいわよ」

「ほんとに!?」

 カナコは思わずやったーと叫びそうになった。
慌ててぎりぎりのところで飲み込んだが、嬉しそうな顔まで隠れることはなかった。
ナイトウは頑張って見え見えの本心を隠そうとしてる幼女に笑みを絶やすことはなかった。

「ユキヤマさん、この前一年生は全員身体測定をしたっていったわよね?」

「シンタイ…ソク…テイ…?」

 知っていた単語のはずなのにカナコの中の仮想脳が知識に鍵をかける。
子供は漢字の連なった単語なんてわからない、と無意識に思っていたことが自分の体に表出してしまったのだ。

「身長や体重を計ることよ」

 ナイトウは幼児相手のように優しく教える。

「ふうーん…」

 思わず本当に感心したような声が漏れた。

「ユキヤマさん。授業にはまだ行かなくていいから、いまあなたの身体測定をやってもいいかしら?」

「うん。いいよ…」

 カナコには授業に出なくてもよいという条件がなによりも魅力的だ。

「ありがとう。それじゃあ、お洋服を脱いでくれるかしら?」

「え?!」

「一年生はみんなそうやってるの。お気に入りの下着じゃないかもしれないけど」

「…そういうことじゃなくて…」

「やっぱりお友達が一緒じゃないと嫌かしら?」

「う、ううん。そうじゃないの…パ、パンツにならないとだめなの…?」

 下着姿といったつもりがなんだか幼い言葉遣いに変わってしまっている。

「うん。そうなのよ。お洋服ってね、結構重たいのよ。脱がないと体重が変わっちゃうの」

「でもぉ…」

 なんとか抜け道がないか考えるが、うまい言い訳など思いつかない。
ただ、「いや」と突っぱねるしか思いつかない。
ダダをこねるみないにいやいやを繰り返してしまう。
しかし教室に行かなくてもよいという条件を前に、カナコは折れるしかなかった。


「あらあ、なんだぁ。とってもカワイイパンツさんじゃない」

 カナコが着ていたのはアニメ調のカラフルなお姫様が大きく刺繍された女児用のものだ。
生地も厚くて、カボチャパンツといった印象だ。
そんなパンティー一丁で人前でたっているのだ。

 カナコは顔を真っ赤にして自分の体を見下ろした。
形もよく大き目だった胸の丘は、男の子と変わらないまな板。
乳首も全く穢れを知らない純粋なかわいいピンク色の小さいものに戻っている。
くびれはその痕跡すら見つからずむしろぽこりと張っている。
腰も男の子と変わらない小ぶりなものだ。

 つまり自分を女性と認めることができるのはこの恥ずかしい女児用パンツの中だけだ。

 カナコは一層顔を赤らめた。
125:メづすりα :

2015/11/28 (Sat) 02:21:32

「はい。これでおしまいよ」

 始終顔を真っ赤にしながら、カナコは子供服に再び袖を通す。
恥ずかしい恰好ではあったが、下着姿よりは幾分かマシだった。

「ユキヤマさんの身長、つまり背の高さは110.9センチメートル。体重、つまり重さは19.0キログラムね。ユキヤマさん、単位ってもう習ったかしら?」

「し、知ってるもん!」

 別に問い詰められたわけでもないに、カナコはムキになって答えた。
実は分からない。
そう暗黙の内に行ってしまったようなものであるということに気づいていなかった。

 ナイトウはもっともっとカナコをいじめたかった。
そこでひとつ、奇策に出ることにした。

 少し大げさな動きで「あれ、おかしいな~」という演技をする。
こうでもしないと今のカナコには伝わらない。
案の定カナコはこちらを見てきた。

「ユキヤマさん、あなたはもしかして、もともと大人?そんなわけないよね~」

 教育テレビのお姉さんのような演技だが、カナコはそれが演技だと夢にも思えなかった。

「え?!うん!そうなの。かなこねっ、ほんとうはおとなでねっ、おまわりさんなのっ」

 目を輝かせながらカナコは言った。
予想通りの食いつきだったが、あまりにも大人とは程遠いしゃべり方で「おとなだ」と言われ、ナイトウはまた吹き出しそうになってしまった。

「どうしておとなだって、わかったの?!」

「子供は服を脱ぐときにあんなに恥ずかしがらないし、あなたを診察した時に少し気になることがあったの。それじゃあ、あなたはやっぱり…」

「そう。おとななのっ。わるいひとにね、こどもにされちゃったの!」

 本人としてはいたって真面目に真実を話しているのだが、ナイトウの目にはただのごっこ遊びにしか見えない。
しかしあえてそのごっこ遊びに同調した。
自分をカナコの唯一のよりどころにして、遊ぶことにしたのだ。

「悪い組織が大人を子供にする機械を発明したっていうのは聞いたことがあったのだけど、まさかあなたがそうだなんて!」

 戦隊ヒーローものの女優にでもなったつもりでナイトウは台詞をつづる。

「ユキヤマさん悪いのだけど、もう一度服を脱いでくれないかしら?あなたの体をもう一度調べたいの」

「うん、いいよ!」

 カナコはすぐにまた服を脱いだ。
ナイトウは神妙な顔で(内心では大爆笑しながら)手袋をつけ、カナコのお腹に触った。
ただの聴診器をいかにも特殊な機材という雰囲気で取り出し、診察を始める。

「はい吸って。…吐いて」

 カナコは言われたとおりにする。

「うーん。これは驚いたわ。今のあなたは幼稚園の年中さんより少し大きい程度だけど、中身も全くその通りだわ」

「ええ、そんな」

「この胸はどうかしら?」

 全く性感帯としての役割のなくなったまな板にナイトウは手をかける。

「うーん。ただの子供と違いが全っっったく違いがわからないわねえ」

 診察するふりをしながらいちいちカナコの痛いところを突いてくる。

「あら、お尻に蒙古斑まであるわ」

 診察が続くにつれ、カナコの顔は羞恥の色を強くしていく。

「うーん…体温も子供特有の高い体温だし、発汗の具合も子供と同じくらい多いし…体臭だってミルクの匂い。ちょっとパンツも脱いでもらっていいかしら」

 これももとに戻れるかもしれないという希望のため、そう納得させカナコは下着を下した。
幼い秘所があらわになる。

「ぴったりと閉じていて少し膨らんで、おまんじゅうみたい。お毛毛もないし」

 そっと手をのばすナイトウ。

「どうかしら。何か感じる?くすぐったいだけかしら?」

 カナコはそっと頷いた。

「…やっぱり私の勘違いだったのかしら?」

「え?!」

「だって全く大人の痕跡もないのだもの」

「か、かなこ、おとなだってばぁ!ほんとだもんっ」

「分かったわ。じゃあ、大人だって証明してくれるかしら?肉体は子供でも、中身が大人なら、できるはずでしょ」

「うん、わかった。おとなだってこと、ショーメイしてっみせるもん」

 何もかも思い通りで、ナイトウはまた口を歪ませるのだった。
126:メづすりα :

2015/11/28 (Sat) 02:24:45

ご無沙汰です。
最近停滞気味だったので、少しボリュームを増やしたつもりです。

やっぱり責める人がいた方がいいですね…

コメントありがとうございました。
ゆっくりですが完結まではやります。

127:青年A :

2015/11/28 (Sat) 02:41:21

お疲れ様です。
完全に子供に戻ってしまったカナコの描写がすばらしいです。
ここからどのような展開になるのかすごく楽しみなので、ぜひ続きをお願いします。
128:ゼル :

2015/12/19 (Sat) 07:14:03

すばらしいです。
言葉責め、精神的な退行など、魅力的に書かれていて面白いです。
続きの予定があるのであればぜひ見たいです。

気長に待ってますね。
129:C :

2016/01/01 (Fri) 14:02:46

はじめまして。
これから先の展開がどうなるか全く読めないだけにとても楽しみです。

忙しいと思うけど、なんとか頑張ってもらいたいです。
130:ちょいブス好き :

2016/01/02 (Sat) 06:32:36

図書館の後日談はもう無理なのだろうか
131:青年A :

2016/01/12 (Tue) 23:57:58

お久しぶりです。
メづすりさん、とてもお忙しいことと思います。
続きの方は書かれる予定はおありですか?
最近書き込みがないようなのでもしかしたら書かないことにしたのかなと思って気になって書き込みました。

もしよろしければ反応の方をお願いします。
お忙しいと思いますので、できればで大丈夫です。
132:メづすりα :

2016/01/13 (Wed) 21:44:30

しばらく留守にしているうちにたくさんのレスが来ていて感激です。
ありがとうございます!
自分の遅筆と現在多忙なこともあり、次の投稿のメドはまだ立っていません。
自分の作品の続きを楽しみにしている方がいるというのはとてもうれしいことです。
三か月に一度投稿できれば良い方、くらいの寛大な気持ちで待っていただければ幸いです。

 「図書館」の後日談ですが、今のところその予定はありません。やるかもしれないなどと中途半端なことを書いてしまった自分を許して下さい。
するにしても「カナコ」が終わってからになるのは確かです。

 長文を失礼しました。
133:青年A :

2016/01/16 (Sat) 14:26:33

忙しい中でのご返事、ありがとうございます。
了解しました。
忙しいと思うので無理がない程度で頑張っていただければ幸いです。

続きは気長に待ってます。
134:サロメ :

2016/03/03 (Thu) 14:38:32

楽しみに待ってる
135:笹中 :

2016/03/13 (Sun) 00:15:31

とても面白いです
続き待ってます
136:シデン :

2016/03/13 (Sun) 18:33:54

続きが楽しみです。
137:z :

2016/03/16 (Wed) 04:07:38

続きが楽しみです。
138:サバ :

2016/04/01 (Fri) 10:31:04

はじめまして。
作品を拝読させていただきました。
実に続きが楽しみになる作品でとても面白いと思います。

続きを書いてくださるのであればぜひ読みたいです。
ぜひ頑張っていただければと思ってます。
139:雄大 :

2016/04/04 (Mon) 20:55:53

続きを楽しみにして待ってます!
140:ファン :

2016/04/09 (Sat) 23:51:03

メづすりαさんの制服は身を引き締める18から24までをぜひ読ませて
いただきたいのですが、管理者の許可が必要となっていますが
どのようにすれば許可をいただけるのでしょうか??


141:メづすりα :

2016/04/11 (Mon) 00:42:01



「じゃあ、証明して見せて」

 ナイトウはやさしく呟く。
それに対し、へ?、とすっとんきょうな声をあげたのはカナコだ。
 今さら、しょーめいってなに、などとは口が避けても言えないということは幼い知能でもよく分かっていた。
ナイトウの口振りからショーメイというものをすれば良いということは分かる。だがそんな漢字の連なった“大人みたいな言葉“はカナコの仮想幼児脳からはとっくに抹消された言葉だった。
 もちろん本当の大人でもいきなり証明しろ、などと言われれば、何をすれば良いのかと聞きたくなるところだが、プライドと羞恥心だけは一人前のカナコには聞くということはできない。

「どうしたの?証明って言葉が分からないの?」

「ううん!わ、わかる、わかってるもん。だけどちょっと、わすれちゃったの」

 必死にごまかす仕草がいちいちナイトウは可愛く見えてしょうがない。

「あら、そうなのね。それじゃ、ユキヤマさん。分からなかったり忘れたりした言葉があったらどうするのだっけ?」

「えとね、わからないことばがあったらねえ…」

 どうするのだっけ、と考えると午前中を一緒に過ごした児童たちが自然に頭に浮かんでくる。
彼ら、彼女らがとっていた行動、それは…

「…せんせーにきくっ!」

 言ってからカナコははっとした。
頭の中だけで考えていたはずの事柄が口に出てしまった。
これもまた児童たちそのままの言動だ。

「うん、そうね。それじゃユキヤマさんは偉い子だから恥ずかしがらずに先生に聞けるよね?」

「え、でも、かなこ、おとななのに…きくのはこどもだもん…」

「え?先生に聞けないの?幼稚園生でも出来ることよ。それともユキヤマさんは赤ちゃんだったのかしら」

「あかちゃんじゃない!かなこ、おとななの!」

「じゃあ、聞けるよね。恥ずかしいことじゃないのよ。6年生だって分からない言葉はあるのだから」

 うん、6年生でも分からない言葉があるのだったら私が聞いたって…
って違う。私は社会人だったのよ。
なに小学生と比べているのよ!

「ユキヤマさん?大丈夫?」

「え、…うん」

「ちゃんと聞けない子にはなにも教えませんよ」

 覚悟を決めてカナコは口を開いた。

「…しょうめいってなーに?」

「ユキヤマさん。年上の人にはね、敬語っていうのを使うのよ」

「え…?」

「ユキヤマさんは今、クラスのお友達じゃなくて先生に聞いてるのよ。大人なら敬語くらいちゃんと使えるわよね?」

「う、うん。つかえる」

「じゃあもう一度だけチャンスを与えるわ。ちゃんと敬語で聞いて」

「えと…しょーめいって…な、なに…なに…んと…」

 午前中のたった数時間の児童たちとの触れ合いはカナコから敬語を奪うのには充分すぎた。
クラスのだれも敬語で話そうしている子はいなかったのだから。
必死に敬語を思い出そうとするが、一年生が使った言葉しか浮かんでこない。

「あ、おもいだした!しょーめいってなん…デ、ス、カっ!」

 皮肉にもカナコが思い出した敬語は一時間目の生活科の発表があったからこそだった。
あれが一年生が使った唯一の敬語の場であったのだ。

「はい、よく言えましたー!」

 ナイトウはそう言ってカナコの頭をなでた。
カナコは大人の面影もなく無邪気にうれしくなる。

「証明っていうのはね、それが本当のことなんだ、てみんなに分かるように教えることなの」

「ふーん。それじゃあ、かなこは、なにをすればいいの?」

 すっかり嬉しくなってしまったカナコは自分が子供のようにいちいち行動を大人に確かめていることに気づかない。

「そうねえ…」
142:メづすりα :

2016/04/11 (Mon) 00:43:39


 カナコは一杯のコップを目の前にして涙目になっていた。
ついこの前まで自分がこれを毎日のように、少し高いお金を払ってまで飲んでいたということが全く信じられなかった。
カップの中でゆらゆらと揺れる黒い水は毒のようにも思えた。
 砂糖もミルクも入れていないブラックコーヒー。
ナイトウがカナコに差し出したのは一杯のそれだった。
"大人"である証明としてまずブラックコーヒーを飲み干すこと、といわれたのだ。
学生時代からブラックを好んで飲んでいたカナコにとって、これ以上にない簡単な課題のはずだった。

 しかし現実は全く違っていた。
カップに注がれたコーヒーを一口すすっただけでカナコはあまりの苦さに吐き出してしまったのだ。
舌にわずかに残った数滴でさえも苦くてたまらない。
犬みたいに舌を出しながら、洗面台に直行する。
何度も何度も丁寧にうがいをして、ようやく口の苦みは取れた。 
たわいもないテストだと、調子にのって一気に口に入れるべきではなかったと後悔した。
コーヒー豆の香りが良い匂いだと思えなかった時点である程度は察するべきだったのだ。

「あら、あら。ユキヤマさんはやっぱり子供なのかしら。大人の味は分からないのね」

 雑巾でカナコの吐き出したコーヒーを拭きながらナイトウは言った。

「そ、そんなはずないもんっ。まいにち、のんでたもんっ」

「そのたびに毎日床を汚していたのかしら?りんごジュースと間違えているんじゃない?」

「ううん。こーひーだもん…」

 ナイトウはふっと笑顔と同時にため息をついた。

「ユキヤマさん。それはきっとお砂糖とミルクをいっぱい使ったコーヒー牛乳よ」

「ううん。ぶらっくだもん…おさとうも、みるくも、いれないでのめてたもん…」

 あまりの苦さと自分の情けなさで目に涙がにじむ。

「お店には最初からお砂糖とミルクを入れて売っているものもあるのよ。きっとそれよ」

「ちがうもんっ。ぶらっくだったもん」

「ユキヤマさん、それなら飲めるわよね?」

 そう言われ、カナコはカップを一瞥した。
一気に口に入れたとはいえ、所詮は子供の一口。
コーヒーには全く減ったような形跡もなく、ほとんど満タンに近い状態でそこにある。
ほんの一口でさえも何度もうがいをしなければならないほどだった。
これほどの量を飲まなければならないと思うと、気が遠くなる。
 一杯のカップを目の前にして、カナコは下唇をかんだ。
あの苦さを思い出しただけで涙が出てきそうだった。

 眉間にしわが寄るくらいぎゅっと目をつむってカップをすする。
化学薬品か何かを舌に流し込んでいるかのような、そんな感覚を覚えてしまう。
一口飲むたびに水で口を洗わないと到底耐えられない。
カナコはもうこのコーヒーをそのままながしに流してしまいたかった。

「の、のめたよ。かなこ、おとなだもん」

 十分ほどたって、にじみ出た涙で目をはらした小学一年生はそう言った。

「あらぁ。全部飲めたのね!偉いわぁ!」

 ナイトウは笑顔になってカナコの頭をくしゃくしゃと撫でた。
ただ頭を撫でられただけだというのにカナコはなんだかうれしくなってしまう。
大人に褒められるという行為に仮想脳が激しく反応してしまっているのだ。

「やっぱりあなたは大人だったのね!」

 大げさな手振り付きでナイトウはカナコを称える。

「うん!おとなだよっ」

 一緒になってカナコも顔中口にして笑う。
こちらは演技ではなく本当の笑顔だ。

「それじゃあ、ちょっと待ってね。大人に戻るお薬を今あげるね」

「うん!」

 カナコが今うれしくなっているのは大人に戻れるという期待感からではなかった。
大人に褒められたということがなんだか無性にうれしいのだ。
自分が大人に戻れるかもしれないということに気づいたのは幾分か後になってからだった。
 そして改めて自分が大人に戻れるということの重大性に気づいていく。

ナイトウがそんな薬を所持しているということに疑問はなかった。
白衣の姿はいかにも賢そうで、なんでもできそうに見えるのだ。
そんな幼稚な考えに侵食されているなどとカナコは気づきすらしなかった。
カナコの頭は今、空想と現実のあいまいな幼児のそれと同じなのだから。

「おまたせ」

 カナコの背中から声が聞こえた。
やっと大人に戻れるんだ。
嬉しさを抑え切れす、おもちゃを買ってもらった子供みたいにピョンピョンその場ではねた。
そしてナイトウのほうを振り向く。

 その瞬間、カナコの笑顔はぷつりと途絶えた。
みるみるその顔が青ざめて、白くなっていく。
笑顔のナイトウがその手に持っていたのは、一本の注射器だった。
143:メづすりα :

2016/04/11 (Mon) 00:45:00

 カナコは先端恐怖症ではない。
もちろん人並みに痛いことは嫌がるし、そんな目にはなるべく会いたくない。
 しかし注射器を目にしただけでここまで震え上がってしまう自分が信じられなかった。
警官時代の厳しい訓練。男性の同僚ばかりに囲まれた孤独な日々。実際の犯罪者を目の前にした恐怖感。
 それに比べれば、こんな針の先などまさに蚊に刺された程度の苦痛のはずだ。ナイフを振り回す大男と対峙したこともある。
 頭ではそう分かっているのに、分かっているはずなのに、カナコは恐怖心をぬぐうことが出来なかった。
蛍光灯の光を反射し、きらりと輝くその針を見ただけで溢れるように不安がつのっていく。
 ぷすりと柔肌を突き刺し、異物が鋭利に食い込んでくる感覚が自然と思いおこされた。
 カナコは腕をおさえた。
まだ何もおこってない。
ただ、注射されるということを想像しただけだ。注射器はまだナイトウの手の中にある。
 それでもどっと嫌な汗が背中に流れた。

 カナコだって子供のころは注射が嫌いだった。しかしここまでひどかっただろうか?
 カナコは自分の子供のころを思い出す。本当の子供時代を。
たしかに注射はいやだった。
しかし幼い頃から勇ましく、強靭だった彼女は少し歯を食い縛る程度ですんだはずだ。
 少なくとも今この現状ほど恐怖心や不安感はなかった。いや、これまでの人生を通じてもそんな経験はなかった。
彼女の無意識に思っている、子供は一般的に注射器を嫌がる、怖がるという先入観がそのまま彼女に表出してしまったのだ。 

「さ、ユキヤマさん。腕を出して」

「う、うん」

 カナコはゆっくりと右手をあげた。
その腕は小刻みに震えている。

「ユキヤマさん。お洋服の袖はめくらないと、お注射はできないでしょう?」

「え?あ、うん」

 カナコは要領を得ない動作で袖をくくる。恐怖で頭が真っ白になっていた。
急に肌寒くなった。あらゆる感覚に敏感になり、心臓が痛いほど胸をうつ。
 ナイトウの手がカナコの腕をそっとつかんだ。
カナコは幽霊に腕をつかまれたかのようにびくっと震える。

「あの、おちゅうしゃじゃないと、だめなの?のむのじゃ、だめなの?」

 唇をふるわせてカナコが聞いた。

「ごめんなさいね。このお薬は注射じゃないと効果がないの」

「ほんとに、ほんとにだめなの?」

 カナコはまたべそをかく。

「そうよ」

「そのおちゅうしゃって、いたい?」

「平気よ。大人なら我慢できるから」

 それって痛いってことじゃないか、とカナコは余計に泣きそうなった。
アルコールでカナコの腕が拭かれる。
彼女にとってそれは拷問の始まりの合図のようだった。
 ゆっくりと近づいてくる針に心臓がでんぐりかえる。
血流が逆転したかのような感覚。

「いやぁっ!」

 腕まであと一センチメートルというところでカナコは跳ね上がって椅子から転げ落ちた。

「いやぁ!ちゅーしゃ、いやぁっ!」

 本当の一年生でもしないくらいのギャン泣きだった。
警官の面影などみじんもない赤ちゃんみたいな泣き方。
注射器を床に転がっていやだと否定するそのさまは幼稚園児でもなかなか見ない。
 マンガみたいにわーんわーんと泣くカナコ。
ナイトウはさすがに申し訳なくなったのか、よしよしと頭を撫でた。

 もっとも、これもナイトウの想定内だった。
彼女が用意した注射はもちろん大人になる薬ではない。
ただの水を入れた注射器である。
今のカナコが注射器という恐怖に打ち勝てるはずがにという算段だったが、この反応は予想以上だった。
 組織のかたきということも忘れるくらいカナコの反応は幼く、仮にも教師である彼女には申し訳なさのほうが上回ってしまう。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と優しく背中をなでる。
なんて保護意欲を誘う存在なんだ。

 男ならだれでもほうっておけないような美人警官は、今や大人ならだれでもほうっておけないような子供なのだ。
144:メづすりα :

2016/04/11 (Mon) 00:54:33

まず、たくさんの方々のレスありがとうございます。

質問にありました『制服…』の話ですが、とりあえず私は観覧に制限や許可は作ってないので、どうしたらいいのかは私でもよくわかりません。
そのうち別の場所に挙げるかもしれないのでそのときはこの場を借りて告知させてもらうということでよろしいでしょうか。
145:ファン :

2016/04/11 (Mon) 20:19:01

メづすりαさん。ご返事ありがとうございます。
ぜひ、告知がありましたらよろしくお願いします。
146:a :

2016/04/11 (Mon) 22:41:01

告知がありましたらよろしくお願いします。
147:通りすがり :

2016/04/12 (Tue) 19:13:08

わずかなやりとりの間にもどんどん退行していってしまう描写がすばらしいです。
1日が終わる頃には大人であった記憶がどれほど残っているのか、
残っていたとしてどれほどかなこ自身は変わり果てているのかが楽しみです。
148:青年A :

2016/04/13 (Wed) 13:12:25

お久しぶりです。
かなこの自身の気づかないうちに退行し、注射に自身が驚くほど恐怖してしまうなど、退行の様子のイメージがつきやすくとても面白いです。

次が楽しみになる作風は本当に好きですしすごいなぁと思います。
お忙しいと思うので、無理がない程度で次をまた書いていただけたらうれしいです。
これからもご活躍を期待してます。
149:ああ :

2016/05/26 (Thu) 21:47:58

面白いです。
どんどんかなこを恥辱のかぎりをつくしてください。
あと、『制服・・・』のPIXVで続きとかはしないんですか?
150:シデン :

2016/05/29 (Sun) 12:18:33

お疲れ様です。
非常に面白いです。
1日でも劇的な変化、そしてこのあとどのように変わるのかを楽しみにさせてくれる感じがとても良いですね。

ぜひ続きをお願いします。
151:Z :

2016/06/08 (Wed) 09:17:50

お久しぶりです。
かなこの劇的な変化はとてもイメージが強くて今後の変化が楽しみになりますね。

続きを待ってます!
152:アヤマード :

2016/06/08 (Wed) 13:51:20

続きをぜひお願いします。
153:ゼル :

2016/06/12 (Sun) 14:51:04

続きが楽しみです。
お忙しいと思うので、気が向いたときにでもぜひお願いします。
154:サバ :

2016/07/01 (Fri) 15:33:15

続きまたは新作を待ってます。
気分が乗ったときにでもぜひお願いします。
155:ファンB :

2016/07/05 (Tue) 21:02:14

続き期待してます。
ぜひお願いします。
156:シン :

2016/07/07 (Thu) 08:09:55

更新を待ってまーす!
ぜひぜひお願いします。
157:順次 :

2016/07/13 (Wed) 23:53:17

続きをぜひお願いします。
158:メづすりα :

2016/07/27 (Wed) 02:21:13

 以前の投稿が埋もれてしまうくらいのレスありがとうございます!
いつもはげみになっています!

こちらで以前投稿させていただいていた
『制服は身を引き締める』を完結させました。

興味のある方は是非

ttp://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7059487

『カナコ』の投稿を楽しみにしている方にはごめんなさい。
もう少し待ってください。

以下 駄文

 本来ならこちらにも投稿すべきなのですが、
改稿に伴う矛盾の発生や、
制限によって閲覧できない部分がある、
『カナコ』の途中で違うお話を入れると読みにくくなってしまう、等の理由で
今回のみこちらへの掲示板の投稿は見送らせていただきます。

『制服』はかねてよりずっと執筆していたのですが、完結させるまで投稿はしないと変なことを考えてしまったために、今日まで投稿が延びてしまいました。

 これからはとりあえずカナコの執筆に集中します。
とはいえ、私のことですので、更新頻度はたぶん今までとは変わらないと思います。

どうか寛容な心でお待ちいただきたいです。

SSでもない長文を失礼しました。
159:通りすがり :

2016/07/27 (Wed) 22:23:35

お疲れ様でした!とても良かったです。挿絵も良かったです。2歳児の挿絵も見てみたいな、と思ってしまいました。
160:ファン :

2016/07/28 (Thu) 00:45:53

ありがとうございました。
すごくよかったです。楽しみに
待っていたかいがありました。
カナコの続きも、心待ちにしてます。
時間がある時に更新、よろしくお願いします。
161:青年A :

2016/08/16 (Tue) 13:06:28

制服は身を引き締めるの方、読ませていただきました。
サダオの絶望していく様や、更に色々なことができなくなっていく様子が描かれていてとても面白いと思って読んでいました。

今後カナコの続きに入られるということで、とても楽しみにしつつ気長に待ってます。
書こうと思った時でいいので、ぜひ頑張って下さい。
162:アヤマード :

2016/10/16 (Sun) 17:34:00

「制服は身を引き締める」を拝読いたしました。
自身がより小さな存在にされて、しかもより長くその感覚を味わっていかざるを得ない状況に陥っていくサダオの様子がとても印象的でした。
カナコの続きの方、とても楽しみにしています。
気持ちが乗ってきたときにぜひお願いします。
163:ゼル :

2016/10/17 (Mon) 19:53:04

子供だと思っていた存在よりもさらに小さな存在となってしまうサダオの描写がとてもすばらしいです。
カナコに執筆に入られているとのことですので、続きの方を楽しみにかつゆっくり待つことにします。
ぜひぜひ頑張ってください!
164:大八木 :

2016/10/28 (Fri) 16:11:24

かなこの続き楽しみにしてます!
無理がない程度で、気が向いたらぜひお願いします。
165:青池 :

2016/10/29 (Sat) 14:54:37

お疲れ様でした!
サダオの後半、とてもよかったです。
カナコの続きの方も楽しみに待ってます!
時間あるときや気分が乗った時に更新をぜひ、よろしくお願いします。
166:シン :

2016/10/30 (Sun) 23:36:58

メづすりαさんの作品は本当にすばらしいです!
かなこの続きもかなり楽しみにしています。
気が向いたらぜひお願いします。
167:メづすりα :

2016/11/20 (Sun) 01:21:04


「女の子はね、きれいにおめかしするものよ」

 そう言ってナイトウは優しくカナコの髪を撫でた。

「やめて。勝手に髪の毛をいじらないで!」

 そう言いたいのに思うように反論できない。
あー、うー、と不満そうにか細い声を出しただけで終わってしまう。
「大人には逆らうものではない」という幼児が持っている恐怖観念にも似た意識がカナコにもすっかり根付いてしまっているのだ。
 霧のようにおぼろげな大人の意識をなんとか振り絞ったが、そのころにはすでにナイトウは手を離していた。

「ほら、できた。可愛くなったわよ」

 ナイトウはカナコの座っている椅子をくるりと回し、鏡に向けた。
鏡に写るその小さな幼児にカナコは戦慄する。
 自然な感じで下されていた前髪は、眉毛の上で定規で合わせたようにぱつんと揃っている。
残されたそれ以外の髪もきらきらとラメの入ったピンクのゴムでお団子のように二つにまとめられている。
小学生というよりは、もはや幼稚園児のようなファッションだった。
すっかり泣きはらし真っ赤になったお眼目がさらに幼さを際立たせている。

「うふふ。ずっと可愛くなったでしょう」

 ナイトウはそう言ってカナコのすぐ横まで顔を持ってきた。
鏡越しだったがその顔には明らかな悪意が感じられる。
 可愛いは可愛いのだが、女性的な魅力があるかと言われればそうではない。
小さなものをめでるときの、保護意欲を誘う、明らかな上から目線の「かわいい」なのだ。
本人の意志ではなく、大人の思う子供らしさを前面に押し出したようなおめかし。
 無知な子供ならまだ喜んだかもしれない。
しかしカナコはその「かわいい」の真意も分かる大人なのだ。少なくともプライド的には。
子供らしいこの姿を褒められたところで、もはや蔑みの言葉にすら感じられる。

「さあ、"おなかのズツー"もすっかり良くなったし、教室に戻りましょうね」

 ナイトウはまたくすりと笑い、カナコを抱きかかえ椅子から降ろした。
ぎゅっと手を握られ教室まで先導されては、逃げる隙もありはしない。
カナコの仮病早退作戦は失敗に終わった。

(またこの恥ずかしい教室にもどってくるなんて…)

 きゃっきゃっと黄色、それを通り越してレモン色、の声のする教室にカナコは帰ってきた。

「うう、かんだかくて、うるさい…」

 カナコはそれに負けない甲高い声でぼやく。
廊下にすでに子供たちの声は響いていた。
どうせ授業というよりは遊びに近いことでもやっているのだろう。
 自律した大人だったはずの自分が、そんなゲーム形式の授業でないと集中を保てない子供と同じに扱われるなど、屈辱の極みである。
子供の笑い声が響けば響くほど、教室に入ることはためらわれた。

「せめて、ちゅーもくはあびないようにしないと…」

 ゆっくりと後ろ側の扉を開けた。
教室に入り、後ろ手で扉を閉めると、教室中の目がカナコに向けられていた。
さっきまでばか騒ぎしていたはずなのに、しんと静まり返っている。

「どうぞみなさん、お気になさらず授業を続けて下さい」
と余裕の大人の対応でも見せつけたいところだったが、

「あう…。その、あの…。じゅぎょーって、まだ、つづいてるのぉ?」

 と、怯えた子供の消え入るような声しか出ることはなかった。
無数の児童たちの視線にさらされ、蛇に睨まれたカエルの如く、カナコの心臓はでんぐりかえってしまった。
 小学校のころから学級委員長などを務め、大人数を仕切る立場にあったはずなのに。
クラスはおろか、全校生徒を目の前に雄弁に演説をしたこともあったはずなのに。
そんな記憶ははっきりとあるのに、30人弱の子供に見つめられただけで、縮みあがってしまったのだ。

 カナコは単純に子供時代に戻ったわけではない。
実際にカナコが小学一年生であったころはこんなに臆病でなかった。
今の彼女は七歳の誕生日を向かえても、五歳児くらいにしか成長しない未熟児なのだ。
肉体的にだけでなく、精神的にもそれはいえること。
 頭ひとつぶんも大きい"同級生"たちを目の前にして、同等の立場ではなく、兄や姉に対して抱くような依存心や恐怖心すら芽生えつつあるのだ。
怯えた子犬のように周りの機嫌をうかがわないと怖くてたまらない。
そんな自分に気づいていても、カナコ自身にはどうすることもできなかった。
それが今の"カナコ"という人物像なのだから。

「ユキヤマさん。具合はもう大丈夫なの?」

 その沈黙を打ち破るようにフジワラが言った。

「うわー!カナコちゃん、かわいいーっ」

 その声に便乗するように一人の女の子が声をあげる。
その視線の先には、本物の小学校一年生でも恥ずかしがるような、ピンクのラメの入ったきらきら光る髪留めがある。
カナコはボッと顔を赤くしうつむいた。
その表情はとっておきのおべべをパパに褒められた幼女のそれにそっくりだった。

 この髪留めも髪型も自分の意志のおめかしではない。
ましてや、大人の女性としてこんな格好は屈辱だ。
そのはずなのに、カナコの中に作られた仮想幼児脳は「かわいい」と言われただけで嬉しくて恥ずかしがってしまう。
 その「かわいい」にも同級生ではなく、妹をめでるようなニュアンスがあったのにも関わらず、カナコはとにかくうれしがってしまう自信の身体を止めることはできなかった。

「本当。ユキヤマさん、とってもかわいくて、似合ってるわよ」

 フジワラがわざわざカナコの元まで歩き話しかける。
そのまま膝を曲げると、カナコにしか聞こえない小さな声でささやいた。

「うふふ。いかにも子供っぽくて本当に似合っているわよ、元婦人警官のカナコさん。赤ちゃんがつけるみたいな髪留めで頭の上に二つも髪の毛のお団子を作っちゃって。宝塚みたいに男らしくてたくましかったあの姿からは想像もできないわ。大人の男からもかっこいいとか言われていたあなたが、去年まで幼稚園に通っていた女の子からもかわいいなんて言われるなんて。しかもそれに嬉しさを抑えきれない顔なんてしちゃって。本当に人生って何がおこるかわからないわね」

 そう言っていやらしく顔を歪ませ、白い歯を見せた。

「きーっ。じょーだんじゃ、ないわ。こどもたちから、あんなこと、いわれて、うれしくなんか…」

 必死に反論するが、呼吸の長続きしない子供の肺活量ではいまいち具合が悪い。
細かく呼吸の中継ぎを入れなくてはいけないせいで、どうにも迫力や勢いに欠ける。
舌足らずさもあり、むしろほほえましく、たどたどしい口調だ。
おまけに

「うれしくなんて、ないわ。それよりも、むしろ…。えと、あれ…、ほら…」

 大人の使うような難しい言葉は栓の抜かれた湯船の如く、すっかり頭から抜け落ちていた。
必死に言葉を探すが、ちっとも出てこない。
しかもそんな様子にフジワラはとっくに気づいていた。

「くく。ユキヤマさん。分からない言葉があったらどうするのだっけ?」

「せんせいにきく!」

 悲しいことに仮想幼児脳はカナコの本来の脳よりも早くフジワラに反応を示してしまった。
本来の意識が気づいたのはカナコが声を出してから数秒後のことだった。

「どんな言葉が分からないのかしら?」

「えとね、あのね、みんなから、わらわれたり、いやなこと、いわれたりして、すっごく、やな、きもちになること…」

 子供に語り掛けるような優しい言葉使いをされると勝手に体が子供らしい口調で反応してしまう。
教室でおしゃべりを続ける周りの一年生の口調にずるずると引きずられてしまう。

「もしかして『屈辱』って言葉じゃないかしら?」

「そう、それ!えと…、こどもに、かわいいなんて、いわれるのは、うれしいんじゃなくて、"ツクジョク"なんだから!」

 フジワラはまたにやりと笑った。
いや、失笑を抑えることができなかったと言った方がいいだろう。
幼児の音位転換はよくありことだが、カナコにもそれがはっきりと表れてしまっているのだ。

「うふふ。そうね。"ツクジョク"ね」

 カナコはフジワラに言っていることがよくわからなかった。
屈辱という言葉も抜け落ち、正しい言葉として"ツクジョク"が認識されているのだから。

「さあ、もうすぐ終わるけど、授業は続けるわよ。席に着きなさい」

 我に返ったようにフジワラは「先生の顔」になるとカナコを座るよう促した。
その顔はカナコを組織をつぶした恨むべき対象としてはおろか、大人の女性を見る顔でもなかった。
クラスで一番手間のかかる「かわいい子」を見る顔に違いなかった。
168:メづすりα :

2016/11/20 (Sun) 01:23:05


 10分もしないうちに三時間目の終了のチャイムがなった。
とくに何があるというわけでもなく穏やかな10分だった。

「はーい、みなさん。準備しましょう」

 フジワラの発言にカナコは違和感を覚えた。
四時間目は移動教室だっただろうか。
そう思って時間割を確認する。

 ええと、今日は木曜日だから…

 そこまで考えてまた思考が幼児仮想脳に邪魔された。
幼児がそんなにすらすらと曜日を数えられるわけがないと。
月曜日から順に追っておかないと今の順番など分からないと、無意識に考えてしまったのだ。
 一度考えてしまえば、それがもうカナコのできる唯一の行動になってしまった。

 ええと、ええと。もくよーびだから…
…んと、げつ、かあ、すい、もく…

 曜日のたびにいちいち指を折る。

 なんでこんなことしないと曜日が数えられないの?
さっきまで瞬間的に曜日なんてわかってたじゃない。

 頭ではそう分かっているのだが、この体は仮想幼児脳の思考を優先して実行するようにできてしまっているのだ。
みじめな気持ちになりながら指を折り、木曜日が月曜日から数えて四番目だという分かり切った事実を確認する。
それだけで終わらないのがこの体だ。
教室に貼ってある時間割表を指さしながら、また四つ数えていく。

 いち、にい、さん、よん…

 四番目の列にひらがなで『もく』と書かれていることを確認する。
そしてまた四時間目ということは…

 いち、にい、さん、よん…

 指で時間割表を追いながらまた四つ数える。
まどろっこしくて馬鹿らしい行為だとは分かっている。
しかしこうしないと仮想幼児脳はちゃんと木曜日四時間目の場所を認識してくれないのだ。
 目を皿のようにして注意深くひらがなを読んでいく。
それが「いちねんせいのゆきやまかなこ」の学力の限界だ。

 と…、う…、と…、く…?

 いや、ちがう「てんてん」がついているから、おとがにごるんだった。
 だから、と…、「ど」、だ。

 ど、う、と、く…
 どうとく。
 よじかんめは「どうどく」だ。

 大人ならものの数秒で分かったであろう事実を二分ほどもかけてようやく理解した。
いや、カナコはとっくに理解していたのだが仮想幼児脳がそのことに非常に手間取ったのだ。
カナコは大人として物事をスマートに理解することができる。
しかしそれを表出させるためには、愚鈍で幼稚な仮想幼児脳を動かさなけばいけない。
ある意味でカナコの脳は通常時の二倍ほども動いていると言える。

 でも道徳って移動教室だったかしら。

 フジワラの言動は明らかに移動を促すものだった。
思わず首をかしげる。

「あら、ユキヤマさん。どうかした。廊下に並びましょうね」

 フジワラがやってきて言った。

「ろうかに?なんで?」

「あら。聞いていなかったかしら。今日の四時間目は特別授業で道徳はお休みなのよ」

「とくべつじゅぎょー?」

「そう。いつもとは違う授業よ」

「それって…?」

 するとフジワラは教師の仮面を外し、そっとカナコだけに素の冷たい顔を見せた。

「近所の保育園とのふれあい交流会よ」

「ほ、ほいくえん?!」

「うふふふ。一年生と一緒になっただけでこんなに幼くなった今の貴女が、保育園児と一緒になったら、どれだけ変わるんでしょうね?もしも園児の中でお尻丸出しでタチションするような男の子がいたらどうする?素っ裸で廊下を走り回るような子がいたら?うふ、うふふふ。もう考えただけで笑いが止まらないわ」

 悪魔のように笑うと、またフジワラはスッと教師の顔に戻った。

「さあ、ユキヤマさん。みんなといっしょに廊下にならびましょうね」

 フジワラが逃げ道など作っているはずがない。
教師としてにこにこと一年生の指揮をとるフジワラに、カナコは恐怖しか覚えていなかった。

169:メづすりα :

2016/11/20 (Sun) 01:26:45

小学校というものは何かと集団行動をするものだ。
特に低学年のうちは、ちょっとした移動教室や何かでもクラスで足並みそろえてせーの、で動く。
 ある程度落ち着きのある歳ならまだいいが、小学校一年生にはなかなか大変なことだったりする。
少しでも先生が目を光らせていないとどこに飛んでいくかわからない。
それは大げさにしても、友達とのおしゃべりに夢中になって周りが見えなくなってしまう子は多い。

 きゃい、きゃい、と叫ぶ一年生に必死に声を張るフジワラ。
泣く子と地頭には勝てぬとはよく言ったもので、狡猾なフジワラも無邪気な児童たちには神経をすり減らしていた。

(こうしてみるとみんな幼稚ね…)

 廊下で騒ぎ立てる"同級生"をしり目にカナコは思った。
男の子も女の子も変わらず、思い思いの行動をとっている。
女子は大人になるのが早いというが、それはあくまでも第二次性徴の始まりが男子よりも早いというだけのこと。
やっと永久歯が生えてくるようなこの年代の子供たちには関係のない話だ。
彼らは等しく同じような顔をして、同じような体格をしている。
そこに性差はみじんも見えない。
 ボーイッシュな恰好をした女の子は男の子にも見えるし、髪を耳まで伸ばし中性的な恰好をした児童はカナコには性別の見分けがつかない。

(そういえば、近所の子供が男女の違いは股間しかないと思っていた、とか言ってたっけ…?)

 子供たち、とりわけ低学年にとっては、性差など髪の毛の長さくらいしかわからないのである。

 ふっとカナコは窓ガラスに自分の姿が写っているのに気付いた。
周りに写っている子供たちよりも頭一個分は小さい。
 胸にあるべき膨らみは影も形もなく、おなかにいたってはくびれているどころかポッコリと出ている。
隣の男の子と比べてもなにも違いはない。
今でこそいかにも女の子、という恰好をしているが、服装を変え、髪を短く切れば、男の子に早変わりしてしまうだろう。
無意識のうちに唇をかんだ。

 自分の女性らしい体つきを鼻にかけていたわけではないが、アイデンティティの一つだったのだと気づいた。
美しく膨らんだ乳房も、きれいにへこんだくびれも、その形跡すらもない。
女とか男とか、その性の自覚すらほとんどない子供と同じになっているんだ。
 改めて見た自分の身体の幼さに涙が出そうになった。

(しかしこの子たちはいつまで騒いでいるつもりなのかしら…)

 ふと顔をあげると、フジワラはまだ児童たちの管理に手間取っていた。
フジワラが視線を外しただけでまた騒ぎ出す児童たちにカナコもまた困惑する。

(恨むべき相手ではあるけれど、こうも必死になっても手ごたえがないなんて同情も禁じ得ないわ)

 などと保護者のような感傷に浸っていたのもつかの間、カナコは妙な衝動が体を巡るのに気が付いた。

 周りにいる子供たちが先生の言うことも聞かずに思い思いに騒いでいる!
 私も彼らの真似をしたい!
 いや、しなければならない!

 普通に考えればそんな衝動が体を走ること自体、異常なのだが、それこそが仮想幼児脳の命令だった。
それは本来のカナコの意志よりも強くカナコの身体を巡り、おさえきれないほどに大きくなる。

(い、いや。だめよ。私ったらいったい何を考えているの?!)

 必死に大人の脳で制止を試みるも、その体の主導権はもはや仮想幼児脳のものだった。

「あのね、かなこね、がっこうにくるとちゅうでね、とっても、きれいなね、おはな、みたんだよ!」

 だれに聞かせるというわけでもなく、息を吐くように稚拙なおしゃべりが口から出てくる。
周りで騒いでいる児童たちを完全に真似た、いや、その特徴を的確にとらえ、誇張したような話し方だった。

(ち、違う!こんなことも、こんな話し方もしたくない!)

 どれだけ大人のカナコが心の中で悲鳴を上げようと、"幼いカナコ"はおしゃべりをやめようとはしない。

「それでね、きれいな、きれいな、しろいろだったの!」

 周りにいた数人の児童がカナコにどこか怪訝な顔を向ける。
当の本当の一年生ですらカナコの口調には何か違和感を覚えているようだった。
それもそのはずで、あくまでもカナコの口調は"大人のカナコ"が考えるコドモのイメージ像。
いわば演技がかった"コドモ像"であり、その大げさな言動に驚いているようだった。

 何か目的があって話しているわけでもなく、意図的に幼くされたその口調は、言葉を覚え始めたばかりの乳児が母親に語り掛ける様子にそっくりだ。
もちろん、カナコ本人がそのことを一番よくわかっていた。
延々とただ「騒いで先生に迷惑をかける」だけを目的にしたそのおしゃべりは自然とフジワラの耳にも入った。

「ユキヤマさん、おしゃべりはやめましょうね」

 いよいよフジワラの注意がカナコに飛んでくる。
気づいたときには、大声で話しているのはカナコだけとなっていた。

(私だってやめたいの。でもとめられない!さっきまでの一年生のイメージが頭から離れない)

「ユキヤマさん!」

 少し強めの口調で注意され、"幼いカナコ"はようやくおしゃべりをやめた。
強めの口調で注意されてやっとおしゃべりをやめるというカナコのイメージは自動的にその体に表出してしまうのだ。

 いつのまにかクラスの冷たい視線がカナコにささっていた。
この時期の子供たちにしてみれば、先生の言うことを最後まで聞かなかった、ということは"ダメな子"と同義だ。
今日が転校初日であることで、ただでさえクラスで目立っていた存在だったのに、おしゃべりまでやった子という印象は強く児童たちに残った。
一回りも幼い体格。
生活科での発表の失敗。
体調不良で保健室にいたこと。

 肉体的にも、精神的にもカナコはこのクラスで劣等生であることを完全に証明してしまった瞬間であった。

「ほら、かいだんがあるよ。きをつけて」
「わすれものない?なふだ、ちゃんとついてる?」
「くついれについたよ。じぶんのくつのばしょ、わかる?」
「きれいにはかないと、だめだよ。かかともふんじゃ、いけないよ」
 
 "同級生"の一年生から完全に年下扱いされながら、カナコはグラウンドに向かった。
その顔は屈辱と羞恥でぐちゃぐちゃになっていた。
 幼稚園児並みに小さいカナコには小学校の校庭ですら、国際競技場であるかのように大きく感じる。
そんな校庭にはカナコのいる一年一組のみならず、二組も集まっていた。

「はーい。みなさん、せいれーつ」

 フジワラと二組の担任が声をかける。
言われるがままに一年生は地べたに体育座りをする。
もちろん、その中にはカナコもいた。
 体育座り、それも地面に直接など大人であったころからは想像もできない行為だ。
しかし一年生にとっては当然の行為らしく、それを不信がっているのはカナコだけであった。

「ちゃんと、おちついてすわるんだよ」

 そんな様子を"だめな子"だからと勝手に理由づけた女の子が声をかける。

「う、うん…」

 もはや口を開けば赤ちゃんみたいな口調になってしまうカナコにそれ以上話そうという気力はなかった。
一年生の忠告を無批判に受け入れることに、幼児仮想脳のみならず、大人の脳までもが、幼児化してしまったのかと、錯覚まで覚えてしまうカナコであった。

「それじゃあ、XX保育園のみなさんが来ますよ。拍手でむかえてあげましょう!」

 ほかの一年生にひきづられるようにカナコも拍手をする。
ぞろぞろと三十名ほどの園児が、保育士につられ入ってきた。
さすがに幼すぎる子はいないようで、みな幼稚園児くらいの年齢だ。

 とはいえ、黄色い帽子をかぶり、指をくわえながら不安げに保育士のエプロンのすそをつかむその姿は、一年生というものがどれほど成長した段階にいるのかを如実に現わしている。

 赤ちゃんをやっと脱出したようなあどけない彼らを視界にとらえ、カナコは自分の身体にぶるりと強烈な電撃が走ったような感覚を覚えた。

 フジワラの悪魔のような笑みに気づいた人はだれもいない。
170:メづすりα :

2016/11/20 (Sun) 01:33:44


はい。
いいところで区切りました(笑

まずはたくさんの方から応援のレスを頂いたことに感謝します。
ありがとう!

 カナコは一年生ですので、授業は午前中で終了。
お昼を食べて下校となります。
つまりこの保育園との交流が最後の授業です。
やっと終わりが見えて参りました。

 次回か次々回の投稿で完結すると思います。
ではまたいづれ。
171:青年A :

2016/11/20 (Sun) 18:26:20

お疲れ様です。
カナコは更に幼くなりましたねぇ。
保育園との交流でどういう風に変わってしまうのかとても楽しみになりました。
お忙しいと思いますので、また気が向いたときにでも続きをお願いします。
気長に待ってまーす。
172:通りすがり :

2016/11/20 (Sun) 20:25:21

とても良かったです。続きが気になります。
173:_ :

2016/11/23 (Wed) 19:16:09

更新お疲れ様です。
しっかりと段階を踏んで幼くなっていくカナコの描写にとても興奮しました。
元が優秀であればあるほど出来の悪い子供に堕とされた際のギャップが大きくておもしろいです。
174:大八木 :

2017/02/05 (Sun) 09:29:47

かなこは立場的にも周りの子供たちより低くなりましたねえ。
続きが楽しみになる展開になってますし、続きがみたいです。
ぜひぜひお願いします。
175:シン :

2017/02/05 (Sun) 10:59:00

保育園児との交流でカナコがどう変わっていくのか。
かなり楽しみにしています。
無理がない程度でぜひお願いします。
176:青池 :

2017/02/05 (Sun) 21:38:55

カナコがここから1日の最後にどう変わるのか、すごく楽しみな展開になってますねぇ。
メづすりαさんが書きたいときにぜひ、続きをお願いします。
177:ゼル :

2017/02/18 (Sat) 10:58:31

最後のかなこに走った電撃のような刺激でかなこがどうかわってしまうのか。
すごく楽しみです!
続きを楽しみに待ってまーす
178:アヤマード :

2017/02/27 (Mon) 23:10:01

かなこのその後が気になりますねぇ。
ゆっくりでいいので続きまってますね。
頑張れるときに頑張ってくださればと思います。
179:베츙이 :

2017/03/12 (Sun) 04:05:26

(oOo)/ これは最高の小説!!
180:ファン :

2017/04/25 (Tue) 11:12:56

続きまってます
181:匿名希望 :

2017/05/13 (Sat) 15:59:52

女子中学生の話待ってます!
182:Ba :

2017/05/14 (Sun) 18:21:24

男子保育園児 続きまってます希望
183:メづすりα :

2017/05/16 (Tue) 14:35:44

いつもコメントありがとうございます。
今月中に『カナコ』の続きをうpします。
184:  :

2017/05/16 (Tue) 18:47:47

楽しみにはしていますが、無理はしないでくださいね
185:メづすりα :

2017/05/26 (Fri) 23:45:23

 平和な街に一台のパトカーが走っている。
凶悪な犯罪があったというわけではないが、防犯の一環としての活動だ。
ゆっくりとした速度で走りながら辺りに注意を払っている。
道行く人には笑顔があり、今日も犯罪とは無縁そうだった。
何よりのことではあったが、乗っている警察官ふたりの表情は明るいものではなかった。

「雪山先輩とはまだ、連絡つかないのですか?」

 パトカーを運転していた若い男がつぶやいた。

「そうね。今日もまったく音沙汰がないわ」

 助手席の女性が答える。
彼女はアキ。カナコの同僚であった。
同じ女性とだけあって、すぐに意気投合し友達となった。
 警察のなかではおそらくだれよりもカナコのことを知っているだろう。
だからこそ、カナコが突然失踪したことは不安だった。
ある犯罪組織を一斉検挙した直後のことだ。
彼らの残党からなんらかの報復にあったのではないかと、いやな想像ばかりが頭をよぎった。

「中野先輩。今日は小学校に行く日でしたっけ?」

 運転していた男性、鈴木が尋ねた。
地域住民を守る身としては子供たちの学び舎は最優先で守るべきものだ。
 とはいってももちろん学校の敷地に入り込むわけではない。
校門から下校する児童を見守るだけだ。
防犯週間として一週間それを続けることになる。学校に一応挨拶に行こうというわけだ。
 カナコのように犯罪者と直接やりあう機会はアキにはほとんどなかった。
交番で道案内をしたり、こうして児童を犯罪から守る仕事ばかりだ。
別に悔しいと思うことはなかった。
 勇ましく戦うカナコをかっこいいと思ったことはあったが、こうして地道な活動をしている方が性分に合っていると思っていた。

「今日は保育園も来ているようですね」

 校門の近くで車を止め、鈴木が言った。
校庭の柵からは小さな一年生と、それよりもさらに小さな幼児たちが見えている。
児童と園児はすぐに見分けることができた。
両方とも私服を着ているが、頭一つ分以上身長が違うし、何よりもかわいらしいひよこのような色の帽子を園児はかぶっている。

「うふふ。かわいらしいものね」

 カナコのことで少し神経がとがっていたが、無邪気な子供たちを見て気持ちが和らいだ。
アキの顔に笑みが漏れる。

「中野先輩は子供、すきなんですか?」

「ええ、大好きよ。特にあれくらいの年齢の子は純粋でとってもカワイイじゃない?」

 そう言って鈴木の顔を見た。なんだか複雑そうな顔をしている。

「その口ぶりから言うと、鈴木クンは子供が苦手みたいね」

「苦手というか…。まあ、得意ではないですね。何を考えているか分からなくて…」

 鈴木は苦笑いした。

「まあ、今週は防犯週間だし、得意になった方が良いわよ。これから一週間は毎日児童の登下校を見守ることになるわ」

「それくらいなら大丈夫ですよ。それでなくとも仕事となれば僕は全力でこなします」

 まじめな人だ、とアキは思った。
カナコのことは心配だが、そのことばかり気にしていても仕方がない。
自分には守るべき子供たちがいるのだから。
 顔をパンとたたきアキはパトカーを下りた。

 校庭には一年生と園児が複数のグループを作り簡単なゲームをしているようだった。
小学校の最年少として、若干の甘えが出てくる時期だ。
こうして園児とこのタイミングで触れ合わせるのは効果的だな、とアキは思った。
園児の方が人数が少ないようで、3,4人の一年生に対して園児が一人いる。
校庭の隅を歩いていながら、笑顔の子供たちを見、アキは気持ちが和やかになるのを強く感じていた。

(一年生って小さいけれど、保育園児はもっと小さいなあ。あれなら一年生もお兄さん、お姉さんの自覚が芽生えるかも)

 そしてふっとまた目をやった時、一つのグループが視界に入った。
背の高い三人の子供に対して、背の低い子が二人いる。

(おや、あの班は園児が二人いるみたいね。…あれ?でも帽子をかぶっていないような…)

 アキの視界に入ったグループには二つ小さな影がある。
男の子と女の子のようだ。男の子の方は黄色い帽子をしていたが、女の子はしていない。

(暑いから脱いだのかな?いや、でも小学校の名札を付けている。あの子一年生だ!)

 背の高い子、低い子がいてもなんら不思議はない。
他にも園児並みに小さな一年生もいたし、一年生並みに大きな園児もいた。
しかしなぜかあの女の子に対しては、最初から小さな一年生かもしれないという発想がなかった。
一年生だと分かった時に心底驚いてしまったのだ。
 あの女の子はなぜだか、大人びているようには思えない。
全身から幼いオーラとでもいうべきものがにじみでているのだ。
そのグループを見ていても、ほかの一年生は園児よりもむしろあの女の子に世話を焼いているように見える。
 きっと「妹分」なんだろうな、とアキは自分を納得させた。

 しばらく目線を向けていたせいだろうか。
その女の子がアキたちに気づき顔をこちらに向けた。
しばらくぽかんとしていたがハッと何かに気づいたようでこちらを凝視している。
何かを訴えかけるような必死な表情に見えた。
 警察官の格好が珍しいのだろうか。
アキは特に気にすることもなく、挨拶に向かった。
186:メづすりα :

2017/05/26 (Fri) 23:48:29

(早く、ここから抜け出さないと…!)

 カナコの焦りはもう限界に達していた。
午前中のほんの数時間一年生と居ただけで、大人としての行動は身を潜め、見るのも恥ずかしいくらい稚拙な行動しかできなくなってしまった。
目の前に保育園児がいるというこの状況でカナコに良い影響があるはずがない。
広い校庭に出たことで、教員の監視は教室ほどは厳しくなくなっただろう。
フジワラを含め、教員は三人しかいない。
保育士もいるが、そっちは園児の監視にてんてこまいで一年生まで見ている余裕はない。
抜け出すとしたらこの時間しかない。

 カナコは改めて顔をあげて、同じグループの一年生を見た。
名前を憶えているのは教室でカナコの隣になったケンタという男の子だけ。
リーダー格のようでこのグループも彼が仕切っている。
カナコが少しでも妙な動きをすると注意してくるのもこの子だった。
 グループの園児の世話に気が向いている間に、カナコはじりじりと間合いをとった。
1メートル、2メートルと少しずつ距離を離していくが、気づく様子はない。
あたりを見回すが、教員もカナコを視界にはとらえていないようだった。

(いける!)

 期待でカナコの胸が躍る。
校庭の隅に近づき身を隠せる遮蔽物などを確認する。
頭の中に完璧な逃走経路を描き、何度も慎重にイメージトレーニングをした。
問題はない。これでいけるはず。
 カナコは武器を持った犯罪者から身を隠し抜け出したことがあったことを思い出していた。

(まるであの頃のような緊張感ね…)

 昨日のことのように映像が浮かぶ。

(そして、そのあと仲間の援護で一気に逮捕したっけ…)

「デュクシッ!バキ!ズバーンッ!」

 ふっとそんなことを思い出した瞬間、幼い男の子が妄想で繰り広げるような擬音語がカナコの口から突いて出た。
慌てて、赤面しながら小さな手で口を押える。
まるでさっきまでヒーローごっこで遊んでいた園児たちのようだった。
犯人を捕まえた時のことを想像すると、シャドーボクシング(実際はそれとは程遠い可愛らしい動きだが)のようにパンチやキックが「デュクシ」という口での効果音とともに繰り広がってしまう。
カナコの妄想の中では目の前の"わるいひと"たちが「デュクシ」というたびに吹き飛び、「うわー」「まいったー」と断末魔を上げる。

(って、そんなことしている場合じゃない!)

 カナコは首をぶんぶんと振った。
ちらりとグループのほうを見る。
幸いなことに稚拙な擬音語を披露していたことは誰にも気づかれていないようだった。

(よし、まだいける)

 妄想の中でまた"わるいひと"が現れそうになったが、なんとか自分を強く持つ。
 ぐっと足に力をこめ、最初の一歩を踏み出した。
このまま走り抜ければ誰にも気づかれることなく、この学校を抜け出すことができる。
警官時代、毎日のようにジムに通い身体を鍛え走り込みを続けてきた。
トレーナーについてもらい、フォームも徹底的に矯正した。
よしんば見つかったとしても追いつかれることはないだろう。
カナコはそう思った。
 しかし実際には全く異なっていた。
地面を蹴るたびにかかとまでつけるせいでバタバタと鈍い音がする。
腕のスイングはほとんどなく、蹴り上げも不十分で速度はほとんど出ていない。
重心移動がうまくいかず、走るたびに身体がゆらゆらと左右に動き、前方への力になかなかならない。
 園児たちのちょこちょこ走りを見ていたせいで、カナコの陸上選手のような美しいフォームは、走り方など全く知らない幼児のそれへと上書きされてしまっていたのだ。
さらに追い打ちをかけるような出来事が起こる。

「ふぎゅっ」

 数メートル進んだところでバランスを崩し前方に派手に転倒してしまった。
おまけに今にも泣きだしてしまいそうな情けない声まで出してしまう。

「んぐ、ふぐ…」

 嗚咽が漏れ、痛みでその場から動けなくなる。
なんとか泣き出してしまうことはなかったものの、転んだ時の鈍い音でグループの視線がカナコに向いてしまった。

「あ!カナコちゃんがころんじゃった!」

 女の子が宣伝でもするかのような大声を出す。

「カナコさん。だいじょうぶ?」

 リーダー格のケンタが近寄って声をかける。
グループの園児も心配そうにカナコを見つめていた。

「うう…」

 必死に抑えていた涙がじわりとこみあげてきた。
警官だったはずの自分が児童から逃げ出そうとして、その挙句に園児にも心配されるような醜態をさらしてしまったのだ。
その涙は擦りむいた膝の痛みとは別のものだった。

 あふれ出る涙を手をグーの形にして何度も何度も拭いた。
それでもぼろぼろと涙は流れ視界はゆがむ一方だった。
逃走計画が失敗した悲しさ。本来ずっと年下の、守るべきはずの子供に介抱されてしまう悔しさ。
それらは抑制の利かない幼児化した精神をいとも簡単に打ち砕き、カナコの涙を止めることはなかった。
 なんとか声は上げずにいるものの、少しでも気を抜けば、うわーんと幼児を通り越して赤ちゃんのような大号泣をしてしまいそうだった。

「だいじょうぶだよ。ほら」

 そう聞こえたかと思うと、背中を優しくさすられた。
リーダー格のケンタだった。
そのままポケットに手を入れると、カナコにハンカチを差し出した。
 ドキッとした感覚がカナコに走る。
同時に胸の奥がきゅっと締め付けられるような、お腹の中できゅんと何かがうごいたような…
その感覚にカナコは覚えがあった。
二つほど年上の、今の彼氏に初めて出会った時。
大人びていて、冷静で、優しくて、それでいて時に情熱的な「彼」に惹かれたあの瞬間にそっくりだった。
 カナコの頬がボッと熱を持った。
いつの間にか涙も止まっている。
大人の魅力に包まれた「彼」に初めて会った時のことが思い出される。

(この感覚…まるで彼…)

 花に囲まれたような匂いがふわりとカナコを包んだ。
うっとりした表情でハンカチの主を改めて見上げる。

 幼い顔の小学一年生が心配そうに見つめている。

 はっと夢から醒めた。

(私ったら、なに?こんな小さな子供に…)

「どうしたの?おちついた?」

 ケンタが再び声をかける。
そのたびにカナコの胸はドキリと高鳴った。

(いや。待って。私は大人の魅力のあるひとが好きなの!こんな小便臭いガキなんかじゃ…)

 カナコは懸命に「彼」のことを思い出す。
お互いに多忙な中、ひまを見つけデートをしたこと。
なんでもないただのランチで至福なひと時が過ごせたこと。
 そして恐ろしい事実に気づいた。
「彼」のことを思い浮かべたところで全くときめかなくなってしまっているのだ。
カナコに嫌な汗が流れる。
何度も「彼」とは夜を共にした。
都合が合わず、なかなか会えなかった時期、「彼」のことを思い浮かべ自身を慰めたこともあった。
そんな事実がまるで嘘のようだった。
 どこが魅力的で何に惹かれたのか、その記憶ははっきりとあるのに、いまやそれはぴくりともカナコの食指を動かさない。
まるで年齢の全く違う男性のように。
そこまで考えて嫌な予感がした。

(もしかして私、恋愛対象までおこさまになってるの?!)

 改めてケンタを見直す。
やっと乳離れしたようなあどけない顔。
大人の魅力など片鱗も見当たらない。
しかしカナコの心臓はドキンドキンと痛いほど高鳴った。
 くりくりしてまん丸な目に、リンゴのような赤みの抜けていないほっぺ。
どう考えても幼児のそれで、「大人の魅力」などとは程遠い。
かわいいといえばかわいいが、恋愛の対象になるかといえば全く違う。
…はずであった。
かわいらしい子供のパーツのはずなのに、カナコにはそれが大人のときに「彼」に感じていたような「大人の魅力」のように感じてしまう。
もちろんそれが幼く未熟なものだと分かっているはずなのに、仮想幼児脳はこれでもかと、カナコの胸を締め付けた。
 ケンタは確かに小学一年生にしては整ったスッとしている顔だちをしているかもしれない。
しかし子供のそれに変わりはないはずである。
そんなあどけない顔に「大人の魅力」を感じてしまい、胸を高鳴らせてしまうのである。

(だめ!そんなの)

 カナコは必死にケンタから視線をそらし、なるべく遠くを見た。
そしてその時、校庭の隅を歩く二人の影が目に入った。
その姿にカナコは目を丸くする。
紺色のピシッとした制服。警察官だったのだ。
しかし本当にカナコが驚いたのはその制服ではなく、人物だった。
 同期で親友の中野アキ。そして後輩の鈴木。
すぐにそれの意味することは分かった。
大人のカナコを知っている人物が現れたのだ。
カナコが失踪してから、もう数日経っている。本格的な捜索はされていなくとも、カナコという名前には敏感になっているはずだ。
ここで自分が名乗りを上げれば、ここから連れ出してくれるかもしれない。
 自分を助けてくれるかもしれない最後の希望。
懐かしさと期待からしばらくカナコは彼らから視線を外すことが出来なかった。
187:メづすりα :

2017/05/26 (Fri) 23:52:04

 校庭の隅でカナコはいじけた子供みたいに膝を抱えて休んでいた。
当人としてはそんな幼稚な恰好で座りたくないのだが、気づいたら身体が勝手にこの恰好をとってしまうのだ。
泣きはらした目、頬の涙の跡、収まっていないひゃっくり。
膝を抱えた格好と相まって、どうみてもママに叱られていじけている幼女だった。
 カナコも今の自分がまさにそう見えることを分かっている。
しかしどんなに上品に座ろうとしても、幼児仮想脳がそんな行動を許してくれるはずもなかった。
おしとやかに座っていたはずなのに、まるで強い力で引っ張られるようにぐぐぐ、と足が広がっていってしまう。
どんなに閉じようとしても言うことは聞かなかった。
もともと丈の短いスカートとだけあって、完全に下着は丸見えになってしまった。
もちろんそこに見えるのは大人の色気のあるものではなく、かわいらしいクマさんがプリントされた厚ぼったい生地のものだ。
しかしカナコにとって最も屈辱的だったのは、それに気づいた男の子が全く興味なさげにしていることだった。
 全く女性としての魅力も色気もない、と断言されたようなものだ。
鼻にかけていたつもりはないが、カナコは自分にことを美人のほうだと思っている。
異性を振った経験はあったが、ふられたという経験はまずなかった。
しかし今、カナコはそれに等しい経験をしてしまったのだ。
そんな屈辱を味わったうえでなおも、足を閉じることのできない自分が恨めしかった。

「ふふふ…雪山さん、落ち着いたかしらぁ?」

 フジワラがにやつきながらカナコに声をかけた。
それが受け持ち児童を心配する教員の顔ではないことは、カナコが一番よくわかっていた。

「いやっ。かなこ、せんせのこと、きらい!」

 いじけた子供そのままの言葉がでてくるが、もちろんカナコ本人が望んだことではない。
ぷいっと顔を大げさに背ける行為など、さきほど視界に入っていた園児そのままだ。

「うふふ。どうかしたの?あっ。気にしなくても良いのよ。女の子がヒーローごっこで遊んだからってなにも変じゃないんだから」

「な…!」

 フジワラの言葉に再びカナコは顔を真っ赤に染めた。
それは単純に恥ずかしいところを見られたから、という理由だけではなかった。
仮にも警察官として、息を殺して辺りには注意を払っているはずだった。
自分の行動は誰にもばれてはいないと思っていた。
しかしそんな様子はフジワラには筒抜けだったのだ。
 カナコの洞察力はもはや一年生や園児のそれと変わらない。
そんな事実にカナコはようやく自分で気が付いたのだった。

「ほら、もう元気になったでしょう?みんなのところに戻りましょう。ケンタくんも待っているわよ」

 ケンタくん、と聞いただけでカナコの胸はきゅっとしまった。
心臓がまたしてもドキンドキンという。
そんなカナコの様子にフジワラは一瞬意外そうな顔をしたが、すぐにニタリと笑った。
そしてカナコにの耳元にまで顔を近づけると、ねっとりとした口調でつぶやく。

「うふふふ。恥ずかしがることなんて全くないわ。私は大人だ、なんておませさんなこと言っていたけど、ちゃんと"年相応"のことができるじゃない。ケンタ君は元気いっぱいでとっても良い子よ。あなたが好きになるのも無理ないわ」

「や。けんたくんのはなしはしないで!」

 体が燃えるように熱を持った。
あんな幼いガキなんか、と思っているはずなのに閃光が走ったように頭がくらくらしてしまう。

「そんなこと言っちゃだめよ。素直になりなさい。さあ、子供は好きな子ができたらどうするの?」

「しょうらい、およめさんにしてってたのみにいくの!」

 無意識のうちにカナコから声が出る。

「うふふ。正解よ。じゃあ、あとは何をするか分かるわね?」

「え!?」

 フジワラに誘導されてしまった。
カナコの幼児仮想脳はそれが子供のすることだと認識してしまうとその通りに実行してしまう。

「そ、そんなこと、できないよぉ!」

 必死で抵抗を試みるがフジワラにはすでに仮想脳はそれを実行しようと、第一歩を踏み出そうとしていた。

「大丈夫よ。"子供のすること"として当然のことよ。しっかり自分の気持ちを伝えて行きなさい」

 軽くとんとカナコの背中を押すフジワラ。
"子供のすること"という言葉に痛いくらい突き動かされてしまう。
やらなければいけないという恐ろしいほどの義務感にかられる。
 むこうでグループを取り仕切るケンタの方へと足が動いていく。
一歩一歩近づくにつれ、ケンタの顔が近づくにつれ、カナコの息は激しくなる。
やっと第一次成長を終えたようなあどけない子供に自分が欲情しているのが手に取るように分かった。
カナコは激しい恋心と同時にそれと同じくらいの屈辱に身を焼かれていた。

 これは仮想脳がやっていることなんだ、私の意志じゃない!
全てフジワラのせいなんだ!

 必死に自分に言い聞かせるがケンタの顔が目の前にまで迫ると、そんな理性は吹き飛んでしまいそうだった。

「あう…、あの、けんた…く…ん…」

 名前を自分で読んだだけで頭が沸騰して真っ白になってしまう。
グループ活動に熱中していたケンタだったが、声に気づいてカナコの方を向いた。
カナコと目が合ってしまう。

「カナコさん。もうおちついたの?」

 ケンタ君が名前を呼んでくれた!
しかも目があってる!

 恋する乙女そのままにカナコはキュンキュンする。
一年生の児童を相手に頬をリンゴのように真っ赤にさせるカナコに大人の面影など全くない。

「かなこね、けんたくんのこと、だいすきなの!しょうらいね、オヨメサンにしてほしいの!」

 緊張を振りほどいて、目をぎゅっとつむって叫んだ。
ケンタの「うん、いいよ。オヨメサンにしてあげる」という言葉を信じて。
ケンタは驚いて目を丸くする。
周りの女の子たちもはっと一瞬息を飲んだが、すぐに状況を察して無言でケンタの方を向いた。

「え?なに?こいびとごっこ?」

 よく状況をつかめないケンタはキョトンとしていた。

「ごっこじゃない!、かなこ、ほんきなのっ!」

 期待とは全く違う反応にカナコの情緒はぐらりと不安定になる。

「おれのこと、すきってこと?ええ?でも、おれカナコさんみたいなコとはちょっとむりだな」

 自分の思っていることをはっきりと言う。
子供特有のことで悪気はないのだが、その言葉はカナコは深く傷ついた。
一瞬ぽかんとした顔になったが、すぐに涙がたまり始める。
周りの女の子たちが慌ててカナコに近づいてきた。
カナコはがっくりと膝から落ち、また大きな声を出して泣き始めた。

「けんたくん、ひどい。もっといいかたとかあるでしょ。かなこちゃん、ないちゃったじゃない!」

 すこしこの女の子は成長が早いのか、ケンタを責めるような口調だ。

「そんなこといわれたって…。おれ、なんていえばよかったんだよ?」

 自分の気持ちを正直に話しただけのに、泣かれてしまったことにケンタは不満げだった。

「あらあら~どうしたの?また雪山さん転んじゃったの?」

 白々しい演技をしながら、フジワラがカナコに歩み寄ってきた。

「ケンタくんがカナコちゃんをなかせましたー」

 女の子が最も端的に状況を説明する。

「おれのせいじゃないよ!」

 ケンタはすぐに反論した。
もちろんフジワラはこの結果を想定済みなのであくまでその言い分は聞くふりだ。

「どうしたの?詳しく状況を話せる人はいる?」

 もはや泣き崩れ再起不能になったカナコをしり目に、フジワラはケンタから真剣に話を聞いた。
その間女の子はずっとカナコに優しい言葉をかけながら背中をさする。
唐突なハプニングが起きたことにグループの園児も不服そうだった。
そしてちらりと軽蔑もふくんだ目をカナコに向ける。
一年生のお姉さんのくせにせっかくの楽しいイベントをめちゃくちゃにした、と。

 威厳もなにもないどころか、フジワラにいいように弄ばれ、本気の告白を一年生からごっこ遊びだと思われてしまった。
今のカナコは「泣く」以外の行動を思いつくことは出来なかった。


 時間は少しさかのぼる。
フジワラは警察官のアキと鈴木とすれ違っていた。。

「本日はお忙しい中、どうもありがとうございました」

 組織の一員であったことも全く感じさせず、フジワラは一教員として警察である二人に頭を下げた。
さも、偶然通りかかっただけのように。

「いえいえ、こちらこそ。明日からどうかよろしくお願いします」

 アキも笑顔で対応する。
鈴木もつられる形ではあったが、丁寧にお辞儀をした。

「あの、もしお二人に時間がありましたら子供たちと少し話してみませんか?」

 アキと鈴木は顔を見合わせた。
何の因果か、今二人には時間があったのだ。

「あ、いや、もちろん無理を言うことはできませんが、お巡りさんというとやはり子供たちのあこがれの職業なので…」

「いえ、大丈夫ですよ。私たちなんかで子供たちが笑顔になれるなら」

 その反応にフジワラは満足げだった。
その裏に悪魔のような歪な笑みがあったことに二人は気が付かない。
 
 フジワラが二人を児童たちのもとへ案内している時だった。
校庭の隅に一人の女の子の姿が見えた。
グループから外れ、一人で遊んでいるようだった。
 口で効果音を発しながら、手足をぶんぶん回している。
女の子というよりは男の子の遊びのようだったが幼さが増してかわいらしい。
園児でなく一年生のようであったが、その幼い空気感は園児よりも強く感じた。

あの、幼い感じのした一年生だ、とアキはすぐにきづいた。
 そしてそのあいらしい行動に思わず母性に満ちた笑みが漏れた。

 するとその女の子はぼたりと転んでしまったではないか。
少し痛みに震えているようでなかなか起きてこない。

「あら、ちょっとごめんなさい」

 フジワラは二人をおいて女の子に近づく。
アキと鈴木も心配そうに女の子を見守った。

 それが探していた元先輩のカナコであるとも気づかずに。

(さあ、カナコちゃん。あなたのお仲間がやってきたわよ。いったいどんなかわいらしい言葉で自分が大人だと説明するのか、とっても楽しみだわ)

 うちに秘めていた黒い笑いが漏れそうになるのを抑えるのにフジワラは必死だった。
188:メづすりα :

2017/05/26 (Fri) 23:54:12

ようやく投下することができました。
いつも大量のコメントありがとうございます。

思ったよりずるずると長引いてしまったので、まだまだ続きそうです。

ではまた。
189:ファン :

2017/05/27 (Sat) 21:21:24

待っていました。
更新ありがとうございます。
毎日チェックしていた回がありました。
これからの展開に期待です。
190:베츙이 :

2017/05/28 (Sun) 01:42:48

やっぱりおもしろい!
これからの展開が期待されます!
のびやかに待つんです:)
191:  :

2017/05/28 (Sun) 18:13:05

更新お疲れさまです。
異性の好みさえも変換させられ、どんどんと本物の幼児に近づいていく様子に本当に興奮します。
元同僚との邂逅がどれほどの屈辱や無力感に満ちたものになるのか、楽しみにしております。

  • 名前: E-mail(省略可):
  • 画像:

Copyright © 1999- FC2, inc All Rights Reserved.